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13話 着替えていた理由
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まったくもうとむくれながら、ミキは足を組む。その時、スリッパが落ちた。
「もう……」
ブツブツと文句を言いつつ、スリッパに足を入れ、ミキはふと思った。
「ねえ、私もあなたもスリッパよね? 鎌田さんは?」
その問いに、遊佐は足元を見る。
「スリッパではなかったな。……だから、痕跡を消した?」
そして、ミキはある疑問も浮かび口にする。
「その前にさ。楠さんと鎌田さんって以前からの知り合いなの?」
「いや、そんな話は聞いてないが……」
――よく考えたら、鎌田さんって夜の十時からの出勤だったよね? 前からの知り合いでもない限り、部屋で密会ってあり得なくない? 私達、十一時まで一緒だったんだし。
ミキは、自分が十一時まで楠と一緒に居た事を思い出す。
「どうした?」
遊佐は、質問をしたと思ったら黙り込むミキを不思議に思い聞いた。
「もし部屋で密会だったとすると、前から知り合いでもない限りあり得ないなって思って……」
「……そうか。君たちが別れたその後に、カウンターにでも行かない限り顔を合わせてないのか……」
ミキの言葉に、遊佐もハッとする。
「つじつまが合わなくなった……」
ミキはそう漏らす。
もし仮にミキと別れた後に鎌田と意気投合したとしても、着替えまでしないだろうという事である。
遊佐も同感だと頷いた。
「振り出しに戻ったな……」
「後は、証拠さえつかめばって思ったのに!」
ミキは、残念そうに叫んだ。
「残るはスタッフ三人か……」
テーブルの上に置かれたアットホームの案内書を見つつ、遊佐は呟いた。
宿泊客の部屋の向かい側が、スタッフの部屋だ。誰にも見つからずに行く事は可能だが、動機が思い当たらない。
「その事なんだけどさ。私達、楠さんが着替えていたから、鎌田さんに見当つけたのよね?」
「そうだが。日に何度も着替える女性っているだろう? 彼女がそうだったと考えられないか?」
遊佐は、ミキに振り向きそう返すが、ミキは首を横に振った。
「私、夕食前に彼女に会っているの。夕食時、同じ服装だったわ。なのに、寝る前にわざわざ着替える?」
遊佐は、頷いた後考え込む。
「何かこぼして着替えたとか……」
「もう夜遅いし、普通パジャマに着替えるでしょう?」
「確かに……」
ミキの横に置いてあるパジャマを見て、遊佐は答えた。
「ねぇ、もしかして犯行後、着替えさせられたんじゃない? だから遺体も動かした……」
「犯人がか?」
ミキは頷く。
「犯人の証拠になるような物が衣服に付着した。例えば、血痕とか。床を拭いたのもそれを拭く為」
「そう考えるとある程度つじつまは合う。ただ、床からは血痕は見つかってはいない」
遊佐は、血痕の件を否定する。
「じゃ、それこそ何かをこぼしたのよ!」
「こぼしたか……。しかし何をこぼしたんだ?」
「確認する方法ならあるわよ!」
ミキの言葉に遊佐は驚く。
「着替える前の服よ! あったでしょ?」
「すまない。覚えてないな。それに彼女のスーツケースには鍵がかかっていた……」
「鍵? 普通、二泊三日だし開けておくよね? 犯人が掛けたのかしら?」
「わからないが取りあえず、潤に連絡してみる。署に戻ってるはずだから」
そう言うと、スマホを取り出し、ドアの前まで言って話し出す。
もし何かこぼしたとして、それが証拠になるなら、服は部屋にないはず。それを確認すればわかる。
「調べて連絡をくれるそうだ。それと、鍵が見つかった。首から下げていたらしい」
「首から? ネックレスにでも通していたの? よっぽど大切な物でも入っていたのかしら?」
「それはわからないが、スーツケースに鍵を掛けたのは、犯人ではなさそうだな」
「そうね」
遊佐の意見に、ミキは頷いた。
暫くして、伊東から連絡が入り、昨日の服がないことが判明した。
昨日ミキを話し終わる夜十一時まで着ていた服がないという事は、犯人が持ち去った証拠だ。
犯人はわざわざ着替えまでさせて持ち帰っている事から、犯人に繋がる証拠があるに違いない。
「これで確定ね! 何かをこぼした」
遊佐は、ミキの言葉に頷くだけで考え込んでいた。
「ねえ、他に気になる事でもあるの?」
ミキの問いかけに、チラッと彼女を見るも、別にと答える。そして、意外な事を言い出した。
「悪いが君にはここで手を引いてほしい。もしかしたら、単純な事件じゃないかもしれない」
「今更何言ってるのよ! 何が出て来たか知らないけど、私一人でも続けるわよ! 最初に言ったでしょ!」
ミキは立ち上がり驚いて声を荒げると、遊佐も彼女同様立ち上がり荒げながら言う。
「もしかしたら犯人は、自分の身を守るためなら殺人もいとわない相手かも知れないって事だ。君の身が危ないと言っているんだ!」
ミキもここまできたら、犯人をこの手で見つけたい。
だが遊佐は、ミキの身を案じ手を引けと言い出した!
