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騎士と令嬢 4

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 とんとんとん。
 ドアがノックされ声が掛かる。

 「順番が参りました。扉を開けますが宜しいでしょうか」
 「はい。どうぞ」

 ランゼーヌが返事を返すと、クレイが扉を開けた。

 「お待たせしました。儀式の間にご案内します」
 「は、はい」

 緊張気味にランゼーヌは、返事を返す。
 クレイの後に二人がついて行くと、奥の扉の前に来た。

 「失礼します」

 クレイは、そう一言声を掛けるとドアを開ける。
 中には、三人の司祭が部屋の真ん中で立っていた。

 「ランゼーヌ嬢、奥へどうぞ。おつきの方は、私と一緒に壁側でお待ち頂きます」

 クレイに促され頷いたランゼーヌは、司祭が待つ部屋の中心へと向かう。
 クレイとリラが中に入ると、クレイはドアを閉めた。二人は、ランゼーヌを見守る。

 部屋は円で角がない。周りの壁には、ドアが八つ等間隔にある。その一つのドアから三人は入ってきた。
 そして、天井はステンドグラスになっていて、光が差し込んでいる。
 緊張して進むランゼーヌには、中央の白い物体が気になって仕方がなかった。

 (ワンちゃんに見えるんだけど……)

 中央には、丸いテーブルの様なモノが設置されていて、その上にふわふわと白いモノが浮いている。

 (やっぱりワンちゃんだわ。なぜここに!)

 丸いテーブルの向こう側に司祭が居た。
 ランゼーヌは、その近くに来てワンちゃんを凝視する。

 「よくぞ、参られた。そんなに緊張しなくても大丈夫ですぞ」
 「これから我々が祈りを捧げます。その間、そこにあるテーブルの上の線を右手の人差し指でなぞって下さい。それだけで宜しいです」
 「あ、はい」
 『待ちくたびれた~。本当にもう面倒な事を人間はするもんだ』

 なぜか、ワンちゃんは文句を言っていた。

 「では、どうぞ」

 司祭の一人がそう言うと、二人の司祭が祈りを捧げ始める。
 ランゼーヌは、恐る恐る右手をテーブルに出した。

 (このままなぞっていいの?)

 ランゼーヌは、ドキドキしながら司祭に言われた通り、右手人差し指でテーブルに書かれた線をなぞる。
 それに楽しそうにクルクルと踊るようにワンちゃんがついて回り、ランゼーヌも楽しくなって微笑んだ。
 最後まで線をなぞると、線が光りテーブルの縁も光った!

 「きゃ、何?」
 「なんと!!」

 驚いたランゼーヌは、小さく悲鳴を上げクレイに振り向くと、彼は驚いた顔つきで凝視している。
 もしかして……何かやらかした?

 「あなた様は、せい……うん?」
 「何だこれは?」
 『何だとは何だ。俺っちは精霊のワンだ』
 「え? ワンちゃんが皆に見えてるの?」
 『あぁ、見せている。ピュラーア様の指示で』
 「「………」」

 ごほん。
 司祭がワザとらしく咳をする。

 「話しをする精霊など会った事がありません」
 「いやその前に、この姿は……」

 司祭達が、ワンちゃんを怪しんで見ていた。

 (そっか。七色の蝶の姿じゃないから)

 『仕方がない。これなら信用するか?』

 ワンちゃんが、七色の蝶の姿に戻った。
 司祭達が、おぉと声を上げる。

 『ランゼを聖女として、人間で言う祈りをしてほしいと伝えに来た』

 ワンちゃんが、犬の姿になり司祭に告げた。

 『場所は、すぐそこだ』

 ワンちゃんが右腕を伸ばすと、司祭達が振り向く。

 「ま、まさか、呪いの箱庭!?」

 司祭達が、顔を見わせた。

 「の、呪い?」
 『人間が勝手にそう呼んでいるだけで、別に呪われてはいない』
 「勝手にだと。本当に精霊なのか?」
 「どちらにしても、騎士の成り手がいないだろうな」
 『別に俺っちがいるから騎士などいらない』
 「規則だから必要だ」
 「いやその前に、枢機卿にご報告を……」

 (なんか混乱しているわ。って。私は聖女に選ばれた事になるのかしら?)

 「あの、失礼します」

 何だと皆が振り向くと、クレイがランゼーヌの隣に来ていた。

 「差し出がましいとは思いますが、精霊の騎士の成り手がいないのなら、私がなります」
 「「え!?」」

 司祭もランゼーヌもクレイの申し出に驚いた。司祭達は、顔を見合わせる。

 「とにかく、一旦控室へ戻って頂いてよろしいか。我々は、枢機卿にお伺いをしてくるので」
 「わかりました。控室にてお待ちしております。ランゼーヌ嬢、一度戻りましょう」
 「え? あ、はい……」
 『よし、戻ろう』
 「「!?」」

 ワンちゃんが、ランゼーヌについて行こうとすると司祭達が驚いた。

 「どこに行った?」
 『見えるままだった』

 司祭達が、きょろきょろと辺りを見渡している。

 (見えなくなったのね……)

 「さあ、行きましょう」

 クレイが促すので、騒ぐ司祭を残し儀式の間から三人は出た。

 「あ、あれが精霊ですか? 遠くからでしたのでよく見えなかったのですが、まるで七色の蝶のようでした。でもあの白いお姿はいったいなんだったのでしょうか。司祭様も驚いておられましたし」

 通路を歩きながらリラが興奮して言う。

 「あははは。そ、そうね」
 「どうぞ、お入り下さい」

 クレイが、控室のドアを開けたので二人が入室すると、クレイも中に入りドアを閉めた。
 外で待たないんだと二人が思っていると――

 「先に、要件を聞いておきます」
 「え? 要件ってなんでしょうか」
 「儀式が終わったら相談があると言っておりましたので。あの様子だと、聖女として活動する事になるかもしれませんので」
 「………」

 リラとランゼーヌは、顔を見合わせた。そう言えば、そう言ったんだったと。
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