70 / 71
第69話 魔女でよかった
しおりを挟む
「女装ね……変なの」
「何が?」
「私は男装してるけど、それが当たり前で女性の姿になりたいと思った事がないから。本当に男として育てられた。だから神官になるのも当たり前だと思っていた。マカリー様も父も神官だったからね」
「女性に戻りたいと思った事すらないって事? その……結婚とかは?」
ルナードは、首を横に振った。
「できるわけないと思っていた。男として生きている以上無理だし。女としてなんて更に無理。私、魔女になりたくなかったから……」
「まあ魔女がどういう扱いを受けるか知ってはいるが、マカリー様の話では王によって殺される事はないって。まあ自分の妻を魔女から選んでるんだから当たり前だけど。ただ、世間に殺されるだろうって」
ルナードは俯いた。
自分が女性だと知られれば、今まで積み上げて来た物が一瞬で壊れる。そうルナードは思っていた。それなのにディアルディは、魔女の母親を持ち偏見はないと言って安堵したのだ。
「そっか。魔女でも大丈夫だと思ったからなのかも」
「え?」
「ずるいよね。あなたは逃げ場だったのかもしれない……」
「いいよそれで。それって俺しかいないって事だよね?」
「え!?」
なぜそんな捉え方!
「不安だったんだ。神官って男ばかりだろう? その……違う奴を好きになったらどうしようかと」
「ないわよ、それは。自分が女性だとバレるのが怖いから。私だけではなく、家族も世間に殺されるわよ」
「……君が、魔女でよかったって俺は思っているけどね」
「え!?」
「だって君が魔女だったから結婚を承諾したところもあるはずだよ。一応王族だからね」
そう言ってディアルディは、ルナードを見つめた。
「だから魔女を嫌わないで」
「き、嫌わないでって……」
「君は精霊に愛されているじゃないか。王族の俺なんかよりもずっと。それだけは、ずるいと思う」
「ずるいって……」
「ねえ、俺だけの魔女になって」
「え?」
「他の人の前では男の神官で、俺の前でだけ女になって――俺だけの魔女に。君を幸せにする。魔女でよかったって思ってもらえるように」
「ありがとう」
今、思ったかもしれない。魔女でよかったって。
本当なら普通の女性として、どこかにお嫁に行っていたはずで。でも魔女はいやだったけど、この力は嫌ではなかった。
初めてルナードは、魔女を受け止められた。
魔女になってほしいなんて言われる事があるなんてと不思議な変気分だった。そして、女性として認められた事を嬉しく思っている自分に気がついた。
「ありがとう。魔女になってなんて言われるなんて思わなかった」
「俺って世間知らずだから」
ルナードは、ディアルディに抱きしめられていた。
どうせなら女性の姿のルナードも抱きしめてみたいと密かに思うディアルディだった。
「何が?」
「私は男装してるけど、それが当たり前で女性の姿になりたいと思った事がないから。本当に男として育てられた。だから神官になるのも当たり前だと思っていた。マカリー様も父も神官だったからね」
「女性に戻りたいと思った事すらないって事? その……結婚とかは?」
ルナードは、首を横に振った。
「できるわけないと思っていた。男として生きている以上無理だし。女としてなんて更に無理。私、魔女になりたくなかったから……」
「まあ魔女がどういう扱いを受けるか知ってはいるが、マカリー様の話では王によって殺される事はないって。まあ自分の妻を魔女から選んでるんだから当たり前だけど。ただ、世間に殺されるだろうって」
ルナードは俯いた。
自分が女性だと知られれば、今まで積み上げて来た物が一瞬で壊れる。そうルナードは思っていた。それなのにディアルディは、魔女の母親を持ち偏見はないと言って安堵したのだ。
「そっか。魔女でも大丈夫だと思ったからなのかも」
「え?」
「ずるいよね。あなたは逃げ場だったのかもしれない……」
「いいよそれで。それって俺しかいないって事だよね?」
「え!?」
なぜそんな捉え方!
「不安だったんだ。神官って男ばかりだろう? その……違う奴を好きになったらどうしようかと」
「ないわよ、それは。自分が女性だとバレるのが怖いから。私だけではなく、家族も世間に殺されるわよ」
「……君が、魔女でよかったって俺は思っているけどね」
「え!?」
「だって君が魔女だったから結婚を承諾したところもあるはずだよ。一応王族だからね」
そう言ってディアルディは、ルナードを見つめた。
「だから魔女を嫌わないで」
「き、嫌わないでって……」
「君は精霊に愛されているじゃないか。王族の俺なんかよりもずっと。それだけは、ずるいと思う」
「ずるいって……」
「ねえ、俺だけの魔女になって」
「え?」
「他の人の前では男の神官で、俺の前でだけ女になって――俺だけの魔女に。君を幸せにする。魔女でよかったって思ってもらえるように」
「ありがとう」
今、思ったかもしれない。魔女でよかったって。
本当なら普通の女性として、どこかにお嫁に行っていたはずで。でも魔女はいやだったけど、この力は嫌ではなかった。
初めてルナードは、魔女を受け止められた。
魔女になってほしいなんて言われる事があるなんてと不思議な変気分だった。そして、女性として認められた事を嬉しく思っている自分に気がついた。
「ありがとう。魔女になってなんて言われるなんて思わなかった」
「俺って世間知らずだから」
ルナードは、ディアルディに抱きしめられていた。
どうせなら女性の姿のルナードも抱きしめてみたいと密かに思うディアルディだった。
1
お気に入りに追加
136
あなたにおすすめの小説
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
あなたとはもう家族じゃない
ヘロディア
恋愛
少し前に結婚した夫婦だが、最近、夫が夜に外出し、朝帰りするという現象が続いていた。
そして、その日はいつもより強く酒の匂いがし、夫の体温も少し高く感じる日であった。
妻にとっては疑わしくて仕方がない。そして…
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
私は婚約者に冷たくされてるけど、溺愛されている。
ほったげな
恋愛
私の婚約者・アリスタルフは、冷たくぶっきらぼうな態度を取る。嫌われているのかなと思っていたのだが、実は好きな子にぶっきらぼうな態度を取ってしまう性格だったようで……。彼は私のこと好きらしいです。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
婚約者に忘れられていた私
稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」
「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」
私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。
エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。
ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。
私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。
あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?
まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?
誰?
あれ?
せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?
もうあなたなんてポイよポイッ。
※ゆる~い設定です。
※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。
※視点が一話一話変わる場面もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる