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予想外な来客 4

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 「ランゼーヌ様にお会いに来たとお聞きしました」

 アルデンが聞くと、モンドはそうだと頷いた。

 「はい。家に戻らないと書いてあったものですから」
 「本来なら一度支度の為に戻られ、その後、専用の馬車でお迎えに上がる事になっておりますが、そうしますと聖女だと周りに知れてしまいますので、お泊りの宿から直接目的地へ向かわれました」
 「もう向かっただと? では王都やここにはいないと?」
 「はい。おりません」

 モンドは、やはりアーブリーに代筆させておいてよかったと思う。

 「で、こんなに急いでお越しになったご用事とはなんでしょうか? 私が、ご本人にお伝えしておきますが」

 アルデンは、ランゼーヌの家族が訪ねて来るかも知れないと、係の者にネビューラ家の者が来たらすぐに伝える様にと伝達してあったのだが、まさか通達が届いたその日に訪ねて来るとは思っておらず、内心驚いていたがモンドがどのような人物か見極める為、注意深く観察していた。

 「いえ。場所を教えていただければ、自分で行きますので……」
 「残念ながら家族といえ、お勤めが終わるまでは会う事はできません」
 「なに? 親なのに会えないと?」
 「はい。決まりなので出来ません」

 アルデンの言葉にモンドは、驚く。本来、聖女は10歳でなるものだ。まだ幼い娘に会う事が許されないなどあるだろうか。何か会わせたくない理由があるのではないか。
 モンドは、そう思い口を開こうとした。

 「あなたが特別なわけではございません。まずはこれを読んで下さい。聖女になった方の家族にお渡しする規約です」

 アルデンは、聖女に会えないと書かれているページを開き、まずはその文を読ませる。
 これを持って、アルデン自体が尋ね調書するつもりでいたので、手間が省けた。

 「ここに書いてある通り、聖女になると人と接触する事ができなくなります」
 「だが、本来は10歳の娘ではないか。酷ではないか」
 「ごもっともですが、親に会うと帰りたいと言い出す事が多いのです。そして、親も連れて帰ろうとします。気持ちはわかりますが、代わりの者はおりません。お金で解決出来る事でもないのです。ご理解下さい」

 アルデンは、軽く頭を下げる。

 「……そうですか。わかりました」

 思ったより物分かりがいいと、アルデンは思った。
 何をしに来たか何となく察しはついている。こんなに急いで来たのだからランゼーヌの将来の事だろう。聖女だと言う事も出来ず、このままだと婚姻が遅れるどころか出来ないかもしれない。親としては黙ってはいられないだろう。
 だがそうなったのは、精霊の儀をさせずにいた彼らにも責任がある。

 婚約の時期はさまざまだが、この国では女性の結婚は15歳から18歳ぐらいが普通だ。20歳を過ぎると初婚の相手を見つけるのは難しい。だからこそ婚約をするのだが……。
 ランゼーヌには、婚約者はいなかった。

 「で、ご用事とは? お会いする事はできませんが、伝える事は出来ます」
 「いえ……特段伝える事はないのですが」
 「そうですか。では、私どもに何かお聞きしたい事があったという事でしょうか?」

 娘に会いに来ただけなのかと不思議に思う。
 もしかして、娘を溺愛しており外に出したくない為に精霊の儀を受けさせていなかったのか? などと一瞬頭によぎったが、それにしてはすんなりと会えない事を了承した。

 「お金の件ですが……」
 「お、お金?」
 「はい。聖女になると、支給されると聞いたのですが……」

 少し歯切れが悪いが、目はギラギラとしているモンドを見てなるほどとアルデンは頷く。
 お金の無心に来たのかと。

 「お金は、聖女様に対する対価です。お給金としてお出しするものです。本来の令嬢は10歳からお勤めを致しますので親権者の方にお支払いしますが、ランゼーヌ様は成人されておられますので、ご本人にお支払いする事になります」

 ランゼーヌからの要望は、アルデンも承知していた。

 「な! 確かにランゼーヌは成人したがまだ子供も同然。私が管理しないとちゃんと出来ない子だ!」
 「問題ありませんよ。買い物にも行く事はできませんから。無駄使いはできません」
 「……で、では、ランゼーヌに聞いてくれ。そうすれば……」
 「確認済みでございます」
 「なに!? 貴様、ランゼーヌに何を言った? 自分からお金が欲しいなど言うはずがない!」

 ランゼーヌは、家がお金に困っている事を知っている。だからお金をその借金に当てようと思ってくれるはず、いやそう説得しようと思っていたのだが、すでにアルデン達に言いくるめられていると憤った。

 「私どもは、何も言っておりませんよ。聖女である間、使う予定がないので一括払いでよいとの事です。ご本人がそう言っておられますので、こちらとしてはそのように手配しております」
 「……では娘に、一括ではなく都度にしてはどうかと。そのお金は私が預かっておくからと伝えて頂いても」
 「それは構いませんが、なぜそのように?」
 「いつも私がお金の管理をしているので……」
 「そうですか。ではこれを機に、自身にお任せしてみてはいかがでしょうか? どうせ帰宅するまでは使えないお金です」
 「それは、あなたに関係ない話ではないですか?」

 その言葉に、ふうとため息の様な息をアルデンは吐く。

 「聖女になった方の家族を私どもはお調べしているのですが、あなたは親ではありますが男爵家の継承者ではありませんね。成人した彼女が継承する予定なはずです。聖女になってもその手配はできますよ。ただ、聖女である間、代わりを務めるのがあなただと言う事には変わりはありませんが」

 アルデンが取り急ぎ調べた結果、モンドは何度も爵位の継承の申請をしていたのがわかったが、それは許可されていない。
 アルデンは、ランゼーヌはモンドの子供ではあるが、ネビューラ家の代表でもあると言ったのだ。その者が決めた事をモンドがとにかく言う筋合いはないと。

 「……わかりました。では、彼に会えませんか? クレイ・パラキードに」
 「え?」

 モンドは、作戦を変える事にしたのだ。
 婚約誓約書を提出すれば、彼は婚約者・・・だ。そうすれば、クレイにランゼーヌが聖女だと言える。
 勝手に提出したとしても、聖女と結婚出来ると知れば怒るどころか喜ぶだろう。
 何せ『精霊の儀』の騎士になっているぐらいなのだからと、勝手にモンドはそうとらえていた。

 「ふう。そう言えば彼も知り合いだとか。ですが、彼でもランゼーヌ様にはお会いできませんよ」
 「婚約者だとしてもですか?」
 「え? 婚約者?」
 「えぇ、これを今から提出しますから」

 モンドは、婚約誓約書をテーブルの上にスーッと置いた。
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