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3話 犯行時刻と謎の女

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 ピピピ。ピピピ。
 少し高めの音がスマホからなり、ミキは目を覚ます。朝の六時だ。

 「ねむ……」

 結局昨日寝るのが遅かったので、まだ眠気を覚える。
 ミキは、のそのそと起きるも身支度を終え、ソファーに座った。
 新聞代わりにノートパソコンで、ニュースをチェックする。ミキの日課である。

 「きゃー! くすのきさん!」

 と、そこに突然悲鳴が聞こえ、ミキは咄嗟にパソコンの時間を確認する。七時二分。
 直ぐにドアを開け見ると、隣の楠のドアを開け、青ざめて立っている伊藤がいた!
 今日彼女は、ブルー色のワンピースを着ていたが、それよりも青ざめて見える。

 「どうした?」

 声に驚いて出て来た遊佐ゆさが先に声を掛けると、伊藤は部屋の中を指差す。
 部屋の中を見た遊佐は、眉間にしわを寄せる。
 ミキがそっと部屋を覗こうとすると、遊佐が止めた。

 「見ない方がいい」

 部屋には、楠がうつ伏せで倒れていた!
 遊佐は、倒れた楠に近づいて行く。

 ミキは慌てて部屋に戻り、バックからICレコーダーを取り出した。
 それを胸ポケットに忍ばせる。

 ――まさか殺人事件? に遭遇するなんて!

 ミキの職業は、記者だった!
 いつでもポケットに忍ばせれるように、必ずポケット付きの服を着ている。
 今日は、濃いグリーン色のシャツにジーパン。

 部屋の外に出ると、遊佐を除いた泊まり客全員と、夜担当の男性スタッフの鎌田が立っていた。
 昨日の夜、カウンターの奥で寝ていたスタッフである。

 ミキが楠の部屋に入っていくと、そこには倒れた楠の傍に立ち、スマホで話しをしている遊佐がいた。
 楠は、壁から少し離れて手を下に伸ばした状態でうつ伏せに倒れていた。

 「時刻は七時七分。楠里奈さん。女性。うつ伏せ状態で頭に血痕あり。白いシャツに紺のタイトスカート。特に衣服の乱れはなし。左ふくらはぎに昔の大きな傷? ……あり」
 「おい。何をやってるんだ?」

 遊佐に構わず、レコーダーに状況を吹き込んでいると、彼は声を掛けて来た。
 見ると、憮然としてミキを見ていた。

 「警察が来るまで、部屋の外に出てくれないか? そう言われたので」
 「あ、ごめんなさい。そのやっぱり亡くなっているの?」

 ミキの質問に、遊佐は静かに頷いた。
 彼に言われた通り、ミキは部屋の外に出る。
 暫くすると、サイレンが聞こえ警察が到着した。

 ○ ○

 宿泊客全員、食堂に集められた。
 昨日の夕飯と同じ場所に座るが、ミキの前の席には、誰も座ってはいない。

 「申し訳ありませんが、ご協力お願いします。私は、宮川です」
 「俺は、伊東です」

 刑事が、それぞれ警察手帳を見せ、協力をお願いする。それに、皆が頷いた。
 年配の刑事が宮川で、若手で背がちんまりしたのが伊東である。

 「では早速。えーと、第一発見者の伊藤さん。あ、俺もイトウだけと、東の方です」
 「余計な事を言ってないで、本題に入れ」

 場を和ませようとしたのだろうが、宮川に注意を受ける。

 「はい……。では、二十三時三十分から一時三十分までどこで何をしていましたか?」

 それが、犯行時刻のようである。

 「零時過ぎまで、相内あないさんと八田はったさんの部屋でお酒を飲んでいました。その後は、部屋に戻り寝てました」

 俯きながら、伊藤はそう答えた。

 「なるほど……。では、お隣の相内さんは?」
 「わ、私もお酒を飲んだ後、部屋で寝てました」
 「俺も。十二時半には寝てたよ」

 聞かれてもいない、八田も続けて答えた。

 ――夜中だし、普通寝てるよね。あれ? 女性陣二人共、零時過ぎまで一緒にいたの? じゃ、私が見た女性って誰? どう見てもスタッフの人ではなかったし……。

 ミキは、狐につままれたような気分だった。
 昨日展望台で見た女性は、アットホームの玄関から中に入って行った。忘れずに施錠もきちんとしたお蔭で、ミキは締め出しをくらったのだから間違いない。

 「では、堀さんはどうでしょうか?」
 「……僕も寝てました」

 少し震えた声でそう答えた。

 「えーと、ゆ、遊佐さんは、いかがでしょう?」
 「俺も十二時前には、寝てました」

 こちらは、しっかりと刑事の目を見て答えていた。
 遺体に近づいて警察に連絡したり、度胸があるというか、肝が据わっている。

 「そうですか……」

 刑事の伊東も遊佐の態度に、おどおどしているように見える。

 ――さて、どうしたものか……。

 ミキは、本当の事を話すかどうか迷っていた。
 本当の事を話せば、昨日の女性の事を話さなくてはいけない。だがその女性がいなかったという事になれば、話した事で自分が嘘をついたと疑われるのではと考えていた。

 「では、か、か、させさんは……」
 「言いづらいのでミキでいいですよ。私も寝てました」

 見た女性が誰か判明しない以上、言わない方がいいと寝ている事にした。嘘にはなるが、自分は犯人ではない。今ミキは、警察に目をつけられる訳にはいかなかった。

 ミキは、そっと伊藤と相内を観察する。
 背の事は目の錯覚かもしれない。

 「失礼します。遅くなり申し訳ありません。このアットホームの責任者の棟方とうほうです」

 突然、声を掛けてきた人物に、皆が振り向いた。

 髪はアップして留めてあるが、長さ的には胸ほどあるだろう女性だった。スタッフと違い、紺系のスーツを着ていて、年齢は四十前後に見える。
 棟方は皆にお辞儀をした。

 「用事が押して、戻りが今日になり、大変ご迷惑をお掛けしました」
 「あ、オーナーの棟方千陽子ちよこさんですね。えっと、後でアットホームの事をお聞きしますので……」

 伊東の言葉に棟方は頷き、振り返りながら言う。

 「はい。で、うちのスタッフの鎌田が思い出した事があるようで……」

 よく見ると、棟方の後ろに鎌田がすまなそうに立っていた。

 「思い出した事とは?」

 宮川が聞くと、スタッフの鎌田は控え目に答える。

 「午前一時頃なのですが、廊下で女性の後ろ姿を見たんです……」
 「え? その女性というのは誰かわかりますか?」

 鎌田の言葉に、全員が驚き注目する。
 女性は、ミキ以外にも目撃者が存在した!

 「多分、多分ですよ? もしかしたらそうかも程度ですが、亡くなった楠さんです……。なんとなく、服装がそうかなって」

 ――え? 楠さんだったの! だとしたら戻った直後に殺された事になるじゃない!

 ミキは、そう思うも違和感を覚える。

 「もし彼女だとすると、犯行時刻が絞れるな。伊東、ここは任せた」
 「はい……」
 「鎌田さん、申し訳ありませんが、向こうでもう少し詳しくお話をお聞かせください」

 宮川がそう促すと、鎌田と棟方は食堂を出て行った。
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