上 下
59 / 73

第59話 銀の角

しおりを挟む
 どうしよう。ユイジュさんがもういない。

 「目を覚ましましたか」

 あ、おじいちゃんだ。

 「あ、うん。えっと、ご迷惑をお掛けしました」

 「いやいや。本当にありがとうございました。一日で戻して頂けるなんて」

 「あの、ユイジュさんってどこに行ったかわかりますか?」

 「あの方なら先ほど来た人達とお出かけになりましたよ」

 うん? 誰か来たんだ。

 「誰が来たんですか?」

 「冒険者商会の人だと言っていたが」

 「ダダルさん? なんで?」

 「ダダルさん。そうです、その方です」

 『何かを掴んで、動いているみたいだな』

 「冒険者商会を閉めてわざわざきたの?」

 『あそこなら閉めても問題ないと思うが? どうやらユイジュは、お前の面倒と連絡係も兼ねていたようだな』

 面倒って。
 連絡を入れていたって事かな?

 『おぬしが言っても邪魔なだけだろう』

 『そうね。それよりもマトルドにも浄化してみない?』

 あ、そっか。真っ白になるかもね。

 「うん! やってみる」

 サザナミに言われてマトルドにも浄化してみる事にした。
 マトルドは、無心に草を食べている。

 「君も本来の姿に戻してあげるからね」

 僕は、マトルドに右手を向けた。

 「浄化」

 サーッと、白馬になった! しかもたてがみがキラキラと輝いている。遠くから見たら銀に見えるかも。

 「わぁ。凄く綺麗だね」

 マトルドが、僕にすり寄って来た! あぁ、かわいい。僕は、ぎゅっと首元に抱き着いた。

 「あれ? 額にも何かついている?」

 『角だ』

 チェトがそう言った。
 言われよく見ると、ちょんと申し訳ない程度のかわいい角があった。角はたてがみと同じく銀色。

 「へえ。角がある馬もいるんだ」

 『いるわけないだろう。マトルドは、ユニコーンだ』

 『生まれたてだったようね。馬と間違われて練習台にされ、能力を封印されたみたいね』

 「能力って?」

 『本来は強いって事だ。けど、おぬしに懐柔されて大人しいな』

 「カイジュウ?」

 よくわかんないけど、大人しくなっちゃったって事? 暴れたら危ないからいいんじゃない?

 くいっと、マトルドが僕の服を引っ張った。
 うん? なんだろう?

 『どうやら乗れと言っているようだな』

 「チェト、マトルドの言葉がわかるの?」

 『いや、わからん』

 「そっか。乗っていいの?」

 いいよと言う様に、スリッとしてきた。僕は、マトルドにまたがった。
 って、突然勢いよく走り出した!

 「わぁ! ちょっとどうしたのマトルド!」

 『もしかしたら彼らの所へ連れて行ってくれるのかもね』

 サザナミが言った。

 「彼らって?」

 『ユイジュ達のところだろう。いや、もしかしたらマトルドを灰色に変えた者達の所へ連れて行く気なのかもしれない。そこにユイジュ達が居れば合流できる』

 そっか。きっと、かたきをとって欲しいんだね!
 うん。捕まえちゃおう!
 あぁ。でも言葉がわかればいいのになぁ。

 一時間ぐらい走っただろうか。煙突から黒い煙を出している建物が見えてきた。そして、馬も。

 「馬がいるね」

 『ユイジュ達が移動に使ってた馬だろうな』

 とチェトが言った。
 だったらユイジュさんは、この建物の中に居るって事か。

 建物の前で僕はマトルドから降りた。
 僕は辺り様子を伺う。人がいないか探ってみたけど、いないみたい?

 ――『感知』の条件が整いました。『感知』を作成しますか?

 うん? おぉ、なんかわからないけど……。

 「はい!」

 ――『感知』のスキルを取得しました。
 ――『感知』はランク1になりました。

 「では、早速。感知」

 何これ、凄い。建物の中に人影が見える。
 えっと。1、2、3、4、5、6……10人?

