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17話 彼女の名前

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 ミキが十九時ニ十分に食堂に行くと、全員着席して待っていた。
 スタッフがせっせと、食事を並べている。
 ミキは、遊佐の隣に座る。前の席は伊藤で、昼と同じ席だ。
 食事の用意が整い、頂きますと食べ始める。

 晩餐の始まりだ!

 食事は静まり返ったままだった。誰も語らない。
 ミキはそんな中、相内に話しかけた。

 「ねえ、相内さん。頂いたドリンクって果物と野菜のジュースだった?」
 「え? うん。そうだけど」

 質問された相内は不思議そうに答えるも、伊藤は驚いていた。
 ミキは保険外交員がくれたドリンクが、野菜と果物の特性オリジナルドリンクだと取材した人達から聞いていた。

 ――間違いないわ。彼女だわ!

 「ねえ、アカネさん。私に楠さんと何を話したのって聞いたわよね?」

 楠の話題に皆、気まずそうな顔つきになる。だた伊藤は、ミキを探るような目つきでみていた。

 「そう言えば聞いたわね」

 伊藤がそう答えた。

 「実はね、婚約者の話をしたの」
 「場がしらけるから、楠さんの話はよさないか?」

 八田がそう言って、この話を終わらせようとする。彼にとっても触れられたくない話だ。

 「あら、アカネさんを庇うんだ」
 「別にそう言う訳じゃ……」
 「ねえ、伊藤さんってアカネさんって名前だった?」

 相内が首を傾げ、そう言った。
 伊藤と八田はハッとした顔つきをし、遊佐は眉をひそめている。堀は首を傾げる。皆、下の名前なんて覚えていない。

 「え? いや、流れから伊藤さんの事かと……」

 伊藤が答えないので、八田がそう言った。

 「あら嫌だ。アカネさんでしょう?」

 ミキがそう言うと、伊藤がキッとミキを睨む。だがミキはそれを物ともせず、ICレコーダーをテーブルの上に置いた。
 その行動に、遊佐も含め全員が驚く。

 「おい、ミキそれ……」

 ミキの隣で遊佐が呟く。

 取り上げた他に持っていたのかと、遊佐は驚いていた。
 ミキは気にせず、ICレコーダーのスイッチを入れる。
 ピッ。

 『なんであんな事言ったのよ』
 『さっきあいつに言った通りだ……』
 『じゃなくて、女の人の姿を見たって事よ』
 『別に大丈夫だって。っていうかお前、だいいち……』
 『何かありましたか?』
 『……別に何も』


 「何録音してるんだ!」

 八田が驚いて叫ぶ!
 遊佐は、太ももを叩かれたのに気が付き、下を見ると、ミキが何かくれと言わんばかりに手を出していた。思いつくのは一つ。預かったICレコーダーだ。
 遊佐は仕方なく、気づかれない様にICレコーダーをミキに手渡す。


 『遊佐って、あの刑事に取り入ってるのか? ……さて、瞳に怒りすぎたと謝るか。アカネもフォロー宜しくな』
 『そうね。明日、ここを出るまでは仲良くしてもらわないとね』

 ピッ。

 「てめぇ……」

 八田がミキを睨み付ける!
 伊藤もムッとした顔つきで、ミキを見ていた。

 「知っていたわよね? 八田さんも呼んでいたじゃないアカネって。何で嘘をつくの?」
 「どういう事?」

 相内は、驚いたまま八田と伊藤を見た。
 ハッとして、八田は相内を見る。

 「浮気していたの!!」
 「浮気じゃない!」

 八田が慌てて否定する。

 「嘘よ! 名前で呼んで、ここ出るまでって言っているじゃない!!」

 相内は立ち上がり叫ぶ。

 「そ、それは……。ち、違うんだ!」

 八田も立ち上がる。

 「酷いわ! 伊藤さんも……」

 相内は唇を噛み俯いた。

 「これで満足?」

 伊藤はミキを睨み付け言った。

 「まさか。これで終わりじゃないわよ」
 「終わりじゃないって! お前、何がしたいんだよ! こんな録音までして!」

 叫んで睨み付けて来る八田に、ミキは睨み返す。

 「浮気じゃないというなら別な理由を教えてよ!」
 「………」

 何も答えず八田は、ミキを睨み付けるだけだ。
 浮気だと肯定も否定も出来ない。

 「ねえ、アカネさん。あなたも名前を偽った理由を教えてよ」
 「偽った? そんな事してないけど? それより名誉棄損で訴えるわよ!」

 伊藤はそうミキに脅しをかける。

 「あらどうぞ。私は別にそれでもいいわ」
 「いいって、あなた……」

 伊藤は驚く。

 「目的は何だ?」
 「さっきも言ったでしょう? 二人の関係よ」

 八田の言葉に、ミキはそう答えると、八田はすとんと椅子に座った。
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