Home, Sweet Home

茜色

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結ばれるふたり

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 舌と舌を絡ませながら、私たちはお互いの性器を淫靡に愛撫し続けた。
 詳しく習ったわけでもないのに、ごく自然に身体が動く。本能で分かっているみたいに私は貪欲に身体を開き、藤堂さんを求めてますます濡れていった。

 膣の中を優しく丁寧にほぐされていく。深い場所まで指で探られると、身体がビクビクと震えた。感じたことのない深くゆるやかな快感の兆しが押し寄せてきて、汗ばんだ腰が浮いてしまう。
「藤堂さ・・・。あっ、もう・・・」
「欲しくなってるね。俺ももう、入りたい」
 藤堂さんは私の身体をシーツの上に横たえると、しゃぶるような音をたてて唇を優しく吸った。それから一度身体を離し、壁際の洋服ダンスの方に手を伸ばした。
 片手で小さい引き出しを開け、中から箱を取り出す。それが開封していない避妊具だと分かって、私は改めて緊張してきた。

「・・・いつ用意したんですか?」
「この前、コンビニで抹茶アイス買ったとき」
 私は思わず「あっ」と声を上げた。じゃああのとき既に、藤堂さんは私を抱こうと決めて家に帰ってきたのだろうか?そう思ったら余計にドキドキしてきて、思わず手で口元を覆った。
「なんか、先走ってたみたいでカッコ悪いな。でも、いつそうなってもいいと思ってたから。て言うか、遅かれ早かれおまえを抱くってあの日に決めたんだ。・・・引いた?」
「ううん、嬉しいです。・・・私が、着けてみてもいい?」
 頬が染まるのを感じながら、身を起こして藤堂さんに近づいた。藤堂さんはとても優しい眼で私を見つめながら、避妊具のパッケージを開けて中身を私に持たせ、手で誘導しながら装着の仕方を教えてくれた。
 着けている最中にも、ペニスはますます硬さを増していく。
「指が、気持ちいい・・・」
 藤堂さんは私の髪を撫でながら囁いた。

 入ってくるとき、何年も前に一度経験したきりだから、きっと痛いだろうと覚悟した。でも、ほとんど痛みは感じなかった。もう十分私の中は潤っていたし、この人ともう一度ひとつになりたいとずっと望んでいたから、やっと願いが叶った喜びの方が何倍も大きかった。
「ああっ・・・、はぁ・・・っ!」
 私は身体を弓なりにして、少しでも深く藤堂さんを感じようと脚を大きく開いた。
 ぬぷっと一気に貫かれ、腰に重い圧迫感がやってくる。お腹が藤堂さんのモノでいっぱいになって苦しかったけれど、私の中は嬉しそうに藤堂さんを包み込んで締め付けていた。
「すご・・・っ。うわ、呑み込まれる・・・」
 藤堂さんは息を震わせて私の肩をギュッと抱いた。すごく気持ちよさそうな息遣いに感動して、私は早くも涙ぐみそうになる。

 ゆっくりと藤堂さんが腰を動かし、私の中を探り始めた。えぐるように、愛撫するように、ぐりぐりといやらしく掻き回すように、唾液まみれのキスをしながら、徐々にスピードをあげて私たちはぴったりとひとつに溶けあっていく。

「・・・おまえのここ、俺しか挿れたことないんだよな?」
「うん、藤堂さんだけ・・・。あぁっ・・・あ、あんっ」
「気持ちいい。すっごいイイ。おまえの中、もう俺のものにするから。な、鞠子」
「あああんっ・・・!やぁっ・・・」
 鞠子、と呼ぶ藤堂さんの低い声が、私の背筋をゾクゾクとしならせる。
「名前呼ぶと、中がうねってすごい締まる。呼ばれるの好き?・・・鞠子」
「あっ・・・好き、好き・・・!ああっ、そこ、あぁん・・・っ」

 音を立てながら肌を打ち付けられ、結合部から愛液が飛び散っている。私は子宮の奥からこみ上げてくるような快楽の気配に追い込まれ、藤堂さんの肩を噛みそうなほどにきつくすがりついた。
「・・・はぁっ・・・!藤堂、さん・・・。ダメっ、きちゃう!ああっ、もう来ちゃう・・・!」
「俺も、来る・・・。いいか?出すよ・・・」
「あ、ああ・・・・っ!」「くっ・・・!」
 ひときわ激しく腰を打ち付けられ、身体の奥から深い波のような快感が生まれてきて私を押し上げた。悲鳴を上げながら藤堂さんの身体にしがみつき、腰を震わせながらすべてを受け止める。お腹の中が熱くなって、藤堂さんが避妊具越しに思いきり射精しているのを感じた。