 これ、まずい状況なんじゃないだろうか? ユイジュさん達捕まった?

 「あ!」

 『どうした?』

 煙突がある建物の横に大きな建物がもう一つあったんだけど、そこに動物がいっぱいいるみたい。
 動物もわかるんだ。

 「あのね、チェト。人影とかが見える様になってね、あの建物に動物がいっぱいいるよ」

 『今度はどんなスキルを覚えたんだ?』

 「感知だって」

 『なるほど。それを上手く使えこなせればよいが』

 ちゃんと、使っているじゃないか。

 「ユイジュさん達、建物の中にいると思うんだけど、建物の中には人が10人いるんだよね。大丈夫かな?」

 『その状況を聞けば、ピンチだと思うわよ』

 サザナミが答えてくれた。だよね、やっぱり。
 えーと、まずは、忍び足で近づいて……窓から様子を伺おう!

 「ちょっと中の様子を見て来るから三人は、ここで待っていて!」

 『窓から覗くのか? 我も覗きたいぞ』

 「危ないよ」

 『大丈夫だ。おぬしが抱っこしてくれれば』

 「うーん? そう。大人しくしていてね」

 チェトが頷いたので、僕は抱き上げた。

 『頼むわよ』

 サザナミの言葉に僕達は頷いた。

 そっと僕は、建物に近づいて行った――。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

【完結】ぽっちゃりなヒロインは爽やかなイケメンにひとめぼれされ溺愛される

まゆら
恋愛
食べる事と寝る事が大好きな社会人1年生の杉野ほたること、ほーちゃんが恋や仕事、ダイエットを通じて少しずつ成長していくお話。 恋愛ビギナーなほーちゃんにほっこりしたり、 ほーちゃんの姉あゆちゃんの中々進まない恋愛にじんわりしたり、 ふわもこで可愛いワンコのミルクにキュンしたり… 杉野家のみんなは今日もまったりしております。 素敵な表紙は、コニタンさんの作品です!

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

【完結】雇われ勇者の薬草農園 ~チートスキルで薬草栽培始めます~

近衛 愛
ファンタジー
リュウは設計会社に勤務する一般男性だ。 彼女がようやく出来て、一週間後に勤務中に突如幻想世界に転移。 ラノベは好きだが、テンプレ勇者は嫌いだ!! 人類を滅ぼそうとする魔王を倒すため、女神と王により勇者として、召喚された。 しかし、雇用契約書も給料ももらえず勇者である僕は、日々の生活費を稼ぐべく、薬草採取、猪の討伐、肉の解体、薬草栽培など普段なら絶対しない仕事をすることに。 これも王と女神がまともな対応しなのが悪いのだ。 勇者のスキル「魔女の一撃」を片手に異世界を雇い雇われ、世界を巡る。 異世界転移ファンタジー。チートはあるけど、最弱ですけどなにか。 チートスキルは呪いのスキル、人を呪わば穴二つ。勇者と世界の行く末は。 『僕は世界を守りたい訳じゃない!目の前の人、親しい知人であるチル、君を守りたいんだ!』

魔法最弱の世界で魔法少女に転生する〜魔法少女はチート魔導士?〜

東雲ノノメ
ファンタジー
 オタクの女子高校生だった美水空は知らないうちに異世界に着いてしまった。  ふと自分の姿を見たら何やら可愛らしい魔法少女の姿!  謎の服に謎の場所、どうしようもなく異世界迷子の空。  紆余曲折あり、何とか立ち直り人間の街についた空は吹っ切れて異世界を満喫することにする。  だけどこの世界は魔法が最弱の世界だった!  魔法使い(魔法少女)だからという理由で周りからあまりよく思われない空。  魔法使い(魔法少女)が強くないと思ったの?私は魔法で生きていく!という精神でこの異世界で生きていく!  これは可愛い魔法少女が異世界で暴れたり暴れなかったりする話である。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...