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8:下手くそな泣き方

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 あれからしばらく、俺は部屋で大人しくするように言われてしまった。まぁ自分でもびっくりして怖かったし、家族も不安そうだったため、大人しくすることにした。

「ひま~……ひーまー……」

 部屋に1人、広い空間に発した言葉が意味もなく消えていく。
 持ってる本は全部読んだ。ぬいぐるみもあらかた遊んだ。今はぬいぐるみの両手をもってぶんぶんと縦に回しながら暇を潰している。

 大人しくしててと言われたけれど……誰か来てくれても良くない?!

 いや、来てくれてるんだけどね。みんな忙しいから、ずっとはいられない。外に人は待機しているけれど、入っては来ない。

 ベッドから起き上がり窓の外を見ると、ナルコーナ姉さんが母さんと庭でお茶をしていた。

「もう、いいかな?」

 また、ずるいと思う。俺が望んだことなのに、つくづくないものねだりでいやになる。外にいるのがうらやましい。だけどべつに、俺にかかりっきりになって欲しいわけじゃない。だってそうすれば8歳の姉のナルコーナは寂しい思いをすることになるから。だから、元気なうちに混じりたいって話だ。

「よし!いこう!」

 そう決めて扉を開けると、そばで待機していた使用人がどうしたのかとたずねてくる。

「どうされましたか?何か必要なものでも?」
「……まだ、へやからでちゃ、だめ?」
「……そう、ですね。許可はまだ出ておりません」
「たいくつ」
「……新しい本をご用意いたしましょうか?」
「……かあさんと、ねぇさん、そとにいた」
「…今は、お庭でお茶を嗜まれておりますね」
「……ぼくも、いきたい…」
「……………」
「ねぇ!」
「…か、確認してまいりますので、お部屋で、お待ちいただけますか」
「……うん」

 ずっと、申し訳なさそうな使用人に、より同情してもらうため、悲しそうな表情作りをわすれない。そして確認しに出ていった使用人を見届け、廊下に誰もいなくなったので、部屋を出て歩き出す。また苦しくなるのは嫌なので、ゆっくり、呼吸を整えながら、誰にも会わないように歩く。

「ロス!」
「あ…」
「勝手に部屋を出ちゃだめじゃないか!何してんだよ?」
「あう…」

 見つかった。フドナス兄さんだ。流れるように俺を抱き上げ、俺に注意しながら熱がないか額に触れ確認をとる。体調に問題ないことを確認して、少し安心したように息をついた。

「どこ行こうとしてたんだ?」
「おにわ」
「は?なんで」
「……」
「なに、退屈だったのか?」
「…」
「今からロスの部屋へ行くところだったんだ。兄ちゃんと部屋で遊ぼうな?」
「……うん」
「なんだよ、嬉しくないの?」
「……、わかった……」

 少し困ったように頬をうりうりされ、仕方がなくわかったと返事をする。しかし、悔しい。見つからなければ、人生初めての庭に行けたかもしれないのに。そんなふうに思っていると、感情に素直な子の体は簡単に涙を流した。

「…っ!え、しんどいのか?兄ちゃんと遊ぶのが嫌なのか?」
「…ううん……なんれも、ない……へや、戻る……」
「えぇ……とりあえず、部屋、戻ろう。またしんどくなるから、泣くな。悪かった。自分で歩くか?」
「……あるく……」
「わかった」

はらはらとこぼれ落ちる涙の止め方なんて分からない兄と俺。とりあえずと降ろされたので手を繋いで部屋へ戻る。それがまた何故か悲しくなってしゃくり上げるように泣き始めてしまった。

「えぇ…ちょっと…まって、よしよし、何が悲しいんだよ…よしよし、よしよし、大丈夫だぞ」

困惑しつつも抱き上げて背をぽんぽんと叩きあやそうとする。

「ひっく…うぅ…ひっく…けほ…っく…」
「あ、ほら、咳、出てきてる、泣き止んでくれ、兄ちゃんが、悪かったから、な?酷くなる前に、あーもう……」

なかなか泣きやめなくて申し訳ない。フドナス兄さんは悪くない。だけど、泣かせたと思っているのか、焦ったように部屋を出て、三階へと向かった。

「うぅ…ひっく……ケホケホ…ゴホッ…うぅ~ん……んっく…」
「父さん、父さん失礼します!」
「なんだ、おぉローリーどうしたんだぁ?」
「何故か泣かせてしまったんです。泣き止まなくて、咳出てきてるし、どうしたらいい?」

急いで向かったのは父グスタフの部屋だった。盗賊団討伐を終え帰ってきている。今はヘンリス兄さんと一緒に後処理の仕事中のようだった。
泣き止ませられなくて困った兄さんは父さんにパスしに来たのだろう。
流れるように抱っこをかわった父がどうしたどうしたとあやしにかかる。

「何をして泣かせたんだい?」
「わからないんだ。急に、泣き始めて、部屋に戻ったらさらに泣き出して」
「部屋に戻ったらって外に出たのかい?」
「あぁ、部屋の外にいたんだ。それで、部屋に戻って遊ぼうって抱っこして戻ろうとしたら泣き出して、自分で歩きたいのかと思ったから、下ろしたんだけど泣き止まなくて、部屋に着いたら、さらに泣き出したんだ」
「ローリー、体調が悪くなったのかい?」
「っく…うぅ~んケホケホ…ゲホ…」

首を振って否定する。泣きやめない。泣き声だけでも抑えたくて声を出さないようにしているけど、漏れてしまう。それで余計に苦しくて、咳が出てしまう。

「違うようだね。ローリー、お部屋に戻るのが嫌だったのかい?」
「そういえば、庭に行こうとしてたみたいだった」

こくりと頷くと、父はそうかそうかといってよしよしと揺れながら背をぽんぽんと叩きあやしてくれた。

「部屋にまた戻るのが嫌だったんだね。あまり声を抑えると苦しいから、声を出しちゃいなさい。ヘンリス、お水を頼んでくれるか」
「わかりました」
「フドナス、君のせいじゃないよ。ローリー、兄さんが嫌だったわけじゃないんだろ?」

こくりこくりと頷く。喉が狭まって咳が酷くなるが、構わない。そこは否定しなければならない。

「さぁ、ヘンリスがお水を貰ってきてくれたよ。泣き止んだら、お水を飲もうね、よしよし、」

しばらくそうしてあやされていると、泣き疲れて、泣き止んだ。

「さぁ、沢山泣いて疲れただろう、お水を飲もうか」
「んっく…っく…っく…ぷぁ…」
「もういいかい?」
「あい…」
「眠そうだね、いいよ、疲れたね」
「んぅ……」

泣き疲れて寝るなんてと思うけれど、父さんの優しい声音と温もりで直ぐに落ちた。






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