 ・・・ああ、やっとまた、このひとに抱かれることができた。こんな日が来るなんて、叶わぬ夢だと思っていたのに。
 私は広い胸に顔をすり寄せ、もう絶対離れたくないと肩先に強くくちづけた。紅く跡が残る。藤堂さんも、私の胸元にいくつもしるしをつけてくれた。
 私たちは潤んだ眼で見つめあって、たくさんキスした。何度しても足りなくて、とうとうどちらからともなく笑い出して、またキスした。
 抱きあって布団にくるまりながら、外の嵐のことなどいつの間にかすっかり忘れていたことに気付いて、また二人で笑った。


 翌朝眼が覚めたとき、布団の中にいたのは私だけだった。
 藤堂さんはもう出張のために家を出た後だった。いつ起きて支度して出て行ったのか、全然気づかなかった。どうやら夕べ激しく抱きあったせいで、私は夢も見ずにぐっすりと眠り込んでしまったらしい。
 身体を起こし、耳を澄ませて外の気配を伺う。雀の鳴く声が聞こえてきて、台風がすっかり抜けたことを知った。

 抱かれた翌朝、藤堂さんの姿が見えなくて一人きりなのは二度めだ。
 5年前のあの朝は、とても悲しかった。今日は幸福な気持ちに満たされている。それでもやはり、隣に藤堂さんがいない事実は私を少し淋しくさせた。シーツの窪みに手を触れると、まだほんの少しぬくもりが残っているような気がするのに。

 スマートフォンが鳴って、藤堂さんからメッセージが届いた。空港に向かう電車の中だろうか。
 『おはよう。行ってきます。お土産に美味いものでも買って帰るから楽しみにしてて』
 画像が添付されていたので見ると、口を半開きにして眠りこけている私の顔が写っていたので思わず「ひゃー!」と声を上げてしまった。
 出がけにこの写真を撮った藤堂さんの様子を思い描いたら、なんだか胸がくすぐったくなった。元気をもらえた気がして、私は思い切り伸びをして朝の空気を吸い込んだ。


 藤堂さんと社長が不在の木曜と金曜のオフィスは、いつも以上に忙しなく余裕がなかった。
 社長はノリが軽くてバブル期の生き残りみたいなオジサンだが、存在感は確かなものでとても頼りになる人だ。その社長が惚れこんでいる藤堂さんもまた、3か月前に中途入社してきたばかりなのに、既に社内のトップリーダーとなって社員を引っ張っている。その二人がいないだけで、フロアには微妙に心細げな空気が漂った。しかもそういう時に限ってクレームの電話が入ったりするので、金曜の午後はいつもの浮き足だった様子もなく誰もが少々くたびれていた。

「あー、なんとか形になったわね。ありがとねー、二人とも」
 私より2年先輩の佐川さんが、ホッとした様子で額の汗を拭った。私と室井くんもフウッと大きく安堵の息をついて、自分の腰やら肩をトントンと叩いてほぐす。
 デパートの食品売り場に今週の土日限定で特設コーナーが設置され、パスタやワインなどを取り揃えてイタリアンフェアが開催されることになっている。金曜の夜、デパートの閉店時間後に商品のディスプレイをする段取りになっていて、担当の佐川さんの手伝いで私と室井くんも同行したのだ。本当は後輩の松下さんが来る予定だったのだが風邪で昨日から欠勤していて、急遽私がサブとして駆り出されていた。

 商品の設置もポップの飾りつけも終わり担当者に挨拶を済ませると、私たち三人は疲れ果てた身体を引き摺ってデパートを出た。時計を見るともう午後9時過ぎだった。どうりでお腹がすくはずだ。佐川さんが夜食をご馳走してくれると言うので、地下のレストラン街のラーメン屋に駆け込んで一息ついた。

 バターコーンとチャーシューの味噌ラーメンを注文した後、バッグの中のスマートフォンをチェックした。藤堂さんは今日の夕方の便でこっちに帰ってくるはずで、そのまま社には戻らず直帰すると言っていた。もう家に帰っているかもしれない。私が佐川さんの仕事のお供で帰りが遅くなることも、既にメールして伝えてある。
 案の定、携帯を見ると『了解。風呂沸かしとくよ。帰り気を付けて』と返信が届いていた。追伸で、『明太子味のせんべいと、グルメサイト金賞のスイーツを買ったぞ』と書き添えてあったので、思わずクスッと笑みが漏れてしまった。一昨日の夜の藤堂さんの腕のぬくもりが瞬時に蘇って、知らず頬が熱くなる。
 不意に、眼の前に座っている室井くんの視線を感じた。顔を上げると、射るような強い眼差しが注がれていて、思わずドキリとした。
 いけない、変に思われる。私は慌てて表情を引き締め、スマートフォンをバッグにしまった。


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