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第一章

ドワーフ、とりあえず冒険に出てみるのこと

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 さて、冒険者ギルドでの人材募集が空振りに終ったダーは、その後さまざまな手段を駆使し、三人の冒険者を雇うことに成功した。
 どのようなルートかといえば、まあ様々な抜け道もあるのだ、としかいえない。
 ダーとエクセ=リアンの前に立っているのは、同じような顔をした、同じような鉄製の鎧と剣で武装している、三人の同じような冒険者だった。
 三者とも平凡な顔つきで、特徴らしきものは何もない。
 名前はジンジンと、ジンギと、スカンだ。

「ダーさん、よろしくお願いします」とジンジン。

「エクセさん、本当にお美しい」とジンギ。

「われわれお役に立って見せます」とスカン。

 三人がほぼ同時にしゃべるので、ちょっと何を言ってるのかわからない。

「………ダー、すこしお話があります」

 少し離れた位置に移動したエクセが、ちょいちょいと手招きする。


「なにかな」

「なにかな、じゃありません!! 彼らは三人とも戦士じゃないですか! あなたを含めて戦士4人ですよ? どこの世界に戦士4人と魔法使い1人でパーティーを組むアホ者がいますか!?」

「ここにおるじゃないか。超攻撃的パーティーと呼んでもらおう」

「ああそうですか。私は家に帰らせていただきます」

「まあ落ち着くがいい我が相棒。実際、冒険してみないとわかるまい」

 言いつつ、ダーも我ながらアホなパーティーじゃわいと思わないでもない。
 だが、あらゆるツテを頼ってかろうじて集めたのがこのメンツなのだ。
 ダーにも、もはやどうしようもないのである。

「戦闘後、治療もできないで全滅とか、宝箱を見つけて罠で全滅とか、暗い未来しか想像できませんけどね……。ハア、何で私はこんな人の口車に乗せられてこんな旅に出るはめに………」

 悪態をつくだけつくと、気が済んだようだ。
 エクセ=リアンは懐から折りたたんだ地図を取り出し、今後の行動プランを説明しはじめた。
 なんだかんだでお人よしである。
 なので、ダーも本気で彼が抜けるとは思っていない。 

「――さて、四人の向かった先はある程度、予測がつきます」

 エクセが広げたのは、ヴァルシパル王国領の地図であった。
  彼らのいる王都は、大陸でもかなり南に位置する。
  ここから北上すれば、フルカ村に到達し、さらに北へ進めば港町ジェルポートに出る。
  先発した勇者たちも、おそらくここへ到達しているだろう、ということだ。

 「問題はここから先の話です。ジェルポートからは大陸じゅうに定期船が出ています。つまり、大陸のどこへでもいけるのです」

 「ふむ、勇者たちはどこへ行ったのか、そこから先の予想は立てられぬか?」

 「東への定期便へ乗ればベールアシュの町が、西の最果てにはザラマという辺境の町があります。さらに西へと進めば隣国のガイアザですね。そこはわが国の同盟国となっています」

 「で、勇者はどっちへ行ったと見当をつけているのじゃ?」

 「魔王軍と交戦状態にあるガイアザへ向かった可能性が高いですが、あなたの話を聞く限り、どこまでこの世界を救う気構えがあるのか不明瞭ですね。観光気分で王国内を旅している可能性も否定できません。まずはジェルポートへ向かい、そこで情報収集しましょう。我々は戦力を整える必要もありますし、やはり治療のできる人材が必要ですね」

 「迂遠じゃのう、直接ガイアザへ乗り込むわけにはいかんのか?」

 「勇者からの依頼ならばともかく、ただの冒険者が戦地へ船を出してくれと言っても拒絶される可能性が高いですね。我々は名声を高める必要があります」

 「名声? どこかの誰かを救って回るのか。ますますもって迂遠なはなしじゃのう」

 「知名度を上げていくこと。それで町の支援を得てゆく。我々は救国の勇者ではなく、何の後ろ盾もない一介の冒険者です。人々の支持を得ていかない事には、なにひとつ先に進みません」

「よし、よくわからんが、それでいくんじゃ!」

「………よくそれでこの国を救う、なんて啖呵が切れましたね」

「いいから行くぞ、ダー救国戦士団の初陣じゃ!!」

「なんですか、その寒いネーミングセンスは?」

 ダーは厚い面の皮で、冷たいエクセの視線を弾き返し、やる気に満ちたマッスルポーズを取った。
 そういうわけで、さっそく五人は王都から北上し、エクセの示すジェルポートの町に向かうことにしたのだった。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―



