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第10話 懲りないダンザル

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 「ルナード、終わったらきなさい」

 少し険しい顔で、神官副長のマイトラに奥に来るように言われ、ルナードは、はいと返事を返す。

 あいつ、言いに来たのか。こりないやつだな。まあ傷つけたからな……。

 呼び出された理由はわかっていた。ダンザルが、ルナードに襲われたと言ってきたのだろうと察しはついた。
 ため息を一つつくと、仕事を終わらせたルナードは、神官長室に出向く。

 トントントン。

 「ルナードです」

 「入りなさい」

 「失礼します」

 深々と礼をして中に入ると、やはりダンザルがいた。

 「ルナード。呼び出された理由はわかるな?」

 「はい」

 マカリーに問われ、ルナードは素直に頷いた。

 「なぜ、彼を傷つけた?」

 「申し訳ありません」

 深々とルナードは、頭を下げた。

 「謝りなさいと今は言っていない。理由を述べなさいと言っているんです」

 副長のマイトラが言うも、ディアルディの事は言いたくなかった。言えば、ここに確認の為に連れて来られるだろう。怯えていたディアルディをこの場には連れて来たくはないのだ。

 「申し訳ありません。言えません」

 「ふん。自分の女に話しかけられただけで、キレて襲って来たんだよ」

 こいつ、何言ってやがる!

 頭を下げたままルナードは、怒りで手をギュッと握りしめた。

 「頭を上げなさい、ルナード」

 マカリーにそう言われルナードは、頭を上げた。本当は上げたくなかった。上げれば、ダンザルを睨み付けられずにはいられない。

 「な、なんだよ。言いたい事があれば言えばいいだろう?」

 「……あなた、二度も私を怒らせたいのですか?」

 見せた事のない様子のルナードに、マイトラは驚いた。
 ルナードは、ダンザルが自分を困らさせる為に、ディアルディに近づいた事はわかっていた。だから次はないと忠告をしたのだ。けど彼にはそれが効かなかった。

 「何があったか話なさい」

 マカリーに問われ、ルナードは溜息をついた。

 「彼が、彼女を襲ったからです」

 「襲ったぁ? ちょっと街を案内していただけだろう?」

 「あんな場所に案内したのですか?」

 「あんな場所?」

 マイトラの復唱に、ルナードは頷く。

 「人気のない岩場です。街の外れです」

 「けど、自分の意思でついて来たんだぜ?」

 「そんな場所に連れて行かれるとは思っていなかったのでは?」

 「ところで、彼女とは誰の事です」

 マイトラの問いに、ルナードは俯く。

 「ディか?」

 マカリーの問いに、静かにルナードは頷いた。

 「ディとはどなたです?」

 「先日ルナードと婚約したディアルディという者です。すでに一緒に暮らしています」

 「今、初めてお聞きしました」

 マイトラは凄く驚いていた。
 ルナードは、他の者と違って、独身を通し神官を全うするように見えていた。つまり、女性に気を取られた事などなかったのだ。

 「嫌々、みたいだったけど? なら断ればいいのに」

 「神託が下ったのだから仕方がないだろう? 私にはどうにもできない」

 「それは、本当ですか? マカリーさん」

 「えぇ、本当です」

 この嘘つきめ!

 しらーっと本当だというマカリーを一瞬キッと睨み付けるルナードだった。
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