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ハロウィン ー裕樹sideー
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今日はハロウィン。
一年で一度だけ自分じゃない自分になれる日。
だから、いつもは締めているネクタイを外し、第一ボタンも開け、悪魔の耳もつけた。
「おはよー!」
クラスに入り挨拶すると、あっという間に何人かの友達に囲まれる。
「おはよう裕樹!」
「今日はちょっと小悪魔なカンジだね」
「でしょ、似合ってる?」
そう聞くと似合ってるよ!と皆口々に言う。
得意げになったが、ふと教室の隅に大きな背中が他の人と話しているのが見えた。
カズは僕とは違って、口下手だ。小さい頃から僕以外と学校で話しているのはあまり見かけないし、学校が終わってからどこかへ出かけている様子もない。それなのに、顔が良くて勉強もできて、意外と運動もできるアイツは学年を超えて女子達からモテまくっている。本人は気付いてないのか、一切振り向いてないけど。
だからこそ、安心してたんだ。それは、口下手なアイツが僕より先に彼女を作って作る心配がないからだと思っていた。僕が一生懸命周りと交流して得た地位と同等の地位を既に持っているように思えたから。僕が先に彼女がいるってことになれば、僕はアイツより優れているって証明になると本気で思っていた、中学の僕は本当に子供だった。
高校に上がってすぐ女の子に告白されて付き合うことになった。中学の時から僕のことが好きだったらしく、そこそこ可愛かったのでOKした。これで僕の方が上なんだ、そう思った矢先、アイツには新しい友人ができた。
長身のカズと同じくらいの身長を持つソイツは、出席番号が並んでいるから、という理由でアイツに話しかけたらしい。口下手なカズだが、話しかけられればそれなりに話すので、2人はかなり仲良くなっていった。夏休みが始まる頃には、長身イケメンツートップとして学校中に知られることとなった。面白くない。僕の方が努力してるのに、なんでアイツばっかり。2人が会話してるたびに僕はずっとモヤモヤした気持ちを抱えていた。
「裕樹って黒瀬のこと、よく見てるよね」
ふと、誰かがそう言った。自分でも気づかないうちにいつもアイツのことを目で追っていたらしい。
「まあね、幼馴染みだから」
「そんなこと言って実は好きだったりして~?」
そう誰かがからかう。そんなワケないじゃん、と笑い飛ばすが、その言葉が僕の中で遅効性の毒のようにグルグルと回り始める。
やがて僕の体の中が毒に支配された頃、一つの噂が回ってきた。
「長身イケメンツートップは実は付き合っているんじゃないか」
そんなワケないじゃん、と笑い飛ばそうとするがうまく声が出ない。それほどまでに2人の仲の良さは異常だった。ふと見ると常に一緒にいるし、最近のカズはソイツとよく遊びに行ってるらしい。そんな噂を聞いた。
気にしない、気にしない。なにより僕には可愛い彼女がいるんだ。そう思ってカズから目を逸らした瞬間、「うわっ!」とアイツにしては珍しく大きな声を出した。パッと振り返るとカズは横にいたソイツに抱きついていた。
「あ~、クモかあ。それにしても和雅はクモが苦手なんだな」
ソイツはカズの頭をポンポンと撫でながらクモを追い払っている。僕の身長ではアイツの頭を撫でるなんて出来ないから羨ましくてじっと見つめていると、ソイツはこちらを見てニヤリ、と笑った気がした。
「…ふざけんなよ」
そう呟くと、周りの子たちに聞き返されるがなんでもない、と笑顔を作る。
さて、どうしようか。
そう思い、僕は今日悪魔の仮装をしてきた。カズを僕に振り向かせるために。
少しでもいつもと違う姿を見せればアイツは僕に夢中になるんじゃないか。そう淡い期待を持ちながら。
でもアイツは何をしても無表情で僕に対して興味を持つそぶりは無かった。
もうどうしようもなくなって泣きそうになって、でもそんな顔を見られたくなくて僕はどこかへ逃げようとする。
ぱし、と腕が何かに掴まれる。体が引き止められ、喉から「え」という間抜けな声が零れ落ちる。
僕の腕を掴んでいるものはカズの手だった。でも、彼は何も喋らず、彼自身も驚いているようだった。
「どしたの?何かあった?」
そう聞いたけど、カズは寒そうだから、と言って僕のボタンを閉めてたらすぐどこかへ行ってしまう。
いつの間にか僕の目の近くまで迫っていた涙もどこかへ行っていた。かわりにじわじわとした熱が僕の顔まで迫り上がってくる。
熱を覚まそうと廊下へ出るとさっきまでカズと話していたソイツとすれ違う。
「どっちが先だろうなぁ」
教室では聞いたことのないソイツの低い声に振り返るといつものようにヘラヘラ笑ってヒラヒラと手を振っている。
「でも、俺負けてる気はしないから」
普段と同じ調子でからかうように言うけど、目が笑っていないソイツの顔を軽く睨みつけてまた前に進んでいく。
