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 「きっと今年は、交際を申し込まれると思うの」
 「まあ、どなたが?」

 馬車の中、向かい側に座る自称義母のメーラ夫人とその娘シャーロット嬢がワザとらしく私に聞こえる様に言った。

 「それが、殿下に公爵子息を筆頭にかしら」
 「まあ、それは悩むわね」

 悩むって。まだ告白すらされていないのではないのですか?
 絶対にそうだと自信満々の二人。
 彼女達は、私の目から見ても確かに美人だ。

 2年前の私が14歳になる年に、お父様が結婚すると言って連れて来た二人。メーラ夫人は、くせ毛の赤い髪にクリっとした大きな赤い瞳。スーッと通った鼻筋。キュートなプリっとした口元に、セクシーなほくろ。

 初め連れて来た時には騙されているのではないかと思った。失礼だけどお父様と容姿では釣り合わないのだから仕方がない。
 お父様は、茶色の髪にたれ目の茶色の瞳で、お世辞でもかっこいい顔ではない。まあ、たれ目のせいか優しそうに見えるけど。

 この国では、貴族の恋愛結婚は一般的だけど、再婚の場合は子連れならお付き合いをしても結婚はしない。だから連れて来て驚いた。
 メーラ夫人の娘は私と同じ歳で、数か月だけ産まれが早いシャーロット嬢がいる。彼女は、母親そっくりの容姿。赤茶の髪にクリっとした真っ赤なルビー色の瞳。

 ハッキリ言って、一緒に並びたくないわ。私は、彼女と違って美人ではない。平凡な令嬢よ。まあ、理由はそれだけではないけどね。

 私の茶色い髪は太く剛毛。真っすぐストレートにしかならず、ゆるふわウェーブなんて夢のまた夢。瞳は、亡きお母様と同じ茜色。と、地味だけどこの瞳だけは誇れるの。

 彼女達は、贅沢をしたくてお父様との再婚をしたみたい。
 まあそうでなければ、こんな美人がお父様と再婚などするはずもない。
 どの世界でも、美人は得よね。

 一応、反対はしたのだけど、お父様に頭を下げられた。自分の状況をわかっていて、再婚するならいいとなった。
 けどやっぱり、猛反対してやめさせるべきだったと今は思っているわ。
 何せ、お父様は彼女達の言いなりだもの。

 再婚してすぐに、社交シーズンが訪れた。伯爵家以上の貴族達は、その時期は、王都のタウンハウスで過ごす事が多い。
 私、シャルル・グルーンも一応伯爵令嬢で、14歳だとデビューの年。けど、領土で過ごす予定でいた。
 14歳だけど領土経営に携わっていたから、デビューを来年にする事にしたのよ。
 なのに、お父様ったら……。

 「シャーロットが、14歳でデビューしたいと言うのだ。だから王都で……」
 「お好きにどうぞ。でも彼女にタウンハウスは、貸さないわよ。お父様、わかっているわよね?」

 そうビシッと言えば、頭を下げられた。

 「お願いだ。食費以外は、私のポケットマネーで出すから」

 そこまでして、一緒に居たいのかしらね?
 お母様とは、政略結婚だったようで嫌いではないけど好きでもなかったみたい。だからといって、自分の娘より相手の娘を大切にするわけ?

 「わかったわ。でもわかっているとは思うけど、何か彼女達が事を起こせば……」
 「わかってる。わかってる!」

 こうして、私はデビュー出来ずに領土に籠るというのに、彼女は王都でデビューよ。
 本来彼女は、王都などでデビューなどしない爵位なのにね。

 その後、社交シーズンが終わって戻って来た二人は、伯爵家のお金を当てにして贅沢をしようとしていたので、おばあ様が叱責して下さり、しばらくは大人しくしていた。
 おじい様は、私が産まれてすぐに亡くなったらしく、顔すら覚えていない。

 そのすぐあとに貴族学園に通いたいと言って来た時には、開いた口が塞がらなかったわ。
 きっと社交パーティーで学園の事を聞いたのでしょうけど、あなた達には行けないのだけど。

 「お父様。説明して差し上げて」
 「えーと。学園側から通知が来たら通えるのだ」
 「まあ、そうなの? どうしたら通知を貰えるのかしら?」
 「家庭教師をつけて学力が上がったら……」

 まどろこしいわね。

 「簡潔に言うと、選ばれた者が行くのよ。それも12歳で入学して2年通うのよ。つまり卒業してから社交界に出るの」
 「あらだったら、シャルルはどうだったのかしら?」

 クスリと笑って問うメーラ夫人。
 彼女達が来た時に学園に通っていなかったからでしょうね。

 「私は、10歳から2年間通ったの」

 そう答えれば、二人は驚いた顔つきになった。
 勉強についていける者達が通う学園よ。年齢は関係ないわ。先ほど言った年齢は、最終年齢。それに、私はその学園を早く卒業しなければいけない理由があったからね。

 「ではせめて、この子に家庭教師をつけてあげていいでしょう。ゴラン」

 甘えた声でメーラ夫人が、お父様に擦り寄る。するとお父様が困り顔で私を見た。

 「好きにすればいいでしょう。私を頼られても困るわ」
 「まあ。まだ小娘のくせに何という言い方でしょう」
 「その小娘に頼るのだから、さらに頼りないわよね」
 「まあ、父親に対してなんて言う口の利き方なのでしょう。本当に学園に通ったのかしら?」
 「証拠でもお見せしましょうか? それに文句があるのならこの屋敷から出て行けばいいでしょう。お父様も遠慮なさらずに、どうぞご一緒に」

 私がそう言えば、三人共青ざめる。
 メーラ夫人達も知ってはいるみたいね。私が仮の当主だと。そうお父様は、当主ではない。

 この国では、血筋がモノを言う。女児しか生まれなかった我が家は、お父様を婿に迎えたけど、実権はお母様が握っていた。

 お母様は、私が産まれてすぐに当主であるおじい様を亡くしている。その為、苦労したみたい。だから私には、あり得ない5歳から仕事に関わらせていた。
 と言っても私が、流行り病にかかり九死に一生を得て回復。その時に、私は前世を思い出したのよ。いや走馬灯を見たのかもね。

 5歳児でありながら大人としての知識も持ち合わせた私は、お母様が悩ませていた問題に口を挟んだ。
 普通なら子供が口出しするのではありませんとなるけど、アイデアとして考察してくれた。
 まあ、切羽詰まっていたのでしょうけどね。

 収入源がなくとも、最低限のお金はかかるなのだから。なので、赤字よ。自身で働いたお金で、支払っていたのだから貴族って大変よね。
 お母様は、私に学園を卒業してほしかったみたいね。そうすれば、それなりの貴族と結婚できる。そう思っていたみたい。

 要は、私がいるから領土を手放せないでいた。
 そうわかったから、猛勉強をしたのよ。早く学園を卒業する為にね。
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