86 / 192
第八章 惑わす声
第八十六話
しおりを挟む
「おう。エイブ」
光が彼に話しかけた。
「おや? トンマーゾさん? やってみる気になったんだ。どう? 楽しい?」
「お前はホント、呑気だな」
これまた光のトンマーゾがそう返す。
「俺はこれから助けを呼びに行ってくる」
「え? ここから逃げ出すの?」
「あぁ。今、あの魔術師の王子はここにいないみたいだからな。チャンスだ」
エイブは、ため息をつく。
「じゃ、俺の命もここまでか……」
「お前も連れて行くって」
「またまた、こんなお荷物殺して行くに決まってるでしょう?」
何故か間が空く。
「何とかしてやるって、ザイダを使えば……」
「彼女を? 協力者に仕立てる気? 難しいと思うけどなぁ。そうなれば、可能性はあるけど……」
トンマーゾの策にエイブは、うーんと唸る。
「お前のその能力、捨てるにはおしい」
「トンマーゾさんも出来てるみたいだけど?」
「なんとかな。死ぬ気でやってる」
その返事に、エイブはクスッと笑う。
「まあ、頑張って。期待しないでいるよ」
エイブは見えないがひらひらと手を振ると、トンマーゾは、スッとどこかへ飛んで行った。
☆~~~~~☆~~~~~☆~~~~~☆
翌日、ティモシーが目を覚ますと、ランフレッドはぐっすりと眠っていた。昨日はあれから色々と打ち合わせなどがあり、ティモシーを部屋に送った後戻っていた。帰って来たのは遅いのだろう。ティモシーは、いつも通り先に寝ていた。
(起こさなくてもいいのか?)
今日の仕事の時間を聞いていないティモシーは、そう思うもほっておく事にする。遅刻しても王宮内だ。そこまで問題ないという結論になった。
ダグが迎えに来る前に部屋を出た。そして、逆に迎えに行く。
「おはようございます」
「おはよう。どうした?」
いきなり迎えに来たので何かあったのかと思ったのである。
「うん? 別に。早く用意できたから……」
「そうか。じゃ行くか」
ティモシーが頷くと、二人は調合室に向かった。
午前中は数種類の調合をし、今日は午後も調合だった。
「何かまったりだね」
アリックがボソッと言った。
「……うん」
「だな」
二人が返事を返す。ベネットは休みだ。午前と午後の指示は、オーギュストが口頭で伝えるのみで、後は三人でまったりとやっていた。
そこに、ドアがノックされる。
「はい」
アリックが返事をし三人が振り向くと、オーギュストが顔を覗かせる。
「ティモシーにお客さんだ」
「え?」
ティモシーは、目をぱちくりとする。
(誰だろう?)
誰も思い当たらないが、正面入り口に向かう。そこには思いがけない人物がいた。両親だ。
一か月半ぐらい会っていなかっただけだが、色々あったせいか、すごっく久しぶりに感じた。
「元気にしていた?」
ティモシーの母親がそう声を掛ける。
彼女は、ティモシーと同じく銀の髪を一本に縛り、ティモシーに似て……いや逆か。整った顔で美人である。どう見ても二人は親子である。
「遅くなったがおめでとう。本当に薬師になってしまうなんてな」
残念そうにオズマンドは言う。
「ご無沙汰してます!」
三人に後ろから声を掛けて来た。ランフレッドだ。彼にも連絡がいっていた。
「いやぁ。すまないね」
「いえ。ちゃんとお勤めしてますよ」
オズマンドにランフレッドはそう返す。
「初めましてかしら? 母親のミュアンです」
ミュアンが頭を下げると、ランフレッドも頭を下げた。
「今日、二人共夜、ご飯一緒にどうだ? 時間取れそうか?」
オズマンドの誘いに、ランフレッドは二つ返事で返す。
「では、お二人の宿の方にお迎えに行きます」
ランフレッドがそう言うと、二人は頷き、また後でと去って行った。
「ティモシー……。その、色々あった事ないしょな」
すまなそうに言うランフレッドに、ティモシーは頷いた。
仕事を終えたティモシーとランフレッドは、ティモシーの両親と合流し食事処でディナーを食べていた。
ランフレッドが選んだにしては、小洒落た落ち着きのあるところだった。食べに行くと決まってから予約を入れていた。
「素敵なところね」
「ここ、酒も料理も美味しいですよ」
ランフレッドはそう言って、酒も勧める。
ティモシーは、どんな仕事か二人に話す。勿論、襲われた件は内緒にして。
「ティモシー、大丈夫そうだったら、このまま王宮で働いてもかまわないからね」
ミュアンは、そう言った。それは魔術師だとばれなさそうならばと言う意味だろう。ティモシーは、神妙な顔つきで頷く。もう色々な目に合い、一人の人にバレているとは言えない。
二人を宿に送り、ティモシーは名残惜しそうにランフレッドと王宮に向かう。
「大丈夫か?」
元気がなさそうなティモシーにランフレッドは声を掛ける。
「うん……」
そう答えながらもため息が漏れた。会えたのは嬉しいが、本当の事が言えず後ろめたい。ティモシーは、そう思いながら歩いていた。
光が彼に話しかけた。
