銀河オーバードライブ

石嶋ユウ

文字の大きさ
上 下
12 / 13
第四章

旅の果て

しおりを挟む
 雪山の中、俺たちはどうすることもできなかった。セイジは再び意識を失い、レイも頭から血を流して倒れている。二人の脈を確かめてみたが、幸い生きているようだった。しかし、俺自身も無事ではなかった。頭から血が流れていて、さらに腕が思うように動かない。怪我をしている中で追い討ちをかけるように外では吹雪が舞っている。

 ナビに表示されている座標を見てみると、どうやら当初の目的地だった宇宙ステーションまではとても近いようだったが、船が墜落したせいで船に取り付けられている通信装置は壊れていた。このままだと連絡が取れない。船体には墜落した影響で穴が開いており、外気が船内に行き渡り始めたことで、次第に俺たちの居る操縦室が冷たくなってきた。
「…… 寒い」

 思わず口に出てしまったが、誰も返しの言葉を言ってくれなかった。二人は生きてはいるが意識を失っている。このままだと俺たちは凍え死んでしまう。俺は自分のデバイスから放たれる微かな熱で手を温めながら、この状況を乗り越える手段を探すことにした。

 レイに通信装置を直してもらおうと思ったが、レイは今、意識を失っていて直すことができない。セイジに頼んで考えるのを手伝ってもらおうかと思ったが、セイジも意識を失っている。ふと、俺の中で二人の存在が大きいことに改めて気がつく。そうか、俺はこの二人にずっと支えられていたのだなと感慨に浸る。デバイスから放たれる熱が次第に冷たくなっていく。起動すると、もう充電が持たなかったようだった。熱を放つ物を俺は操縦室の中を探し回るが、この部屋には何も置かれていなかったので、見つかるわけがなくて、思わずため息をついた。白い息が目に見える。よく見ると、二人の髪や眉が白くなっていることに気がついた。

 まずい。誰も助けを呼べない中で、俺は自分が生きるために、二人を生かすために、何か使えそうな物を必死で探した。それでも、目ぼしい物は見つけられなかった。俺のデバイスの充電が完全に切れて使い物にならなくなったので、俺はセイジのデバイスを勝手にポケットから抜き取って微かな熱で手を温める。二人の髪と眉はさっきよりも白くなっていて、外の寒さがどれほどものか理解できた。

 俺は角で、縮こまって寒さを凌いでいたが、次第にセイジのデバイスも充電が切れはじめた。このまま死ぬのだろうか。だとしたら、とんだ人生の終わり方だなと思う。そう思うと少し悔しくなった。次第に俺の体も寒くて意識が飛びそうになりはじめた。

 セイジのデバイスが使い物にならなくなったので今度はレイのデバイスを勝手に手に取った。レイのデバイスはエドによって改造されている。どういう改造だっただろうか。そう考えているとあることに気がついた。そうだった。レイのデバイスは改造されたことで、銀河一つ分の範囲ならどこでも通信ができるのだった。俺はそれを思い出して、すぐに行動を起こした。

 レイのデバイスを起動して、まずは現在地の座標を調べ、次にその座標の情報と共に救助隊へのsosを送った。これであとは、俺たちが死ぬ前に救助が来るのを待つだけになった。

 外の吹雪はとても強くて船内にも寒さが伝わり続けている。俺の体はもう限界まで来ていた。思うように体が動かせないのと、意識が消えそうになる。消えそうな意識の中で俺には人生で二度目の走馬灯が見え始めていた。今度は前よりも長かった。

 生まれた時、父と母が不仲になりはじめた時、レイとセイジに出会った時、二人との友情が生まれた時、“町”に不満を抱きはじめた時、宇宙船を見つけた時、三人で宇宙へ行こうと決めた時、船を修理している時、母が出て行って父を殴った時、船で“町”を出た時、エドにあった時、エドにいろいろなことを教えてもらった時、海賊に捕まった時、アリスに勇気づけられた時、村長と戦うことを選んだ時、ドン・ボラーの目を撃った時、セイジを担いで戦場を駆け回った時、壊れかけの船を飛ばそうと決めた時。

 いくつもの場面が頭の中で蘇る。俺はあの退屈だと思っていた日々の中で生きる意味をずっと見いだせていなかった。だけど、今になって、とんでもない回り道をしてやっと気がついたことがある。自分のために生きる意味を探し続ける。結局はみんな、この問いへの結論は出ないのだ。だからこそ、自分で満足のいく結論を求めて生きている間ずっと旅をする。それがひとまずの俺の結論だった。この先も、人生という旅は続く。その中で何ができるだろうか。

 まずは“町”に帰ろう。帰って迷惑をかけたみんなに謝ろう。しばらくしたらお金を貯めて三人で新しい船を買おう。船を買ったら今度はちゃんと目的地を決めて旅に出よう。旅先でいろんな人に会って、いろんなことを学ぼう。人生を学んだらそれを教訓にして生きていこう。生きているうちにいいことをしてみよう。

 なんだ、よくよく考えたらあるじゃないか。俺の生きる意味が。そう思って少し微笑んだところで俺の意識は途絶えた。

 意識が飛んでいる間、俺はあの頃の夢を見た。思い出したのだ。あの頃のことを。
「ワタル! 一緒に遊ぼう!」
 そう言って、俺の手を握った少女はメリーだった。幼い俺は迷わずに彼女の後をついて行った。

 彼女と遊んだあの日々のことは決して忘れられない日々だった。やがて、レイとセイジが仲間になって、俺たちは四人で楽しい日々を過ごした。

「ねえ、ワタル……」
 ある時、彼女が悲しげな顔をして俺に言った。
「どうしたの? 誰かと喧嘩でもしたの?」
「まあ、そんなところかな……」
「大丈夫?」

「大丈夫じゃないの……、だから、これだけはワタルに言おうと思ってね」
「なんだい?」
「お願いだから、レイとセイジとだけはずっと一緒に居てね。それが私が何よりも望んでいることなの。だから、これをあげる」

 そう言って、彼女はトライアングルの形をした金属のアクセサリーをくれた。それは、トライアングルメモリーと言って、半世紀以上前の人々が作った今ではかなり貴重なアクセサリーであり、記憶媒体であった。

「これは?」
「私と、ワタルと、レイと、セイジの思い出が詰まった飾り。これは三つにバラバラにできるから三人で分けて持っていてね。お願いだから、私たちはずっと一緒よ……」

 そうすると、彼女は泣き出して、俺に抱きついた。俺はこの時、彼女に身になにが起こったのか理解できなかった。だけど、何か重大なことを言っているのだということは解っていた。
「わかった! ずっと、大切にするよ! 約束する!」
 俺は敢えて、元気よくこう言った。すると彼女は、にっこりと笑ってくれた。

 それから彼女は、突然俺たちの前から居なくなった。後になって理解したが、彼女の正体は当時、世間を騒がせた人体実験の被験者で、彼女は俺たちにトライアングルメモリーを渡してすぐ、この世を去ったという。

 俺たちは突然いなくなったメリーのことで悲しかった。悲しくなって塞ぎ込んでいると、ふとトライアングルメモリーのことを思い出した。俺はそれを手に持つと、一つのスイッチがあることに気づいた。それを押した時、トライアングルから、立体映像が再生された。それは、メリーとレイとセイジの四人で過ごした日々の記録だった。俺はこの時、なにが起こったのかのかを完全には理解できなかったが、これからなにをすべきなのかを理解した。

 俺は、もうこんな思いはしたくないと思って、レイとセイジとずっと居ることを心に誓った。そして、トライアングルメモリーを三つに分けて、二人に渡した。


 目が覚めると、俺は病室らしき場所に居た。辺りを見回すと、レイとセイジも眠っている。俺たちは助かったようだ。俺の意識が戻ったことに気がついた、看護師らしき人が慌てて誰かに連絡を取っている。良かった。生きている。まだ生きている。ちゃんと生きている。それがいつも以上に嬉しく感じられた。程なくして医者の人がやってきて、俺たちの身に何があったのかを教えてくれた。宇宙ステーションが近くにあったためにすぐに救助隊が現場に着いたという。救助隊はレイのデバイスの現在地情報を利用して、俺たちの居場所を特定した。発見された時、俺たち全員が意識をなくしていたが、全員生きていたという。そこから、宇宙ステーション内の医療センターに運び込んで今に至るということだった。レイとセイジは無事に生きていた。俺はそれがとても嬉しかった。

 この後、俺たちはあの”町“へと帰ることを選んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

実はボク、ダメ人間だったんです。

KuReNo
青春
この話はボクが学生の頃 実際に経験した実話をもとに書いた 作品です。 諦めていたボクの未来を 変えてくれる出来事があったんです。 人生って本当に色々あるんだな って今なると思います。 みんなも良いこと悪いこと 楽しいこと悲しいこと いっぱい経験してきたと思います。 それも全部含めて 良い人生だったなって思えるような 人生を歩んでほしいです。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

性別多様性

夢遊 優
青春
性別が2種類という「常識」 しかし、それは本当なのでしょうか…。 そして迎えた西暦3000年。年号は「SX」1年となりました。 その年の一月一日生まれの「女体の子」 (夢町一番[ゆめまちいちは])と、その仲間達の物語が、 今、始まります。 「性別多様性」とは、いったい何なのか? 15歳になった一番(いちは)が語る、子供たちの物語です。 皆さんもぜひ、非現実をご覧ください。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

夢幻燈

まみはらまさゆき
青春
・・・まだスマホなんてなくて、ケータイすらも学生の間で普及しはじめたくらいの時代の話です。 自分は幼い頃に親に捨てられたのではないか・・・そんな思いを胸の奥底に抱えたまま、無気力に毎日を送る由夫。 彼はある秋の日、小学生の少女・千代の通学定期を拾ったことから少女の祖父である老博士と出会い、「夢幻燈」と呼ばれる不思議な幻燈機を借り受ける。 夢幻燈の光に吸い寄せられるように夢なのか現実なのか判然としない世界の中で遊ぶことを重ねるうちに、両親への思慕の念、同級生の少女への想いが鮮明になってくる。 夢と現の間を行き来しながら展開される、赦しと再生の物語。 ※本作は2000年11月頃に楽天ブログに掲載したものを改稿して「小説家になろう」に掲載し、さらに改稿をしたものです。

女子高生が、納屋から発掘したR32に乗る話

エクシモ爺
青春
高校3年生になった舞華は、念願の免許を取って車通学の許可も取得するが、母から一言「車は、お兄ちゃんが置いていったやつ使いなさい」と言われて愕然とする。 納屋の奥で埃を被っていた、レッドパールのR32型スカイラインGTS-tタイプMと、クルマ知識まったくゼロの舞華が織りなすハートフル(?)なカーライフストーリー。 ・エアフロってどんなお風呂?  ・本に書いてある方法じゃ、プラグ交換できないんですけどー。 ・このHICASってランプなに~? マジクソハンドル重いんですけどー。 など、R32あるあるによって、ずぶの素人が、悪い道へと染められるのであった。

処理中です...