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8話

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 「本当に美人よね。私が男だったら惚れていたでしょうね。でも、あなたとは結婚しないわよ」

 私は、わざとフフンと言う顔つきをして言ってやった。

 「な……私だってあなたとなどお断りよ!」
 「まあ意味をご理解していらっしゃらない? 見掛け倒しだと言ったのよ。高貴なお方は、中身を重視するのよ。恋愛結婚が出来るからと言って、誰も彼も良いってわけではないのよ」
 「そうだな。僕はシャルルの全てに惚れているけどね。でもそれは、僕が見て来た彼女だ。高貴なお方は、見えない部分も探る。だから君が言った様に、彼らはあなたの美貌に惚れたのだろうね」
 「な、何よ。まるで見た目だけ良いっているように聞こえるのですけど! 公爵や殿下に見向きもされないからって、そんな事を言ってるのでしょう。負け惜しみじゃない!」

 顔を真っ赤にしてシャーロット嬢が吠える。

 「あら嫌だわ。負け惜しみを言っているのはあなたではありませんか。告白されるですって? あり得ないわ。だってあなたでは公爵夫人も殿下の妻も務まりませんもの。学園の事すら知らなかったあなたではね!」
 「な……」
 「高貴なお方は学園に行くのは当たり前で、それ以上の教育を身に着けておられるのよ。私達の領土を管轄しなくてはいけないのですからね。それをサポートして支える力がなくては、配偶者は務まりませんわ」
 「やめないか! お前は、苦労せずぬくぬくと育ってきた。だからシャーロットの苦労がわからないのだろう!」

 何ですって!
 それをあなたがいいますか!

 「ゴラン様あなたは何を言って……」

 文句を返そうとするレイモンドを手で制し、私はお父様を睨みつけた。初めて本気でお父様に、憎悪の念を抱いたわ。
 
「お父様。私がこの方々を紹介された事に胸を痛めていないと思っていらっしゃるの? 赤字だから何をしても無駄と思っていたのでしょうけど、お母様を支えようとは思わなかったのですか?」
 「見下していたのはそっちだろう? 仮当主にもしなかったではないか!」
 「それは、お母様が亡くなった後の話じゃない! 私が言っているのは、その前の話よ。この国では、お父様の様に婿入りしている方はごまんといるわ。騙されたって言うけど、お父様のご両親はお父様の為に……」
 「だから! 両親まで騙して――」
 「それを、彼女に言うのはお門違いではありませんか? あなたからの発言からすると、彼女こそ被害者になりませんか?」

 ヒートアップしてきた私達を落ち着かせる為でもあったのでしょう。レイモンドは静かにそうお父様に言った。
 お父様は、本当はお母様やツッピェ侯爵に恨み言を言いたいのでしょう。けど、ツッピェ侯爵には立場上、面と向かっては言えない。

 「失礼ですが、彼女といえグルーン伯爵家と一緒に仕事をするにあたり、色々と調べております。ツッピェ侯爵を通しゴラン様が結婚をしたのを存じております。そして、お二人がその当時お付き合いしていた事も」

 レイモンドがそう言えば、お父様とメーラ夫人が驚いた顔つきになり、お父様が私を見た。

 「私が知ったのは、昨年です……」
 「そうか……」
 「ゴラン様。あなたに縁談をと申し出て来たのはあなたのご両親ですよ」
 「な! そんなはずはない。彼女と交際しているのを知っていた」
 「だからこそです。あなたがぞっこんになっているのを知ったご両親は、ツッピェ侯爵が領土の売買の話を持ち掛けて来た時に、あなたの事も相談したそうです」

 レイモンドの言葉に、お父様が目を見開く。

 「相談って……私は彼女となら平民になっても構わなかった。彼女と結婚したかったのだ」
 「けど、彼女に話すと身を引くと言っていなくなったからあなたは、グルーン伯爵家に婿入りした。ご両親は安堵したご様子だったと伺っています」
 「でたらめを言うな! いや、ツッピェ侯爵が都合のいい様に言っているだけだ! 現に私の子を授かり一人で育てていてくれた。彼女は、私の子を身籠ったせいで、誰とも結婚できずにいたのだぞ!」

 お父様はそう信じているようで、真剣な顔をこちらに向けている。これからお話する内容は、お父様にとって残酷な事かもしれないわね。
 でもこのままではいけない。
 知ってでもなお、彼女達と一緒にいると言うのならそれが真実の愛という事なのでしょう。

 「そうね。お父様の言う通りだわ。彼女に確認してみましょう。メーラ夫人。お父様が言っている通りなのですか?」
 「……私は、ゴランからしか当時の話を聞いておりませんの。ですから、詳しくは知りませんわ」
 「いえ、そこではなく、あなたが身を引いた理由です」
 「え……」
 「本当にお父様の為でしたの?」

 驚いた顔をしてすぐさま俯くメーラ夫人。

 「えぇ。私と結婚すれば平民になってしまう。せっかく伯爵家に婿入りできるチャンスでしたもの。子供を身籠ってしまったと、結婚した彼には言えませんでしたわ」
 「そう。でもね、婚姻前にそういう関係になるのって普通はあり得ないと思いますの。こういう結果を生む事になりますから」
 「それは、自業自得だという事か!」

 私がメーラ夫人に鋭い視線を送りながら言えば、憤怒した様子を見せるお父様。
 けどメーラ夫人は、怒っている様子はない。どちらかというと、焦っている様子ね。

 「えぇ。お父様に関して言えば」
 「なに? どういう意味だ」
 「狙いがそれだったって事よ」
 「意味がわからないのだが……」
 「僕から話すよ。彼女は複数の男性とお付き合いしていた平民だった」
 「な……何をいっている……」

 驚いた様子で言葉を発するお父様だけど、レイモンドの少し憐れんだ表情を見た為か、動揺した様子を見せメーラ夫人に振り向いた。

 「君は、男爵令嬢だった。そうだよな」
 「まあ、なぜ確認をしますの? 当たり前ではありませんか」
 「彼女は、ゴラン様と別れた後お付き合いしていた男爵に、子を身籠ったと言って男爵家と結婚する事ができた」
 「な、何を言っている! 彼女は私と初婚のはずだ」
 「貴族との結婚は、記録が残るのですよ。メーラ夫人」
 「……か、勘違いでしょう」
 「調べたとお伝えしましたよね?」
 「あなたは、本当は身籠ったと言ってお父様と結婚しようと思っていた。けど、お母様との結婚話が出たとお父様から聞いた時に、赤字の話も聞いたのでしょう。だからお父様の前から姿を消したのよね」
 「ゴラン様が結婚した時と同じごろ、あなたも結婚した記録が残っています。正確には、男爵が平民のあなたと結婚した記録ですがね」

 私達の言葉に、メーラ夫人は青ざめている。お父様は、放心して、メーラ夫人を見つめていた。

 「結局、男爵家の両親があなたの事を調べ、その子が自身の子ではないと判断し、離婚させられた」
 「ち、違うよな」
 「再婚の場合、別に周りに知らせる必要もない。役所に行ってその場で署名すればいい」

 レイモンドがそう言えば、お父様が愕然とした顔つきになった。
 この世界の戸籍の管理はざっくりとしている。ずさんともいうかもしれないけど、当主ではない者は再婚したという記録を残す程度の感覚なので、多少間違いがあっても素通りしたのよね。
 彼女は、離婚した男爵のラストネームをつらっと書いていたのだった。
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