一体何が発覚したのか、ミキはムッとして遊佐を睨み付けていた!
「あっそ。人ひとりも守る自信もないの? じゃ、結構よ! 自分でなんとかするわ! さっさと出て行って!」
そういうと、ミキはドアを指差した。
遊佐は、自分を睨み付けドアを指差す彼女をジッと見つめる。
「そうだったな。君は、そういう性格だったな……」
ため息交じりにそう言うと、髪をかき上げる。
「一つだけ先に言っておく。楠さんは、犯人を脅して殺されたのかもしれない」
「脅し?」
遊佐は頷く。
「それでも君は続けるか?」
「続けるわよ。殺されたのには変わりはないんだから」
ミキは、力強く頷いた。
遊佐は、ソファーに座り直す。ミキもベットの上に座った。
楠は犯人を脅していたかもしれない。遊佐はこの情報でミキが傷つくと思い、告げたくなかった。
「彼女のスーツケースから、切り抜きが張り付けられたファイルが見つかった……」
膝に両肘をつき、ぐうで握りしめた手に顎をのせ、遊佐はボソッと言った。
「もう……」
ブツブツと文句を言いつつ、スリッパに足を入れ、ミキはふと思った。
「ねえ、私もあなたもスリッパよね? 鎌田さんは?」
その問いに、遊佐は足元を見る。
「スリッパではなかったな。……だから、痕跡を消した?」
そして、ミキはある疑問も浮かび口にする。
「その前にさ。楠さんと鎌田さんって以前からの知り合いなの?」
「いや、そんな話は聞いてないが……」
――よく考えたら、鎌田さんって夜の十時からの出勤だったよね? 前からの知り合いでもない限り、部屋で密会ってあり得なくない? 私達、十一時まで一緒だったんだし。
ミキは、自分が十一時まで楠と一緒に居た事を思い出す。
「どうした?」
遊佐は、質問をしたと思ったら黙り込むミキを不思議に思い聞いた。
「もし部屋で密会だったとすると、前から知り合いでもない限りあり得ないなって思って……」
「……そうか。君たちが別れたその後に、カウンターにでも行かない限り顔を合わせてないのか……」
ミキの言葉に、遊佐もハッとする。
「つじつまが合わなくなった……」
ミキはそう漏らす。
もし仮にミキと別れた後に鎌田と意気投合したとしても、着替えまでしないだろうという事である。
遊佐も同感だと頷いた。
「振り出しに戻ったな……」
「後は、証拠さえつかめばって思ったのに!」
ミキは、残念そうに叫んだ。
「残るはスタッフ三人か……」
テーブルの上に置かれたアットホームの案内書を見つつ、遊佐は呟いた。
宿泊客の部屋の向かい側が、スタッフの部屋だ。誰にも見つからずに行く事は可能だが、動機が思い当たらない。
「その事なんだけどさ。私達、楠さんが着替えていたから、鎌田さんに見当つけたのよね?」
「そうだが。日に何度も着替える女性っているだろう? 彼女がそうだったと考えられないか?」
遊佐は、ミキに振り向きそう返すが、ミキは首を横に振った。
「私、夕食前に彼女に会っているの。夕食時、同じ服装だったわ。なのに、寝る前にわざわざ着替える?」
遊佐は、頷いた後考え込む。
「何かこぼして着替えたとか……」
「もう夜遅いし、普通パジャマに着替えるでしょう?」
「確かに……」
ミキの横に置いてあるパジャマを見て、遊佐は答えた。
「ねぇ、もしかして犯行後、着替えさせられたんじゃない? だから遺体も動かした……」
「犯人がか?」
ミキは頷く。
「犯人の証拠になるような物が衣服に付着した。例えば、血痕とか。床を拭いたのもそれを拭く為」
