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Happiness
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避妊具を外した後、陸はベッドにバタリと倒れ込んで私の身体を抱き寄せた。
眼の前にある熱っぽい瞳を見つめ、ありのままの姿で繋がりあえたことに深い喜びを感じる。汗ばんだ身体でまだ息を乱しながら、私は幸せな気持ちに満たされて涙をこぼした。
「泣かないで。雛子が泣いたら、俺も泣いちゃう」
そう言って陸は本当に眼を潤ませて笑った。私たちは涙の混じったキスを交わし、そのまま抱きあってお互いの心音を肌で感じていた。
そうしているうちに、気怠いまどろみの気配を感じ始めた。このまま眠ってしまいそうだと思ったとき、陸が薄明りの中で私に言った。結婚まで、あと2年待ってほしいと。
「本当は、俺の方が今すぐ結婚したいんだ。でも現実的には金も貯めなきゃいけないし、何より男として仕事でちゃんと自信がつかないと、雛子さんを本当の意味で幸せにはできないから」
陸の瞳は暗がりでもキラキラしていて、私は心からその言葉を信じることができた。
「俺、本気でがんばるから。絶対誰よりも成長するから、少しだけ待ってて。・・・まだ頼りないだろうけど、俺についてきてくれるよね?」
もちろん。私は心から微笑んで、陸の唇に優しくくちづけた。陸はすぐに応え、私たちはまた肌を絡ませて甘いキスに溺れていく。
「・・・陸くんのこと、信じてるから大丈夫。私のことも、信じてくれるでしょ?私、ちゃんとその時まで待てるよ」
うん、分かってる。陸は満足げに微笑んで、私の腰をグッと引き寄せた。
「明日の朝、またセックスしようね」
何やら妙にワクワクした表情で言うので、ちょっとこっちが恥ずかしくなる。
「・・・陸くんってやっぱりエッチだよね」
「俺がエロいのは雛子のせいだ」
そう言って身体を押し付けてくる。陸の肌の質感に、私はもうすっかり慣れてしまったみたいだ。
「・・・陸くん、すごい激しかったから、私あそこが痛いよ」
「えっ、ほんと?・・・大丈夫?結構痛む・・・?」
陸が途端に心配そうな顔になる。私はクスッと笑ってもう一度陸にキスした。
「嘘よ。少しヒリヒリするけど大丈夫。きっと明日の朝になれば、また陸くんが欲しくなってる」
「あー、また嘘ついた。罰として、痛いところを舐めてやる」
陸はタオルケットの下に潜り込み、いきなり私の下半身に顔を押しつけてきた。
「あっ、やんっ・・・!陸・・・っ」
ぬるりと舌を動かして、陸が私の性器を舐め始めた。
生暖かく濡れる感触に、私の理性がまたしても飛びそうになる。クリトリスを舌先で器用に転がされ、脱力していたはずの身体がすぐに快楽に引きずり込まれていく。
「ん・・・、美味しい。雛子のすっごいやらしい味がする」
早くも蜜で濡れ始めた秘所を、陸が音を立てて吸っている。私は「ダメ、ダメ」と本気じゃない抵抗を口にしながら、抗えない誘惑に引き摺られるように脚を大きく開いていった。
最初のうち、社内のみんなは興味本位で私と陸の様子を観察していた。
応援してくれる人もいれば、あまり快く思わない人もいた。でも私たちが会社では極力恋人同士の雰囲気を出さず、どちらも真剣に仕事に打ち込んだため、そのうち周囲も以前と変わらぬ自然な空気に戻ってくれた。
近藤くんをセフレ扱いしていたことが知れ渡った相川さんは、あの後わずか二カ月で会社を辞めた。表向きは「やりたい仕事内容ではなかったため」と新人にしてはあまりに傲慢な理由だったけれど、実際は周りから白い眼で見られ、この会社に居続けても目ぼしい男を掴まえられないと見切りをつけたのが真相らしい。
