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46君は僕の女神

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 ふっとカナ君が顔を上げ私を見た。私達は目が合う。

 「ルナに再会出来てよかった……」

 見つめられてそんな事を言われて、私は顔が火照っているのがわかる。

 「うん……。わ、私もハル君達にまた会えてよかった。魔法使いにちゃんとなれたし……」

 照れながらも返事を返す。

 「うん。そうだね。でも僕にとっては違うんだ」

 ち、違うって何? 私の胸はドキドキと高まる。

 「マリアさんのいう通り、ルナは女神かも……」

 更に照れる事をさらりと言って来る。って、もしかして今ってシマールモードなんですか?

 「えっと、私はそんな出来た人間じゃないよ。昔のイメージって美化されや……」
 「違うよ。昔の事じゃないよ。出会ってからの話」

 耐え切れなくて俯き否定すると、もっと驚く事をハル君は言った。
 もう心臓がドキドキで苦しいんですけど!

 「部室で僕達がウィザードだって言った時、都合のいい人のつもりなのって怒っていたよね?」

 うん? いきなり話が変わった?

 「えっと……。ごめんね。今はそんな風に思ってないから……」
 「それに、結局初めての課外授業に間に合わなかった時も、私服で来てるって抗議していたよね?」

 って、一体何なの? 女神からほど遠い話になってますが……さっきの甘いムードはどこへ?
 私のドキドキを返して~!

 「……事情しらなかったからゴメンね。って、もしかして怒っていたの?」

 謝るんじゃなくて、謝らせるつもりだったの?
 そう思ったけど、ハル君はぶんぶんと首を横に振る。

 「違うよ! 嬉しかったって話!」

 え! 凄い事を知ってしまった……。ハル君はM……。

 「ごめん。無理……」

 私は、SもMも無理です。

 「無理って? 僕はウィザードの活動を始めてから生活がガラッと変わったんだ。勿論、学校生活も……」
 って、また話が飛んでますよ! もう何を言いたいのかわからないのですが……。
 「仕事で学校も休みがちに。でも僕は、和泉学園に入る事は決まっていたし、特に気にしていなかったんだけど、周りの人たちが僕の事を調べて……」
 「もしかして、ウィザードだとバレたの?」

 私の問いにハル君は頷いた。
 その同級生の人、凄いね。よくわかったよ。

 「僕がシマールだと気が付いて、金髪のウィッグを頭にかぶせられて、否定出来なくなったんだよね。中学の時は、眼鏡してなかったし……。そして協力したいって言い出して……」
 「よかったじゃない」
 「よくなんかないよ! 彼らは僕が仕事で約束を守れなくても文句も言わず許してくれたし、休んだ時間のノートも見せてくれた……」

 それのどこが不満なのかわからないのですが……。普通は喜ぶと思うんですけど? やっぱり……M。どうしよう共感が出来ません。

 「……でもそれは、僕、佐藤陽翔はるきだからじゃなく、シマールだからなんだ。小学校からの友人でさえ僕の事をそう見ていた……。自分の居場所がなくなった気がして、段々と学校に行くのが嫌になった。そして不登校になって……。精神的にまいちゃったみたいだんだ。皆に迷惑を掛けた……」
 「そうだったんだ……」

 なんて声を掛けていいかわからなかった。
 Mだなんて疑ってごめんね! ハル君!
 アイドルも大変なんだね。

 「結局、転校して仕事は土日だけに、今のスタイルになったんだ……。そしてお父さんがマネージャーになって管理する事になって。おじさんは軌道に乗ったら、カナを転校させて東京に呼ぶつもりだったみたい。勿論僕もね。でも僕がこんな事になって、その計画は失敗に終わったみたい」

 そう言って私を見つめて来た。

 「僕はカナが羨ましかった。カナをカナとして見てくれて支えてくれるマリアさんがいて……。そして僕の目の前に現れた! 僕を僕として見てくれて支えてくれるルナが!」

 あ……今までの話が繋がった。特別扱いしない私が現れたって言いたかったんだ。Mだなんて疑ってごめんなさい! でも私支えになっているかな?

 「だから嬉しかったんだ。あの時言った事は、裏を返せば僕を僕として見てくれているからこそなんだって! シマールだと知った後でも、僕として――陽翔として見てくれているって!」
 「うん……。確かにハル君をハル君として見てはいるけど、支えになれるかどうかは……」
 「僕にとってはそこが重要なんだよ。僕として見てくれる事が! 出会えてよかった本当に……」

 そう言って熱いまなざしでハル君は見て目てくる。納まったドキドキがまた高まり始める。そして暫く見つめ合った……。

 『なあ、話は終わったか?』
 「うわー!」
 「きゃー!」

 タフィーくんが突然声を掛けて来て、心臓が止まるかと思う程驚いた!
 ちょっと! 今いい雰囲気だったでしょう!

 「い、いつからそこに……」
 『僕にとってはそこが重要なんだよ。僕として見てくれる事が! 出会えてよかった本当に……ってところからかな』
 「うわー! 復唱しないで!」
 『自分で聞いたのに変な奴』

 タフィーくんは、見つめ合う直前からいたらしい。質問に素直に答えたタフィーくんに復唱されたハル君は、顔を真っ赤してうずくまっている。
 あぁ……。せめてその恰好をしている時は、シマールを演じてほしいんだけど……。どんどんシマールのイメージが崩れていく……。

 「戻ろうか……」

 立ち上がったハル君は、照れながらそう言うと風呂敷を手に歩き出した。カナ君達と途中で合流する。

 「どうだった?」
 「うん。ばっちり」

 カナ君とハル君の会話がちらっと聞こえて来た。
 ばっちりだったのかな、あれ? もしタフィーくんに途中で止められていたら、ハル君はMっていう事になるところだったんだけど……。
 私の心の突っ込みを知らない二人は、ニッコリ微笑みあっていた。
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