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第二章 仕事が始まったばかりなのに……

第十一話

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 ティモシーは、真新しい薬師の制服に袖を通す。
 前ボタンになっており濃いグレー色。ズボンには太ももに大きなポケットが付いていた。

 「ブカブカ……。何これ、お尻まで隠れるって……」

 ため息をつくと、ベットに腰を下ろし、首元からペンダントを出し見つめた。

 (これさえあれば大丈夫)

 このペンダントは、母親が作ったマジックアイテムで、ティモシーの魔力を封じ込めるモノだ。余程の事が無い限り、魔術師だと見破られる事はない。勿論、これを身に着けている限り、ティモシーは魔術を使えない。
 但し、魔力は見て取れる。つまりは、相手が使うのは見えるのである。できればそういう相手には出会いたくなかったが、もう既に出会ってしまっていた。

 「見間違いじゃないよな……。ま、いいや」

 ペンダントを見えない様に、制服の下にしまうと、大き目のポーチを腰に巻き付けた。
 最初は真っ白だったであろうそのポーチは、薄汚れている。もうかれこれ五年ほど使っていた。
 ドアを開け、自分の部屋から居間に出ると、準備を終えたランフレッドが待っていた。

 「ま、馬子にも……あははは」

 ――衣裳。そう言いたかったのは明白である。だがティモシーの姿を見た途端、テーブルに手を付き、腹を押さえて笑い出した。

 「っち」

 ティモシーは、笑われると思っていたが面白くない。

 「悪かったって。で、なんでポーチ? 何が入ってるんだ?」

 やっと笑いがおさまったランフレッドは、目についたポーチを指差す。

 「これ? 村ではこれをつけて作業をしていて、道具から材料まで入れてある。後は貴重品も……。やっぱりここでは使ってないか……」

 村でティモシーは、母親の補佐をやっていた。使う事はあまりなかったが、言われたら直ぐに作業が出来るようにポーチにしていたのである。
 両手が空くし、なくしたり忘れたりする心配もない。

 「へえ。持ち歩いてるのか。王宮内では、道具も支給されるし、材料も用意されるから持って来ている者は少ないな。貴重品もポケットに入れたり。まあ、邪魔にならないならいいんじゃないか?」

 それは、昨日説明で聞いていた。
 いつも身に着けていたので、ないと何となく寂しいのだ。

 「ところでお前、バッチは?」
 「あ!」

 ランフレッドに問われ、慌てて部屋に戻った。机に置きっぱなしで着けるのを忘れていたのである。
 手に持って居間に戻る。

 「どれ、付けてやる」

 ランフレッドは、そう言うと右手を出して来た。
 ティモシーは、手のひらにバッチを置いた。
 付けてもらった方が曲がらず付けられるだろうという判断からだ。
 ランフレッドは、受け取ったバッチを左襟に付けた。

 「まあ、それがついていれば、薬師に見えなくもないか」

 フンとティモシーはそっぽを向く。
 ティモシーも何となく付けた事によって、薬師になった実感が湧いたが言わないでおいた。



 二人は門番に挨拶をし、王宮内に入った。

 「帰りも一緒に帰るから、そこの待合室で待ってろよ」

 入ってすぐの右の扉を指差した。
 そこは王宮内の人達が、その名の通り待ち合わせに使う部屋だった。

 「別に鍵さえくれれば、一人で帰れるけど?」
 「ダメだ。ここは村じゃないんだから、お前の様な容姿だとすぐに絡まれる」

 ランフレッドは、腕を組み偉そうな態度で言った。
 たかが徒歩十分。街中に行くわけでもない。

 (何だかんだ言ってこの人、過保護だよな……)

 「ふん。別に返り討ちにしてやるから問題ない」
 「お前なぁ……。薬師がそんな事したら大問題だ! 勝てる勝てないの問題じゃない! それに大人しくしろって言っただろう? 問題起こしたら俺も連帯責任になるんだ!」

 (結局自分の為かよ!)

 ティモシーは、ランフレッドを睨み付けた。

 「俺、暫くの間は昼過ぎに終わるんだけど? どうすんだよ」
 「そうなのか? まあだったら今日は、一旦家に送ってく」

 そこら辺は適当な奴だと思いつつ、ティモシーは頷いた。
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