「僕だって負けてない」
そう呟きながら。
一年で一度だけ自分じゃない自分になれる日。
だから、いつもは締めているネクタイを外し、第一ボタンも開け、悪魔の耳もつけた。
「おはよー!」
クラスに入り挨拶すると、あっという間に何人かの友達に囲まれる。
「おはよう裕樹!」
「今日はちょっと小悪魔なカンジだね」
「でしょ、似合ってる?」
そう聞くと似合ってるよ!と皆口々に言う。
得意げになったが、ふと教室の隅に大きな背中が他の人と話しているのが見えた。
カズは僕とは違って、口下手だ。小さい頃から僕以外と学校で話しているのはあまり見かけないし、学校が終わってからどこかへ出かけている様子もない。それなのに、顔が良くて勉強もできて、意外と運動もできるアイツは学年を超えて女子達からモテまくっている。本人は気付いてないのか、一切振り向いてないけど。
だからこそ、安心してたんだ。それは、口下手なアイツが僕より先に彼女を作って作る心配がないからだと思っていた。僕が一生懸命周りと交流して得た地位と同等の地位を既に持っているように思えたから。僕が先に彼女がいるってことになれば、僕はアイツより優れているって証明になると本気で思っていた、中学の僕は本当に子供だった。
高校に上がってすぐ女の子に告白されて付き合うことになった。中学の時から僕のことが好きだったらしく、そこそこ可愛かったのでOKした。これで僕の方が上なんだ、そう思った矢先、アイツには新しい友人ができた。
長身のカズと同じくらいの身長を持つソイツは、出席番号が並んでいるから、という理由でアイツに話しかけたらしい。口下手なカズだが、話しかけられればそれなりに話すので、2人はかなり仲良くなっていった。夏休みが始まる頃には、長身イケメンツートップとして学校中に知られることとなった。面白くない。僕の方が努力してるのに、なんでアイツばっかり。2人が会話してるたびに僕はずっとモヤモヤした気持ちを抱えていた。
「裕樹って黒瀬のこと、よく見てるよね」
ふと、誰かがそう言った。自分でも気づかないうちにいつもアイツのことを目で追っていたらしい。
「まあね、幼馴染みだから」
「そんなこと言って実は好きだったりして~?」
そう誰かがからかう。そんなワケないじゃん、と笑い飛ばすが、その言葉が僕の中で遅効性の毒のようにグルグルと回り始める。
やがて僕の体の中が毒に支配された頃、一つの噂が回ってきた。
「長身イケメンツートップは実は付き合っているんじゃないか」
そんなワケないじゃん、と笑い飛ばそうとするがうまく声が出ない。それほどまでに2人の仲の良さは異常だった。ふと見ると常に一緒にいるし、最近のカズはソイツとよく遊びに行ってるらしい。そんな噂を聞いた。
気にしない、気にしない。なにより僕には可愛い彼女がいるんだ。そう思ってカズから目を逸らした瞬間、「うわっ!」とアイツにしては珍しく大きな声を出した。パッと振り返るとカズは横にいたソイツに抱きついていた。
「あ~、クモかあ。それにしても和雅はクモが苦手なんだな」
ソイツはカズの頭をポンポンと撫でながらクモを追い払っている。僕の身長ではアイツの頭を撫でるなんて出来ないから羨ましくてじっと見つめていると、ソイツはこちらを見てニヤリ、と笑った気がした。
「…ふざけんなよ」
そう呟くと、周りの子たちに聞き返されるがなんでもない、と笑顔を作る。
さて、どうしようか。
そう思い、僕は今日悪魔の仮装をしてきた。カズを僕に振り向かせるために。
少しでもいつもと違う姿を見せればアイツは僕に夢中になるんじゃないか。そう淡い期待を持ちながら。
でもアイツは何をしても無表情で僕に対して興味を持つそぶりは無かった。
もうどうしようもなくなって泣きそうになって、でもそんな顔を見られたくなくて僕はどこかへ逃げようとする。
ぱし、と腕が何かに掴まれる。体が引き止められ、喉から「え」という間抜けな声が零れ落ちる。
僕の腕を掴んでいるものはカズの手だった。でも、彼は何も喋らず、彼自身も驚いているようだった。
「どしたの?何かあった?」
そう聞いたけど、カズは寒そうだから、と言って僕のボタンを閉めてたらすぐどこかへ行ってしまう。
いつの間にか僕の目の近くまで迫っていた涙もどこかへ行っていた。かわりにじわじわとした熱が僕の顔まで迫り上がってくる。
熱を覚まそうと廊下へ出るとさっきまでカズと話していたソイツとすれ違う。
「どっちが先だろうなぁ」
教室では聞いたことのないソイツの低い声に振り返るといつものようにヘラヘラ笑ってヒラヒラと手を振っている。
「でも、俺負けてる気はしないから」
普段と同じ調子でからかうように言うけど、目が笑っていないソイツの顔を軽く睨みつけてまた前に進んでいく。
「僕だって負けてない」
そう呟きながら。
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