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暴かれた罪 4
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翌日の午前中に、約束通りにイグナシオとアルデンは訪ねてきた。四人で祈りの間へ入り、クレイ以外は座った。陛下のイグナシオと枢機卿のアルデンの分の椅子を用意したのだ。
「では、決定した内容を話す」
「「はい」」
イグナシオの言葉に、二人は緊張気味に返事をする。これからどうなるか、聞かされるのだ。
「ほんの一握りだが、本当に呪いの箱庭が存在していたのを知る者がいるので、消え去った事を隠さず公表する事にした。もちろん、消したのはランゼーヌの働きとする。よって男爵の爵位を与える」
「「………」」
イグナシオの言っている意味がわからず二人は黙り込む。
「あなたがあの場所を解放したのは、事実ですからね。褒美です」
アルデンがそういうと、クレイは目を見開いた。
「それってもう私と結婚をしなくていいという事ですか……」
「べ、別にそういう意味ではない。二人が望むなら婚約しなおすといい」
クレイが驚いて言った言葉に、更に驚く事をイグナシオが言う。
「し、し直すとは? 書類に不備でもありましたでしょうか?」
(まさか、不正がバレた!?)
ランゼーヌは、最悪な事態を考えた。
一度は審査は通ったが、何かをきっかけに改めて見て、筆跡が自分自身のではなかったのがわかったのではないかと思ったのだ。
(あ、でも、それなら私に聞くよね? 婚約誓約書を持って来て確認を取るよね? 取るよね!?)
ランゼーヌは、訴え掛ける様にイグナシオを見つめた。
「そういう訳ではない。名が変わったら書類も変更しなくてはいけないという事だ」
イグナシオの説明にランゼーヌはホッとする。
「その前にこちらをご確認下さい」
アルデンは、ランゼーヌに紙を渡した。
「男爵位証明書……」
そこには、こう書かれていた。
一つ、これを受領時から『ランゼーヌ・ワンラーア』男爵と名乗る事を許可する。ただし二重に爵位を持てない。
一つ、この爵位は、聖女に与えられる特別な爵位の為、リダージリ国に限り有効である。
一つ、授与された者の血が途絶えた時は、廃爵となる。
「そこに書かれている通り、聖女の功績を称え与えられる爵位であり、あなたの子へ襲爵が可能です。そして、ネビューラという名は名乗れなくなります」
「あ、はい……。ありがとうございます」
受け取った証明書を見つめつつランゼーヌはお礼を言った。
クレイは、複雑な思いでそれを見つめる。結局自身は何もしていない。助ける事も協力する事もできなかった。
「それで先ほどの話へと繋がります」
「先ほど?」
「はい。前の婚約誓約書はランゼーヌ・ネビューラの名で署名してありますので、無効になります。ですので、まだ婚約の意思があるのならば、ランゼーヌ・ワンラーアで署名願います」
『あ、俺っちの名が入っている! こいつらわかるやつじゃん♪』
ワンちゃんは、嬉しそうにランゼーヌの辺りを飛び回る。
「はい。でもその……」
ランゼーヌがチラッとクレイを見た。一度は婚約はしてくれたが、婚約を続ける意思がクレイにあるかどうかランゼーヌは不安があり彼を見たのだ。
「私は、ランゼーヌ様が私のままでいいと言うのなら、署名させて下さい」
クレイの言葉に、ランゼーヌは顔を真っ赤に染めた。
「では二人の意思があるという事で、それぞれ署名をお願いします」
小さなテーブルも休憩用に祈りの間にはあり、その上でランゼーヌは『ランゼーヌ・ワンラーア』と署名した。次にクレイが署名を終えると、アルデンが二人の証人として署名する。
「本来、聖女様が婚約なさる場合は、私が証人として署名するのです。なのでこれで終了となります。ちなみに婚姻も同じですので、結婚する事になった場合は私に会いに来てください」
「は、はい……」
二人そろって頬を染め見つめあう。
「あぁ、何だか暑いなぁ」
わざとらしくイグナシオは言い、顔の前でパタパタと手を仰ぐふりをした。
更に二人の顔は、真っ赤になる。
「一応、一年は聖女の決まりなので、しばらくはここにこのまま居て頂く事になります。宜しいでしょうか」
「はい。よろしくお願いします」
つまりは、一年は聖女扱いという事だ。
「さて、話は以上だ。ピュラーア殿、居るのなら姿を現してほしい」
イグナシオが言うと、スーッとピュラーアは彼も見える様に姿を現した。
「何か御用かしら?」
「もう彼女とは、契約者ではなくなったか?」
「えぇ。名前が変わりましたので。まさか、こういう方法を取るとは」
「これから少し私と二人で話さないか?」
「いいでしょう。姿を消してついて行きましょう」
「宜しく頼む。では二人とも改めておめでとう。幸せにな」
「「ありがとうございます」」
まさかイグナシオから祝福の言葉を貰えると思っていなかった二人は、驚きつつも礼を言って頭をさげる。
「婚約者ではありますが、ここにいる間は聖女と騎士です。節度をわきまえ行動をお願いします。何はともあれ、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
アルデンの祝福にも礼を言うと二人は嬉しそうに頬を褒め、祈りの間から出て行く二人を見送った。
「では、決定した内容を話す」
「「はい」」
イグナシオの言葉に、二人は緊張気味に返事をする。これからどうなるか、聞かされるのだ。
「ほんの一握りだが、本当に呪いの箱庭が存在していたのを知る者がいるので、消え去った事を隠さず公表する事にした。もちろん、消したのはランゼーヌの働きとする。よって男爵の爵位を与える」
「「………」」
イグナシオの言っている意味がわからず二人は黙り込む。
「あなたがあの場所を解放したのは、事実ですからね。褒美です」
アルデンがそういうと、クレイは目を見開いた。
「それってもう私と結婚をしなくていいという事ですか……」
「べ、別にそういう意味ではない。二人が望むなら婚約しなおすといい」
クレイが驚いて言った言葉に、更に驚く事をイグナシオが言う。
「し、し直すとは? 書類に不備でもありましたでしょうか?」
(まさか、不正がバレた!?)
ランゼーヌは、最悪な事態を考えた。
一度は審査は通ったが、何かをきっかけに改めて見て、筆跡が自分自身のではなかったのがわかったのではないかと思ったのだ。
(あ、でも、それなら私に聞くよね? 婚約誓約書を持って来て確認を取るよね? 取るよね!?)
ランゼーヌは、訴え掛ける様にイグナシオを見つめた。
「そういう訳ではない。名が変わったら書類も変更しなくてはいけないという事だ」
イグナシオの説明にランゼーヌはホッとする。
「その前にこちらをご確認下さい」
アルデンは、ランゼーヌに紙を渡した。
「男爵位証明書……」
そこには、こう書かれていた。
一つ、これを受領時から『ランゼーヌ・ワンラーア』男爵と名乗る事を許可する。ただし二重に爵位を持てない。
一つ、この爵位は、聖女に与えられる特別な爵位の為、リダージリ国に限り有効である。
一つ、授与された者の血が途絶えた時は、廃爵となる。
「そこに書かれている通り、聖女の功績を称え与えられる爵位であり、あなたの子へ襲爵が可能です。そして、ネビューラという名は名乗れなくなります」
「あ、はい……。ありがとうございます」
受け取った証明書を見つめつつランゼーヌはお礼を言った。
クレイは、複雑な思いでそれを見つめる。結局自身は何もしていない。助ける事も協力する事もできなかった。
「それで先ほどの話へと繋がります」
「先ほど?」
「はい。前の婚約誓約書はランゼーヌ・ネビューラの名で署名してありますので、無効になります。ですので、まだ婚約の意思があるのならば、ランゼーヌ・ワンラーアで署名願います」
『あ、俺っちの名が入っている! こいつらわかるやつじゃん♪』
ワンちゃんは、嬉しそうにランゼーヌの辺りを飛び回る。
「はい。でもその……」
ランゼーヌがチラッとクレイを見た。一度は婚約はしてくれたが、婚約を続ける意思がクレイにあるかどうかランゼーヌは不安があり彼を見たのだ。
「私は、ランゼーヌ様が私のままでいいと言うのなら、署名させて下さい」
クレイの言葉に、ランゼーヌは顔を真っ赤に染めた。
「では二人の意思があるという事で、それぞれ署名をお願いします」
小さなテーブルも休憩用に祈りの間にはあり、その上でランゼーヌは『ランゼーヌ・ワンラーア』と署名した。次にクレイが署名を終えると、アルデンが二人の証人として署名する。
「本来、聖女様が婚約なさる場合は、私が証人として署名するのです。なのでこれで終了となります。ちなみに婚姻も同じですので、結婚する事になった場合は私に会いに来てください」
「は、はい……」
二人そろって頬を染め見つめあう。
「あぁ、何だか暑いなぁ」
わざとらしくイグナシオは言い、顔の前でパタパタと手を仰ぐふりをした。
更に二人の顔は、真っ赤になる。
「一応、一年は聖女の決まりなので、しばらくはここにこのまま居て頂く事になります。宜しいでしょうか」
「はい。よろしくお願いします」
つまりは、一年は聖女扱いという事だ。
「さて、話は以上だ。ピュラーア殿、居るのなら姿を現してほしい」
イグナシオが言うと、スーッとピュラーアは彼も見える様に姿を現した。
「何か御用かしら?」
「もう彼女とは、契約者ではなくなったか?」
「えぇ。名前が変わりましたので。まさか、こういう方法を取るとは」
「これから少し私と二人で話さないか?」
「いいでしょう。姿を消してついて行きましょう」
「宜しく頼む。では二人とも改めておめでとう。幸せにな」
「「ありがとうございます」」
まさかイグナシオから祝福の言葉を貰えると思っていなかった二人は、驚きつつも礼を言って頭をさげる。
「婚約者ではありますが、ここにいる間は聖女と騎士です。節度をわきまえ行動をお願いします。何はともあれ、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
アルデンの祝福にも礼を言うと二人は嬉しそうに頬を褒め、祈りの間から出て行く二人を見送った。
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