「そう考えるとある程度つじつまは合う。ただ、床からは血痕は見つかってはいない」
遊佐は、血痕の件を否定する。
「じゃ、それこそ何かをこぼしたのよ!」
「こぼしたか……。しかし何をこぼしたんだ?」
「確認する方法ならあるわよ!」
ミキの言葉に遊佐は驚く。
「着替える前の服よ! あったでしょ?」
「すまない。覚えてないな。それに彼女のスーツケースには鍵がかかっていた……」
「鍵? 普通、二泊三日だし開けておくよね? 犯人が掛けたのかしら?」
「わからないが取りあえず、潤に連絡してみる。署に戻ってるはずだから」
そう言うと、スマホを取り出し、ドアの前まで言って話し出す。
もし何かこぼしたとして、それが証拠になるなら、服は部屋にないはず。それを確認すればわかる。
「調べて連絡をくれるそうだ。それと、鍵が見つかった。首から下げていたらしい」
「首から? ネックレスにでも通していたの? よっぽど大切な物でも入っていたのかしら?」
「それはわからないが、スーツケースに鍵を掛けたのは、犯人ではなさそうだな」
「そうね」
遊佐の意見に、ミキは頷いた。
暫くして、伊東から連絡が入り、昨日の服がないことが判明した。
昨日ミキを話し終わる夜十一時まで着ていた服がないという事は、犯人が持ち去った証拠だ。
犯人はわざわざ着替えまでさせて持ち帰っている事から、犯人に繋がる証拠があるに違いない。
「これで確定ね! 何かをこぼした」
遊佐は、ミキの言葉に頷くだけで考え込んでいた。
「ねえ、他に気になる事でもあるの?」
ミキの問いかけに、チラッと彼女を見るも、別にと答える。そして、意外な事を言い出した。
「悪いが君にはここで手を引いてほしい。もしかしたら、単純な事件じゃないかもしれない」
「今更何言ってるのよ! 何が出て来たか知らないけど、私一人でも続けるわよ! 最初に言ったでしょ!」
ミキは立ち上がり驚いて声を荒げると、遊佐も彼女同様立ち上がり荒げながら言う。
「もしかしたら犯人は、自分の身を守るためなら殺人もいとわない相手かも知れないって事だ。君の身が危ないと言っているんだ!」
ミキもここまできたら、犯人をこの手で見つけたい。
だが遊佐は、ミキの身を案じ手を引けと言い出した!
一体何が発覚したのか、ミキはムッとして遊佐を睨み付けていた!
「あっそ。人ひとりも守る自信もないの? じゃ、結構よ! 自分でなんとかするわ! さっさと出て行って!」
そういうと、ミキはドアを指差した。
遊佐は、自分を睨み付けドアを指差す彼女をジッと見つめる。
「そうだったな。君は、そういう性格だったな……」
ため息交じりにそう言うと、髪をかき上げる。
「一つだけ先に言っておく。楠さんは、犯人を脅して殺されたのかもしれない」
「脅し?」
遊佐は頷く。
「それでも君は続けるか?」
「続けるわよ。殺されたのには変わりはないんだから」
ミキは、力強く頷いた。
遊佐は、ソファーに座り直す。ミキもベットの上に座った。
楠は犯人を脅していたかもしれない。遊佐はこの情報でミキが傷つくと思い、告げたくなかった。
「彼女のスーツケースから、切り抜きが張り付けられたファイルが見つかった……」
膝に両肘をつき、ぐうで握りしめた手に顎をのせ、遊佐はボソッと言った。
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