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7話 情報収集

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 ミキは、にこにこ顔で伊東の話を待っていた。
 約束通り、情報を提供してくれるのだ。
 伊東は、大きなため息をつくと、仕方なしに現場の状況を話始める。

 「ご存知だと思いますが、犯行時刻は二十三時三十分から一時三十分の間。死因は、壁に頭を打ち付けた事による、脳挫傷だと思われる。遺体の状態から、他の者によってうつ伏せにさせられた可能性が高い」

 ――よし! ここまでは合ってる!

 やはり他の者の手により、うつ伏せにされていた!
 ミキは、うんうんと頷きながら聞いている。

 「そして、テーブルや床、ドアノブなどが拭き取られていた。床に関しては、出入り口、つまりドアまで拭き取られています。その事から殺人事件と断定し、捜査する事になった。以上」
 「床まで拭いてるの?」

 伊東は、大きく頷く。

 ――指紋をふき取るのはわかるけど、床を拭くって事は足跡を消したって事よね?

 普通は指紋を拭き取ろうと言う発想は浮かぶが、足跡を消そうとはしない。そういう事に詳しい者なのか?
 ドラマでもあまりない状況に、ミキは首を傾げた。

 「満足か? で、君も何かわかった事があったら教えて欲しいんだが……」

 遊佐が、鋭い目でミキを見て言った。
 知っている情報を渡せと言ってきたが、あるのは星空を見ていた女性の事だ。その女性については、鎌田が話している。ただ彼女が楠ではないかもしれないだけだが、それは確証がない。

 ――どうしようかな? 今更、出かけてましたって言いづらいし。

 ミキの推理では容疑者は、スタッフと堀だけだと言いたいが、理由が言えない。

 「うーん。取りあえずない。あの、オーナーの棟方さんって、本当に今日戻って来たんですか?」
 「ちゃんとした確認はまだですが、ここに来るには車以外ないので、来たらスタッフの人が気づくでしょう。計画的犯行ではないのですから、わざわざ車を遠くに止めて犯行に及んだとは考えづらいと思います」

 伊東の説明にそれもそうかと、ミキは頷く。
 だがそうなると、昨日の夜の女性が棟方ではなくなる事になり、反対に謎が深まった。

 「そういえば、伊藤さんが部屋を訪ねた理由って?」

 ふとそう思い、ミキは伊東に聞いた。

 「彼女の話によると、別に約束があった訳ではなく、暇潰しに雑談をしに行ったそうです」
 「伊藤さん、一番の部屋の相内さん達と仲よさそうだったけど?」

 ミキがそう言うと、伊東は頷いた。

 「朝からカップルの部屋を訪れるのは気が引けたそうです。ミキさんではなく楠さんを選んだのは、昨日席が隣同士だったし話かけやすかったからで、ノックしても返事がなく、何気なくドアノブを回したら開いたので覗いたそうです」
 「なるほどね……」

 ――まあ確かに、朝からカップルの部屋にお邪魔するのもね。前日、遅くまでいたようだし……。第一発見者になったのは、偶然って事か……。

 第一発見者が犯人説を当たってみたが、空振りのようだ。
 そもそも自分で見つけなくてもいい状況だ。証拠を残しそれを回収する為ならわかるが、伊藤は部屋の中に入ってはいなかった。

 「そうだ。スタッフの人は、夜どこにいたんですか? 自宅?」
 「いえ、客が泊まる部屋の向かい側が、スタッフの部屋になっていて、高橋さん菅原さん西村さんは部屋で寝ており、夜担当の鎌田さんは夜十時からカウンター裏で待機していたと証言しています」

 ――スタッフもこの建物内にいたのなら犯行は可能よね? でも動機が全員ないんだよね。

 っと、ミキは考え込む。
 黙り込んだ彼女を見て、遊佐が言う。

 「俺達は部屋に戻るが、一人で行動するなよ!」
 「はいはい」

 本当にわかっているのかという視線をミキに向けて、二人は部屋を出て行った。
 ミキは、すぐさまパソコンをテーブルに持って来ると、今聞いた情報を入力する。

 「この犯人、変よね。不可抗力で殺してしまったって事だろうし。直ぐに逃げ出したいはずなのに、丁寧に床まで拭いて……」

 ――余程、慎重派の人物なんだろうか?

 いやいや慎重派ならこんな事態にならないだろう。どちらかというと、心配性な性格の犯人なのかもしれない。

 「あ、そうだ。一応、チェックしておこう」

 カチカチとパソコンを操作し、その指がピタッと止まった。

 「嘘……書き込まれてる。もしかしてって思ったけど……。これ、なんとかしないと……」


 北の大地の宿泊施設で殺人事件発生! 容疑者扱いで缶詰状態(><)明日、解放してくれるのだろうか……。


 と、掲示板に書き込みがなされていた。
 今は直ぐにネットに情報を流せる時代だ。そしてこういうたぐいは、言いたくなるもんだ。

 ――この書き込み、絶対この事件の事だよね? これ以上書き込まれたら困るんだけど。角が立たないように、うまくやめさせないと……。

 事件に興味ないのに告げ口をしたのがバレれば、朝食時にした芝居が無駄になり、犯人を捜しづらくなる。

 トントントン。
 突然ドアがノックされ、ミキはビクッと肩を震わせる。
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