上 下
26 / 71

第25話 同じ不安を持つ者

しおりを挟む
 「王都なんて久しぶりね」

 揺れる馬車の中、ラルーが流れる景色を見つつ嬉しそうに言った。

 「本当に、私も出席して宜しいのですか? 見習いですよ?」

 見習いに降格したルナードだったが、今日は神官の制服だ。
 今日は王都で、神官の会議兼親睦会あり、神官長であるマカリーはそれに出席する。それに名指しでルナードも呼ばれたのだ。
 若手の神官も出席する親睦会にだ。

 「見習いに降格したと言っても内々の事だ。すぐに神官に戻す。つまり名簿上、神官だ」

 「え!? そうなのですか?」

 「マイトラさんの配慮に感謝するように。結婚の儀が遅れないようにとの事だ。よかったな」

 よくないだろう!! マカリー様は、本当にどうする気だよ!

 チラッとルナードは、横に座るディアルディを見た。彼を一人で置いて来る事も出来ないので一緒に連れて来たのだ。親睦会には、婚約者として一緒に出席する。

 後戻りできない様に、外堀を埋めてないか?

 今更ながらルナードは、ある一つの疑念があった。それは、前にマカリーが言った、ルナードに幸せになって欲しいと言う言葉だ。
 もしそれが本当ならば、ディアルディとくっつけようという考えもあるかもしれない。秘密を持った者同士共感するかもと思ったかもしれないが、彼にはルナードが特別な力を持った者だと知れている。

 マカリー様の考えがわからない。彼は、魔女に対して偏見とかがない者なのか? それとも魔女自体、知らないのか? だったら私が女性だと知って、そのままって事もあるかもしれないが……しれないが!
 ど、どうしたらいいんだ。

 ルナードは、戸惑いがあった。ただフリをして過ごす。もしかしたら、彼の事情が解決したら婚約も解消するつもりかもしれないと思っていたが、今日婚約者だと公開するのだからそれはない。

 変な話、女だとバレれば体の関係を迫って来るかもしれない。
 絶対にバレてはいけない!

 王都までの道のりは一時間強だが、今日は王都に一泊の予定だ。

 「私、着いたらお買い物して行くわ。ルナード、あなたはちゃんと、彼女をエスコートしてあげるのよ」

 「わかってますよ」

 ディアルディも内心どうしたらいいのだろうと思っていた。
 命を狙う者に居場所がバレたのは明白。そして、堂々とルナードの婚約者だと今日、公開するのだ。
 もしかしたらずっと彼を騙し続けなければいけない。
 いやそれどころか、自分のせいで命を落とすかもしれないのだ。

 精霊を味方につけていたとして、もし相手も精霊を使って来たら俺も加勢するしかないだろうな。そうしたら……。

 婚約者だと発表してしまえば、神官長の孫だ。そうそう婚約破棄などできない。

 彼はどう思うのだろうか。俺が、男だとわかったら……。

 それぞれ、不安を持ったまま婚約発表に至る事になった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

シンメトリーの翼 〜天帝異聞奇譚〜

長月京子
恋愛
学院には立ち入りを禁じられた場所があり、鬼が棲んでいるという噂がある。 朱里(あかり)はクラスメートと共に、禁じられた場所へ向かった。 禁じられた場所へ向かう途中、朱里は端正な容姿の男と出会う。 ――君が望むのなら、私は全身全霊をかけて護る。 不思議な言葉を残して立ち去った男。 その日を境に、朱里の周りで、説明のつかない不思議な出来事が起こり始める。 ※本文中のルビは読み方ではなく、意味合いの場合があります。

私は愛する婚約者に嘘をつく

白雲八鈴
恋愛
亜麻色の髪の伯爵令嬢。 公爵子息の婚約者という立場。 これは本当の私を示すものではない。 でも私の心だけは私だけのモノ。 婚約者の彼が好き。これだけは真実。 それは本当? 真実と嘘が入り混じり、嘘が真実に置き換わっていく。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字は存在します。 *不快に思われれば、そのまま閉じることをお勧めします。 *小説家になろうでも投稿しています。

とろけるようなデザートは、今宵も貴方の甘い言葉。

篠原愛紀
恋愛
「30歳までに結婚できなかったら、結婚してください」 ついそんな言葉を吐いた私に、彼はあっさりと了承した。 「30歳までなんて面倒くさい。今すぐでいいだろ」 過保護な兄や親のせいで、全く男性と縁のなかった私は、兄の元家庭教師の喬一さんとスピード結婚することになりました。 医療機器メーカーの事務職員  南城 紗矢 26歳 × 外科医  古舘 喬一 32歳 なんで私と結婚したのか疑問だったけど、彼の秘密をしってしまった。 今宵も彼の甘いデザートに、心ごと餌付けされています。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

遅咲きの恋の花は深い愛に溺れる

あさの紅茶
恋愛
学生のときにストーカーされたことがトラウマで恋愛に二の足を踏んでいる、橘和花(25) 仕事はできるが恋愛は下手なエリートチーム長、佐伯秀人(32) 職場で気分が悪くなった和花を助けてくれたのは、通りすがりの佐伯だった。 「あの、その、佐伯さんは覚えていらっしゃらないかもしれませんが、その節はお世話になりました」 「……とても驚きましたし心配しましたけど、元気な姿を見ることができてほっとしています」 和花と秀人、恋愛下手な二人の恋はここから始まった。 ********** このお話は他のサイトにも掲載しています

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】異世界で婚約者生活!冷徹王子の婚約者に入れ替わり人生をお願いされました

樹結理(きゆり)
恋愛
ある時目覚めたら真っ白な空間にお姫様みたいな少女と二人きりだった。彼女は冷徹王子と呼ばれる第一王子の婚約者。ずっと我慢してたけど私は婚約したくない!違う人生を歩みたい!どうか、私と人生交換して!と懇願されてしまった。 私の人生も大したことないけど良いの?今の生活に未練がある訳でもないけど、でもなぁ、と渋っていたら泣いて頼まれて断るに断れない。仕方ないなぁ、少しだけね、と人生交換することに! 見知らぬ国で魔術とか魔獣とか、これって異世界!?早まった!? お嬢様と入れ替わり婚約者生活!こうなったら好きなことやってやろうじゃないの! あちこち好きなことやってると、何故か周りのイケメンたちに絡まれる!さらには普段見向きもしなかった冷徹王子まで!? 果たしてバレずに婚約者として過ごせるのか!?元の世界に戻るのはいつ!? 異世界婚約者生活が始まります! ※2024.10 改稿中。 ◎こちらの作品は小説家になろう・カクヨムでも投稿しています

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

処理中です...