「おや? トンマーゾさん? やってみる気になったんだ。どう? 楽しい?」
「お前はホント、呑気だな」
これまた光のトンマーゾがそう返す。
「俺はこれから助けを呼びに行ってくる」
「え? ここから逃げ出すの?」
「あぁ。今、あの魔術師の王子はここにいないみたいだからな。チャンスだ」
エイブは、ため息をつく。
「じゃ、俺の命もここまでか……」
「お前も連れて行くって」
「またまた、こんなお荷物殺して行くに決まってるでしょう?」
何故か間が空く。
「何とかしてやるって、ザイダを使えば……」
「彼女を? 協力者に仕立てる気? 難しいと思うけどなぁ。そうなれば、可能性はあるけど……」
トンマーゾの策にエイブは、うーんと唸る。
「お前のその能力、捨てるにはおしい」
「トンマーゾさんも出来てるみたいだけど?」
「なんとかな。死ぬ気でやってる」
その返事に、エイブはクスッと笑う。
「まあ、頑張って。期待しないでいるよ」
エイブは見えないがひらひらと手を振ると、トンマーゾは、スッとどこかへ飛んで行った。
☆~~~~~☆~~~~~☆~~~~~☆
翌日、ティモシーが目を覚ますと、ランフレッドはぐっすりと眠っていた。昨日はあれから色々と打ち合わせなどがあり、ティモシーを部屋に送った後戻っていた。帰って来たのは遅いのだろう。ティモシーは、いつも通り先に寝ていた。
(起こさなくてもいいのか?)
今日の仕事の時間を聞いていないティモシーは、そう思うもほっておく事にする。遅刻しても王宮内だ。そこまで問題ないという結論になった。
ダグが迎えに来る前に部屋を出た。そして、逆に迎えに行く。
「おはようございます」
「おはよう。どうした?」
いきなり迎えに来たので何かあったのかと思ったのである。
「うん? 別に。早く用意できたから……」
「そうか。じゃ行くか」
ティモシーが頷くと、二人は調合室に向かった。
午前中は数種類の調合をし、今日は午後も調合だった。
「何かまったりだね」
アリックがボソッと言った。
「……うん」
「だな」
二人が返事を返す。ベネットは休みだ。午前と午後の指示は、オーギュストが口頭で伝えるのみで、後は三人でまったりとやっていた。
そこに、ドアがノックされる。
「はい」
アリックが返事をし三人が振り向くと、オーギュストが顔を覗かせる。
「ティモシーにお客さんだ」
「え?」
ティモシーは、目をぱちくりとする。
(誰だろう?)
誰も思い当たらないが、正面入り口に向かう。そこには思いがけない人物がいた。両親だ。
一か月半ぐらい会っていなかっただけだが、色々あったせいか、すごっく久しぶりに感じた。
「元気にしていた?」
ティモシーの母親がそう声を掛ける。
彼女は、ティモシーと同じく銀の髪を一本に縛り、ティモシーに似て……いや逆か。整った顔で美人である。どう見ても二人は親子である。
「遅くなったがおめでとう。本当に薬師になってしまうなんてな」
残念そうにオズマンドは言う。
「ご無沙汰してます!」
三人に後ろから声を掛けて来た。ランフレッドだ。彼にも連絡がいっていた。
「いやぁ。すまないね」
「いえ。ちゃんとお勤めしてますよ」
オズマンドにランフレッドはそう返す。
「初めましてかしら? 母親のミュアンです」
ミュアンが頭を下げると、ランフレッドも頭を下げた。
「今日、二人共夜、ご飯一緒にどうだ? 時間取れそうか?」
オズマンドの誘いに、ランフレッドは二つ返事で返す。
「では、お二人の宿の方にお迎えに行きます」
ランフレッドがそう言うと、二人は頷き、また後でと去って行った。
「ティモシー……。その、色々あった事ないしょな」
すまなそうに言うランフレッドに、ティモシーは頷いた。
仕事を終えたティモシーとランフレッドは、ティモシーの両親と合流し食事処でディナーを食べていた。
ランフレッドが選んだにしては、小洒落た落ち着きのあるところだった。食べに行くと決まってから予約を入れていた。
「素敵なところね」
「ここ、酒も料理も美味しいですよ」
ランフレッドはそう言って、酒も勧める。
ティモシーは、どんな仕事か二人に話す。勿論、襲われた件は内緒にして。
「ティモシー、大丈夫そうだったら、このまま王宮で働いてもかまわないからね」
ミュアンは、そう言った。それは魔術師だとばれなさそうならばと言う意味だろう。ティモシーは、神妙な顔つきで頷く。もう色々な目に合い、一人の人にバレているとは言えない。
二人を宿に送り、ティモシーは名残惜しそうにランフレッドと王宮に向かう。
「大丈夫か?」
元気がなさそうなティモシーにランフレッドは声を掛ける。
「うん……」
そう答えながらもため息が漏れた。会えたのは嬉しいが、本当の事が言えず後ろめたい。ティモシーは、そう思いながら歩いていた。
0
お気に入りに追加
685
あなたにおすすめの小説
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる