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43話 二時間のカラクリ

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 「まて! 今、なんて言った? 殺されかけたのか? 君を助けたのは八羽仁か?」

 涙を溜めた顔を上げ、ミキは遊佐を見た。彼は、心底驚いた顔をしていた。
 ミキは頷くと、涙がこぼれた。

 「ごめんなさい……」

 ミキは声を殺し泣き出した。
 話をしていて、本当に殺させそうになった事がじわじわと現実味を増し、怖くなったのである。

 「大丈夫か?」

 遊佐は、優しく声を掛けそっとハンカチを差し出す。
 ミキは頷き、ハンカチを受け取った。

 「あの、貸だからなと言う言葉は、そういう意味か……」

 遊佐はそう言いつつ、ミキの隣に座った。

 「何か気づいた事は無いか? なんでもいい。殺されかけたのなら、殺人未遂だ」

 ミキは、首を横に振った。

 「私もまさか襲われるとは思ってなくて……」
 「思ってなかったって……。向こうは、そのつもりで呼び出していたんだ」

 そう言って、遊佐は小さくため息をついた。

「そうじゃなくて……。指定時間の二時間も前に行って、隠れて公園に誰が来るか確認しようと思って隠れた途端襲われたのよ」

 ミキが、ハンカチで涙を拭きながら言うと、遊佐は頷いた。
 
 「そこまでは、浅井さんのバイクで行ったんだよな?」

 ミキは頷く。

 「一応、公園の周りを一周したんだけど、人影なかったのよ?」

 遊佐は、難しい顔をして考え込む。

 「二時間の猶予……。普通それだけあれば、警察に張り込んでもらう事もできるな……」
 「え? でも、誰にも言うなって……」
 「それは、大抵言う台詞だ。普通なら今すぐこい、だろう? もしかしたら、会社からつけられていたのかもな。それなら、直ぐに襲える」

 遊佐は、そう推理して話す。

 ――そういえば、車で逃げられたって言っていたっけ?

 ミキはそう、八羽仁組が話していたのを思い出した。
 ミキなら警察に相談する前に、犯人を確定する行動を取るのではないかと、相手はわざと二時間後にした。
 勿論、あの公園にしたのは、優が危惧した通り、八羽仁組が関係しているように見せる為だろう。

 「……今回の取材で思い当たる事がないとしたら、殺害された佐藤史江さんが原因かもしれないな。君達は、第一発見者だろう?」

 遊佐は、また難しい顔でそう言った。

 「たぶん、それはないと思う。私達が発見したのは、殺された次の日よ」
 「……では、君達が第一発見者だって事を知っている人物は? 誰かに話したか?」
 「それは……」

 ミキは、目を泳がす。
 一人だけいるからだ。

 「話したんだな? 誰に話した」
 「史江さんの孫の佐藤さん……」

 遊佐は、深いため息をついた。

 「それでよく、ないと言えるな。君達が襲われたのに佐藤がかかわっているのはわかりきっているだろうが。しかし、あの現場に何があったって言うんだ? 何か隠し持ってきたって事はないだろうな?」
 「しないわよ! そんなこと!」

 ミキは、ムッとして言い返した。

 「それだけ元気になったら大丈夫だな」

 そう言うと、遊佐は立ち上がる。
 ミキは、いつもの調子に戻っていた。

 「課長に話を通してもらって、君達に警備をつけてもらうように手配する。だが、直ぐには無理だからそれまで大人しくしていてくれ」
 「警備って……」
 「誰に狙われているかわからないのだから、暫くそうするしかないだろう。それに、殺人未遂で捜査を進めるから、犯人が捕まるまでの間だ」
 「わかったわ。宜しくお願いします」

 ミキは、立ち上がって遊佐に頭を下げた。
 二人は、部屋の外に出た。水上と浅井はもうそこで待っていた。

 「話はついたか?」

 水上がそう遊佐に話しかけると、彼は頷いた。

 「あの、私達はこれで失礼しても?」
 「あぁ、ご協力ありがとうございました。気を付けてお帰り下さい」

 水上がそう言って、軽く会釈をした。

 「気を付けれよ。絶対に一人になるな! いいな」

 遊佐の言葉にミキは頷いた。

 「浅井さんも狙われているので、外出は控えて下さい」

 水上に言われ、浅井も頷いた。

 「では、失礼します」

 ミキと浅井は、遊佐達に頭を下げ、署を後にした。

 「ミキさん、大丈夫ですか?」
 「大丈夫よ。浅井さん、ごめんなさいね。私のせいで……」
 「ミキさんのせいじゃありませんよ! きっと、警察が犯人を捕まえてくれます! じゃ、会社に戻りましょうか」
 「そうね」

 二人は、不安を胸にバイクで会社に戻った。
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