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第69話 魔女でよかった

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 「女装ね……変なの」

 「何が?」

 「私は男装してるけど、それが当たり前で女性の姿になりたいと思った事がないから。本当に男として育てられた。だから神官になるのも当たり前だと思っていた。マカリー様も父も神官だったからね」

 「女性に戻りたいと思った事すらないって事? その……結婚とかは?」

 ルナードは、首を横に振った。

 「できるわけないと思っていた。男として生きている以上無理だし。女としてなんて更に無理。私、魔女になりたくなかったから……」

 「まあ魔女がどういう扱いを受けるか知ってはいるが、マカリー様の話では王によって殺される事はないって。まあ自分の妻を魔女から選んでるんだから当たり前だけど。ただ、世間に殺されるだろうって」

 ルナードは俯いた。
 自分が女性だと知られれば、今まで積み上げて来た物が一瞬で壊れる。そうルナードは思っていた。それなのにディアルディは、魔女の母親を持ち偏見はないと言って安堵したのだ。

 「そっか。魔女でも大丈夫だと思ったからなのかも」

 「え?」

 「ずるいよね。あなたは逃げ場だったのかもしれない……」

 「いいよそれで。それって俺しかいないって事だよね?」

 「え!?」

 なぜそんな捉え方!

 「不安だったんだ。神官って男ばかりだろう? その……違う奴を好きになったらどうしようかと」

 「ないわよ、それは。自分が女性だとバレるのが怖いから。私だけではなく、家族も世間に殺されるわよ」

 「……君が、魔女でよかったって俺は思っているけどね」

 「え!?」

 「だって君が魔女だったから結婚を承諾したところもあるはずだよ。一応王族だからね」

 そう言ってディアルディは、ルナードを見つめた。

 「だから魔女を嫌わないで」

 「き、嫌わないでって……」

 「君は精霊に愛されているじゃないか。王族の俺なんかよりもずっと。それだけは、ずるいと思う」

 「ずるいって……」

 「ねえ、俺だけの魔女になって」

 「え?」

 「他の人の前では男の神官で、俺の前でだけ女になって――俺だけの魔女に。君を幸せにする。魔女でよかったって思ってもらえるように」

 「ありがとう」

 今、思ったかもしれない。魔女でよかったって。
 本当なら普通の女性として、どこかにお嫁に行っていたはずで。でも魔女はいやだったけど、この力は嫌ではなかった。

 初めてルナードは、魔女を受け止められた。
 魔女になってほしいなんて言われる事があるなんてと不思議な変気分だった。そして、女性として認められた事を嬉しく思っている自分に気がついた。

 「ありがとう。魔女になってなんて言われるなんて思わなかった」

 「俺って世間知らずだから」

 ルナードは、ディアルディに抱きしめられていた。
 どうせなら女性の姿のルナードも抱きしめてみたいと密かに思うディアルディだった。
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