相川さんと仲が良いように見えた石川さんは、あの夏の決起会の後から相川さんと距離を置き始めた。もともと同じ部署に同期の女子が二人だけだったため、他に選択肢がなくつるんでいたのだそうだ。そして何故かあれ以来、石川さんは私に懐いてくるようになった。彼女が何を考えているのかは良く分からなかったけれど、少なくとも事務職の後輩としては真面目で案外頼もしい子だったので、私も彼女とは自然に接することができた。
仕事を通じて信頼できる仲間に恵まれるのは、とても嬉しいことだと最近つくづく感じている。それは陸も同じらしく、彼は久保田課長に鍛えられながら、営業のホープとして目覚ましい成長ぶりを周囲に見せつけていた。
翌年の春に、絵梨と久保田課長が結婚した。
私と陸以外は誰も二人の関係に気づいていなかったので、社内は相当な騒ぎになった。久保田課長がバツイチなので内輪だけの簡素な式だったけれど、神前に愛を誓う二人の姿は想像以上に感動的だった。
いつもの豪快なキャラに似合わぬ白無垢姿の絵梨は、「次はあんたたちの番だね」と言って私の涙をハンカチで拭いてくれた。絵梨はこういうときでも余裕の表情で、自分の結婚式なのに他人事のように面白がっていた。
「普通、こういう時って花嫁の方が泣くんじゃないの?」
陸が私をからかい、でも「よしよし」と言って肩を抱いてくれる。
「・・・私より、課長の方がすごいじゃない」
涙声で指摘すると、陸と絵梨が「ああ・・・」と呆れ気味の声で後ろを振り返った。
式の初めから延々泣き通しだった久保田課長は、今も老いた母親と手を握り合ってグスグス鼻を啜っている。その平和な姿をのんびり眺め、私たちはクスクスと幸福な笑みを交わしあった。
☆
陸が社会人になって3年目の初秋、私たちは念願の結婚式を挙げた。
陸は25歳、私は29歳になっていた。
あまり派手なことはしたくなかったので、お互いの親族の他は絵梨と課長の夫婦やごく親しい友人のみ参列してもらい、ささやかだけれどアットホームな結婚式になった。
お気に入りのレストランを借り切った二次会には会社の同僚たちが駆けつけてくれ、陸はさんざん冷やかされながらみんなの前で5回も私にキスして見せた。
ハネムーンは定番のハワイに出掛け、奮発してかなりリッチな部屋に泊った。滞在中はふたりで海を眺めながら、それはもう眼が眩むほど甘い(エッチな)バカンスを満喫した。
どちらの家族も私たちの結婚を祝福してくれたけれど、何と言っても一番喜んでくれたのは陸の母親だった。
陸の実家にはつきあい始めてわりと早い時期に挨拶に行っていた。陸のお母さんは数年ぶりに私の顔を見て、「ああもう、先生ーー!!こんなことになるなんて、嬉しいったらないわぁ」と大袈裟に歓迎してくれた。
家庭教師をしていた人間が息子とつきあうだなんて、母親としてはむしろ気分が良くないのではと不安だった。けれど、それも杞憂に終わった。思い起こせば、当時から陸のお母さんは私をとても気に入ってくれていたのだ。
「うちは娘が欲しいのに恵まれなかったから。雛子さんが家庭教師に来てくれてた頃は、家の中が華やかになって楽しかったのよぉ」
そう懐かしがり、今では息子より私への連絡の方が多いくらい仲良くしてくれている。お義母さんと私が楽しげに話していると、陸はいつもとても嬉しそうな顔になる。
結婚してから最初に陸の実家を訪れた時、私たちは懐かしい2階の部屋を覗いて見た。
陸が家を出た後もずっと置きっぱなしだった勉強机とベッドを、とうとう処分することに決めたとお母さんから聞かされていた。その前にどうしてもあの頃の部屋を見ておきたかったので、陸の両親がスーパーに出掛けている間に、ふたりで2階に上がってみたのだ。
秋めいた柔らかな陽射しが差しこむ部屋に足を踏み入れた途端、あの頃の記憶が蘇って胸が締めつけられるように痛んだ。
陸がこの勉強机に座り、私はその横に台所から借りてきた椅子を置いていつも腰かけていた。
呆れるほどくだらない冗談から、真面目な将来の話、好きな映画や本のこと、親にも友達にも話せない内緒の話。
あの夏の私たちは、勉強の休憩時間では到底足りないくらいたくさんたくさんお喋りをした。この家に通うことが楽しみで仕方なかった。陸と過ごす時間が、たまらなく嬉しくてせつなかった。
話せば話すほど、笑いあえば笑いあうほど陸に惹かれていった。その気持ちに気づかないふりをしながら、陸と過ごせる残りの日数を数えて淋しさに慣れようとしていた。
「俺もそうだったよ。雛子センセーに逢えなくなったらどうやって毎日過ごせばいいんだろうって、そんなことばっかり考えて焦ってた」
だから無理矢理襲ったんだけどね。陸はニヤリと笑って私を後ろから抱きしめた。
「・・・でもこうして雛子と結婚できたんだから、あの時の無茶苦茶な自分も今となっては間違ってなかった気がする」
ちょっと自分を正当化しすぎかな。そう笑いながら、陸が私の唇を優しく塞いだ。
私の唇はすぐに濡れていく。陸のキスはいつだって、私をこの上ない幸福へと導いてくれる。
「間違ってなかったのよ。私たち、ずっと同じ気持ちだったんだもの」
私は陸の手を握ると、ベッドへと引っ張って行き並んで腰を下ろした。布団も何もない、マットレスだけが置かれた古いベッド。
あの夏も、ドキドキしながらこうして並んで腰かけた。
不安と戸惑いと、押し隠したときめき。お互いに嘘をついたまま、恋する気持ちに蓋をして抱きあった。傷ついて、傷つけて。回り道したからこそ、今こうして一緒にいられる幸せに胸がいっぱいになる。
「おふくろたち、買物行くと長いから2時間は帰ってこないよ」
陸がひどく色っぽい眼で私に囁いた。
この眼差しがたまらなく好きだ。初めて出逢った日、私を眩しそうに見つめていた陸の瞳。
私たちは共犯めいた笑みを浮かべると、甘いキスとともに懐かしいベッドに倒れ込んだ。
FIN
眼の前にある熱っぽい瞳を見つめ、ありのままの姿で繋がりあえたことに深い喜びを感じる。汗ばんだ身体でまだ息を乱しながら、私は幸せな気持ちに満たされて涙をこぼした。
「泣かないで。雛子が泣いたら、俺も泣いちゃう」
そう言って陸は本当に眼を潤ませて笑った。私たちは涙の混じったキスを交わし、そのまま抱きあってお互いの心音を肌で感じていた。
そうしているうちに、気怠いまどろみの気配を感じ始めた。このまま眠ってしまいそうだと思ったとき、陸が薄明りの中で私に言った。結婚まで、あと2年待ってほしいと。
「本当は、俺の方が今すぐ結婚したいんだ。でも現実的には金も貯めなきゃいけないし、何より男として仕事でちゃんと自信がつかないと、雛子さんを本当の意味で幸せにはできないから」
陸の瞳は暗がりでもキラキラしていて、私は心からその言葉を信じることができた。
「俺、本気でがんばるから。絶対誰よりも成長するから、少しだけ待ってて。・・・まだ頼りないだろうけど、俺についてきてくれるよね?」
もちろん。私は心から微笑んで、陸の唇に優しくくちづけた。陸はすぐに応え、私たちはまた肌を絡ませて甘いキスに溺れていく。
「・・・陸くんのこと、信じてるから大丈夫。私のことも、信じてくれるでしょ?私、ちゃんとその時まで待てるよ」
うん、分かってる。陸は満足げに微笑んで、私の腰をグッと引き寄せた。
「明日の朝、またセックスしようね」
何やら妙にワクワクした表情で言うので、ちょっとこっちが恥ずかしくなる。
「・・・陸くんってやっぱりエッチだよね」
「俺がエロいのは雛子のせいだ」
そう言って身体を押し付けてくる。陸の肌の質感に、私はもうすっかり慣れてしまったみたいだ。
「・・・陸くん、すごい激しかったから、私あそこが痛いよ」
「えっ、ほんと?・・・大丈夫?結構痛む・・・?」
陸が途端に心配そうな顔になる。私はクスッと笑ってもう一度陸にキスした。
「嘘よ。少しヒリヒリするけど大丈夫。きっと明日の朝になれば、また陸くんが欲しくなってる」
「あー、また嘘ついた。罰として、痛いところを舐めてやる」
陸はタオルケットの下に潜り込み、いきなり私の下半身に顔を押しつけてきた。
「あっ、やんっ・・・!陸・・・っ」
ぬるりと舌を動かして、陸が私の性器を舐め始めた。
生暖かく濡れる感触に、私の理性がまたしても飛びそうになる。クリトリスを舌先で器用に転がされ、脱力していたはずの身体がすぐに快楽に引きずり込まれていく。
「ん・・・、美味しい。雛子のすっごいやらしい味がする」
早くも蜜で濡れ始めた秘所を、陸が音を立てて吸っている。私は「ダメ、ダメ」と本気じゃない抵抗を口にしながら、抗えない誘惑に引き摺られるように脚を大きく開いていった。
最初のうち、社内のみんなは興味本位で私と陸の様子を観察していた。
応援してくれる人もいれば、あまり快く思わない人もいた。でも私たちが会社では極力恋人同士の雰囲気を出さず、どちらも真剣に仕事に打ち込んだため、そのうち周囲も以前と変わらぬ自然な空気に戻ってくれた。
近藤くんをセフレ扱いしていたことが知れ渡った相川さんは、あの後わずか二カ月で会社を辞めた。表向きは「やりたい仕事内容ではなかったため」と新人にしてはあまりに傲慢な理由だったけれど、実際は周りから白い眼で見られ、この会社に居続けても目ぼしい男を掴まえられないと見切りをつけたのが真相らしい。
相川さんと仲が良いように見えた石川さんは、あの夏の決起会の後から相川さんと距離を置き始めた。もともと同じ部署に同期の女子が二人だけだったため、他に選択肢がなくつるんでいたのだそうだ。そして何故かあれ以来、石川さんは私に懐いてくるようになった。彼女が何を考えているのかは良く分からなかったけれど、少なくとも事務職の後輩としては真面目で案外頼もしい子だったので、私も彼女とは自然に接することができた。
仕事を通じて信頼できる仲間に恵まれるのは、とても嬉しいことだと最近つくづく感じている。それは陸も同じらしく、彼は久保田課長に鍛えられながら、営業のホープとして目覚ましい成長ぶりを周囲に見せつけていた。
翌年の春に、絵梨と久保田課長が結婚した。
私と陸以外は誰も二人の関係に気づいていなかったので、社内は相当な騒ぎになった。久保田課長がバツイチなので内輪だけの簡素な式だったけれど、神前に愛を誓う二人の姿は想像以上に感動的だった。
いつもの豪快なキャラに似合わぬ白無垢姿の絵梨は、「次はあんたたちの番だね」と言って私の涙をハンカチで拭いてくれた。絵梨はこういうときでも余裕の表情で、自分の結婚式なのに他人事のように面白がっていた。
「普通、こういう時って花嫁の方が泣くんじゃないの?」
陸が私をからかい、でも「よしよし」と言って肩を抱いてくれる。
「・・・私より、課長の方がすごいじゃない」
涙声で指摘すると、陸と絵梨が「ああ・・・」と呆れ気味の声で後ろを振り返った。
式の初めから延々泣き通しだった久保田課長は、今も老いた母親と手を握り合ってグスグス鼻を啜っている。その平和な姿をのんびり眺め、私たちはクスクスと幸福な笑みを交わしあった。
☆
陸が社会人になって3年目の初秋、私たちは念願の結婚式を挙げた。
陸は25歳、私は29歳になっていた。
あまり派手なことはしたくなかったので、お互いの親族の他は絵梨と課長の夫婦やごく親しい友人のみ参列してもらい、ささやかだけれどアットホームな結婚式になった。
お気に入りのレストランを借り切った二次会には会社の同僚たちが駆けつけてくれ、陸はさんざん冷やかされながらみんなの前で5回も私にキスして見せた。
ハネムーンは定番のハワイに出掛け、奮発してかなりリッチな部屋に泊った。滞在中はふたりで海を眺めながら、それはもう眼が眩むほど甘い(エッチな)バカンスを満喫した。
どちらの家族も私たちの結婚を祝福してくれたけれど、何と言っても一番喜んでくれたのは陸の母親だった。
陸の実家にはつきあい始めてわりと早い時期に挨拶に行っていた。陸のお母さんは数年ぶりに私の顔を見て、「ああもう、先生ーー!!こんなことになるなんて、嬉しいったらないわぁ」と大袈裟に歓迎してくれた。
家庭教師をしていた人間が息子とつきあうだなんて、母親としてはむしろ気分が良くないのではと不安だった。けれど、それも杞憂に終わった。思い起こせば、当時から陸のお母さんは私をとても気に入ってくれていたのだ。
「うちは娘が欲しいのに恵まれなかったから。雛子さんが家庭教師に来てくれてた頃は、家の中が華やかになって楽しかったのよぉ」
そう懐かしがり、今では息子より私への連絡の方が多いくらい仲良くしてくれている。お義母さんと私が楽しげに話していると、陸はいつもとても嬉しそうな顔になる。
結婚してから最初に陸の実家を訪れた時、私たちは懐かしい2階の部屋を覗いて見た。
陸が家を出た後もずっと置きっぱなしだった勉強机とベッドを、とうとう処分することに決めたとお母さんから聞かされていた。その前にどうしてもあの頃の部屋を見ておきたかったので、陸の両親がスーパーに出掛けている間に、ふたりで2階に上がってみたのだ。
秋めいた柔らかな陽射しが差しこむ部屋に足を踏み入れた途端、あの頃の記憶が蘇って胸が締めつけられるように痛んだ。
陸がこの勉強机に座り、私はその横に台所から借りてきた椅子を置いていつも腰かけていた。
呆れるほどくだらない冗談から、真面目な将来の話、好きな映画や本のこと、親にも友達にも話せない内緒の話。
あの夏の私たちは、勉強の休憩時間では到底足りないくらいたくさんたくさんお喋りをした。この家に通うことが楽しみで仕方なかった。陸と過ごす時間が、たまらなく嬉しくてせつなかった。
話せば話すほど、笑いあえば笑いあうほど陸に惹かれていった。その気持ちに気づかないふりをしながら、陸と過ごせる残りの日数を数えて淋しさに慣れようとしていた。
「俺もそうだったよ。雛子センセーに逢えなくなったらどうやって毎日過ごせばいいんだろうって、そんなことばっかり考えて焦ってた」
だから無理矢理襲ったんだけどね。陸はニヤリと笑って私を後ろから抱きしめた。
「・・・でもこうして雛子と結婚できたんだから、あの時の無茶苦茶な自分も今となっては間違ってなかった気がする」
ちょっと自分を正当化しすぎかな。そう笑いながら、陸が私の唇を優しく塞いだ。
私の唇はすぐに濡れていく。陸のキスはいつだって、私をこの上ない幸福へと導いてくれる。
「間違ってなかったのよ。私たち、ずっと同じ気持ちだったんだもの」
私は陸の手を握ると、ベッドへと引っ張って行き並んで腰を下ろした。布団も何もない、マットレスだけが置かれた古いベッド。
あの夏も、ドキドキしながらこうして並んで腰かけた。
不安と戸惑いと、押し隠したときめき。お互いに嘘をついたまま、恋する気持ちに蓋をして抱きあった。傷ついて、傷つけて。回り道したからこそ、今こうして一緒にいられる幸せに胸がいっぱいになる。
「おふくろたち、買物行くと長いから2時間は帰ってこないよ」
陸がひどく色っぽい眼で私に囁いた。
この眼差しがたまらなく好きだ。初めて出逢った日、私を眩しそうに見つめていた陸の瞳。
私たちは共犯めいた笑みを浮かべると、甘いキスとともに懐かしいベッドに倒れ込んだ。
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