 ――しかしその道中、思いもよらぬ事態に遭遇した。
 日数短縮のため、通り過ぎようとしたフルカ村から、火の手あがっているのだ。

「ダー、これはただごとではなさそうです」

 フルカ村は、頑丈そうな木々を組み合わせた高い柵で、ぐるりとその身を囲っている。
 さらにその周囲には、川から水を流し込んで堀をうがち、敵の襲来を防ぐようにしていた。
 出入りするためには、丸太で組み上げた、大きな跳ね橋を降ろす必要がある。
 村の規模としては、なかなかの防御体制だ。
 だが、次々と押し寄せる魔物の群れに対しては、無意味だったようだ。
 
 跳ね橋は突然の襲来に、上げる暇もなかったのであろう。そのまま渡れるようになっている。
 ダーたちはその上を通過した。
 柵の門はすでに突破され、村内で乱闘になっている。

「まさか、このような近場で魔物が発生しようとはな」

 思わぬエンカウントというやつだ。
 しかし逆に言えば、早くも手柄をあげるチャンスでもある。
 ダーはぺっと唾を吐いて、得物の大きなバトルアックスを背中から引き抜いた。

「よし、ダー救国戦士団の初陣じゃ!」

「だからそのネーミングは……」

 言いも終わらぬうちだった。すでにダーの姿は消えている。
 まるで撃ち出された砲弾のように、突進していく。

「相変わらずですね……まったく」

 内部にはゆうに十数匹を超えるオークの群れが村民を襲っていた。
 抵抗しているのは、村に雇われた冒険者だろう。
 しかし抵抗は単発で、組織だったものではない。
 大地には数体のオークの屍。そして二人の冒険者の死体が転がっている。
 人数的に、かなり奮闘したというべきだろう。
 残って戦っているのは三人だけだった。壊滅も時間の問題だろう。

「うっしゃあああ!! ダー参上!!」

 そこへ唐突に、丸い砲弾と化したダーが突っ込んだ。

「ガゴガオゴゴオゴr!?」

「えーい、共通語でしゃべらんかい!!」

 返事も待たず、目に付いた一匹をバトルアックスの一振りでまっぷたつにする。
 重い斧を振った遠心力で、そのままグルッと回転。
 勢いを利して、うしろから襲いかかるオークも叩き斬った。

「ワシがダーじゃ! 覚えたか!!」

「――あのドワーフ、強い!」

 窮地に追い込まれた冒険者たちは、自分たちもオークどもと斬りむすびながらも、突如あらわれたドワーフの強さに目をまるくしている。
 ダーの戦法は、ドワーフの中でも異様だ。
 地を這うような低空から斧を斬り上げ、振りぬいて旋回する。
 さらに踏み込み、遠心力を利しつつ、軌道を変えながら横の打撃を繰り返す。
 打撃の位置が低過ぎて、相手は、ほぼディフェンスできない。
 その戦法の根幹は、鍛え上げられた足腰の強さにある。
 次々とダーの足許に、朽木のようにオークの足が、身体が転がっていく。

 これぞ、ダーが父より継承した一子相伝の連続技「地摺り旋風斧ローリングアックス」だ。

「で、でも1人じゃ……ああ、囲まれた……」

 しかし数の不利は、さすがに圧倒的だ。
 たちまち囲まれてしまったダーだったが、さっとその場に丸まると、

「――出番じゃぞ、エクセ=リアン!」

「わかってます―――」

 すでに小さな杖を小刻みに振り回し、空中魔方陣を完成させているエクセ。

「大いなる天の四神が一、青龍との盟により顕現せよ、サンダー・リザード」

 エクセ=リアンの杖から、蜥蜴のかたちをした雷がほとばしる。
 それはダーを囲んでいたオークの群れに、すばやく襲い掛かった。
 しばらく呆然とその場に佇んでいたオークどもは、やがて糸の切れた操り人形のように、バタバタとその場に倒れた。

「ダー、無事ですか?」

「あたり前じゃのうしろまえじゃ」

 ダーは丸まったあと、ゴロゴロとオークどもの足元からボールのように転がって難を逃れたのだ。
 ともに戦ってきた歴史に裏打ちされた、連携プレーのたまものだ。
 さらにエクセは呪文を唱えた。
 冒険者達に魔法のエンチャントをかけ、武器を強化する。

「さあ、まだ敵は残っておるぞ、冒険者たち、戦えるか?」

「はい、援護ありがとうございます」

「一緒にオークどもを蹴散らそうぜ!!」

「………やっつける………」

「―――うむ、心強いやつらじゃ!」

 もはや戦況は一変していた。
 エクセはせわしなく魔方陣を展開させ、ダーは回転し、冒険者たちもそれにつづく。
 押されていた冒険者たちも支援を受け、息を吹き返した。
 こうなると、オークどもは劣勢を覆す方法がないように見えた。
 だが―――

「ナニヲシテイル、バカドモガ!!」

 オークの群れの中から、怒鳴り声がした。
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