無限ではない力

嵯乃恭介

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第十九話 疑惑

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「う・・ん?」

カナが目を覚ました時には血まみれになったライルの腕の中だった。ライルの体は冷たくなっており微かに呼吸が出来ている程度だった。カナは頭の中で混乱していた。声が出せることと何故ライルに抱かれ、そのライルが血まみれなのかを『覚えていない』のだ。恐らくだが、ライルが倒れる前に消したのだろう。

「ライル・・・?ライル!!」

自分の声を聞いて驚いたが、この状況では関係ないことだ。目の前に居るライルの姿は、ボロボロで何かから守ってくれたのかもしれない。
ピクッとライルの瞼が開き、視点の合わない目でカナを確認すると柔らかく笑う。
頬に冷たいライルの手が当てられ、カナは動揺しながらもライルの手を握るとライルが

「殺そうとしたくせに・・・俺の為に・・・泣くのか?」

気づけば自分の目から涙が零れ落ち、ライルの袖を濡らしていた。ライルの状態を見て恐らく出血によるものだと判断するが、血液のストックもなければ医療技術も分からない。
もしも自分の力の中で、時間を巻き戻し出来ればと願うと、店や廊下から血液がライルの傷口に戻り、傷もまるでなかったかのようにきえてしまった。それでもカナは気づかずに両手を握りしめて願うばかりだったが、ライルの手がカナの頭に触れられ、顔を上げるとライルがニッコリと笑っていた。

「お前の力は無限大だな」

「ラ・・ライル・・?え?傷・・・え?」

自分でも何が何やらで判らずだったが、ライルはカナを抱きしめて謝った。

「すまん・・・記憶・・・また消してしまった。やっぱり、あれ以上は・・・混乱する・・・」

「判った・・・何かが起きているのは確かだな」

泣いていたのがウソのように、メモに書かれている文章そのままにしたように言葉を発するのはカナらしいとは思うが可愛らしさが欲しいものだとライルは思ったが、今はそれどころではない。決着がつくか判らないが、サネヤは負けることはないと思っている。彼女の無限大の力は底知れないものがある。それこそ目の前に居る・・・

「カナ・・・」

「なんだ?」

冗談と思っていたが、カナとサネヤは似ている。
先ほどの情報交換の場で、話していたサネヤの夫はターゲットのセイヤ、もしかしたら偽名かもしれないと思うが視野に入れて考えるべきだ。カナは知らない力で驚いているだろうが、サネヤの娘ならば無限の可能性があるわけだ。
それを含めてカナに忠告する。

「君を壊したくない」

「?」

カナは声を出せることになれていないのか、理解していないのか判らないが、ライルは目を赤くしカナの動きを止める。これは名前はないが、恐らく人間の眼から脳に入り込み神経を操るものだとライルは思っている。
そして止まったカナの頭に触れる。
暴れようとするカナだったが、ライルは優しく微笑んで囁いた・・・

ーごめんね

カナの意識が遠くなり再びカナは倒れそうになりライルに抱きかかえられた。そして別の部屋に行きアオイに渡してあった携帯に電話する。

『もしもし?何かあったの?ガイさんがライルのところには行くなって・・・』

「三人と一緒に、ここから離れるんだ。二度と会えないかもしれない」

『え?ちょっと?ライル!?今どこ!!?』

プツと電話を切り、最後の涙と思いカナを抱きしめながら額にキスを落とす。子供だと思っていたが、いつの間にか成長するものだ。いつだって殺意むき出しだったが、それでも自分にとって努力家だと思ってた。
この店、このスラム街は再び消えるかもしれない、その時の為にガイ、ユウ、ハヤト、アオイには生きていてもらわないといけない。そして目の前で気を失っている少女も、一緒に立て直してほしいと思う。




開けっ放しになっている扉に入り、ギョッとしたのは床に散らばるムカデの死体と目の前で動かない二人の男女。サネヤの方は指先を見ながら鼻歌を歌っている程度だった。しかし男、セイヤの方は苦虫を齧ったように苦痛に満ちた顔をしている。
一体自分が気絶している間に何があったのかと思うが、明らかに『何か』があったはずだ。

「サネヤさん、何があったんですか?」

「む?何もないさ、あぁ・・またカナの記憶を消したんだな?賢明な判断だ。こいつを殺して私も消えるよ。カナの方は、頼んで良いか?」

「サネヤさんが消えることはない、カナの母親として生きてください」

サネヤが言うが前に、ライルはセイヤの頭に触れかけていたが、それを見たセイヤがニヤリと笑い、伸ばされた手を掴み高笑いをする。そしてライルの力、全身の気力体力が奪われている気がした。
目がかすみ、立っている事さえ出来ないくらいの脱力感にライルは、自分の行いが再びサネヤに迷惑が掛かると思っていた。

「す・・み・・ません・・・」

「若者は良いねぇ、エネルギーが有り余っていて」

「カナだけではなく、他の者の命を吸っていたのか?」

倒れているライルを抱き上げ、ソファーに寝かせサネヤは腕だけを人形のように外しセイヤに投げつけ、咄嗟に避けきれなかった、セイヤの首を掴んだ。
腕を取ろうとするセイヤだったが、それ以上にサネヤの腕の力が強く、宙に浮かぶと廊下へと向かい出入り口へと連れていく。
先ほどのセイヤが制止していたのは、サネヤの力の一つでもあったが、本人は『威圧』しただけのことだと言っていたことがあった。昔に気づけていれば、カナは生まれることはなかったかもしれない。それでも生まれてきた子供に罪はない。
滅びておくのは百年を生きる自分たちだ。

朝日が眩しいが心地よい風が頬を撫でる。
ライルたちの居場所から、かなり離れた場所・・・落ちれば浮かんでこないといわれる海岸でセイヤを落とした。セイヤはせき込みながら立ち上がる。それでも余裕を見せるのは男の意地なのか本当に策があるのか不明だ。

「ライルの何を取った?」

「若いツバメちゃんの事か?ちょっと体力を貰って、寿命を貰ったよ。三十年ほど」

「そうか・・・」

カナに続きライルまで目の前に居る男の餌食になったと思うと、頭に血が上るが心を落ち着かせ平然を保ちながら自分の中での『禁忌』の力を思い出す。一度やったきり、二度と使うことはないと思っていたが、力が不明なセイヤに通用するのかは判らない。それでも・・・






「ライルなんだって?」

「二度と・・会えないって・・・」

「に・・どと?」

何がどうなってやがるとガイは、見てきた状況を説明するのには、アオイと言う存在が危険な目に合うと言うのは判るので、腕組みをしながら頭を悩ませる。それを見ていたユウが、ガイに対して

「ば・・かが、あ・・たま・・つか・・うと・・熱が・・・でる」

「な!!誰が馬鹿だ!!?」

「店に何かあったのかしら?」
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