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第十一話 違う対価
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ライルのお願いによってアオイを家に居れることにしたカナは、うんざりしながら部屋の扉を開いた。アオイは未だに泣いている。正直に他人の事なんて関係ないと思うのだが、これでライルに恩を売れば自分の記憶を戻してくれるかもしれないと思う。が、あてにせずに彼女を一晩だけという約束で連れてきたわけだが・・・。
とりあえずベッドに座らせ、すすり泣きをする彼女に優しくは出来ない。話を聞いた限りでは彼女は悪くないと判っているが・・・
とりあえず・・・
アオイの頬に冷たいものが当たった。頭を上げるとペットボトルをカナが当てていた。そして紙に
『落ち着け』
とだけ書いてあり、アオイはペットボトルを受け取り
「ありがとう・・・ごめんね・・・、みっともない所見せちゃって」
『ここに来る奴は覚悟が決まってる。あんたもそのつもりで来たなら、ユウの言い分を聞いてからで良いんじゃないか?』
カナはシャワー室に向かい、すぐに出てきた。出来上がったスレンダーな体つきは女性から見ても美しいと思ってアオイは首を振る。女性が好きなわけではないが魅入ってしまった。それほどまでに不思議な魅力を持っているのか?
カナはアオイを引っ張ってシャワー室に連れていき、自分の服のストックを出して置いた。それだけで意味は分かるが、今までの生活とは違う生活には慣れないものだが、自分の決意は変えるつもりはないとアオイは絹で出来たワンピースを脱ぎ、シャワーの蛇口をひねると悲鳴が上がった。
「カ・・カナさん?み・・・水?」
カナは頷くと紙にサラサラと何かを書き出しペラリとアオイに見せる。アオイは覚悟していたが、ここまでとは思わなかった。甘く見ていたと思うばかりだ。しかし我が子と一緒に暮らすためには、これくらい受け入れるべきだ。
カナが書いたのは。
『この辺でお湯が出るところなんてユウのところだけ』
恐らくユウの力でお湯にも出来るのかもしれないと冷たいシャワーを浴びながらアオイは考えた。そう考えるとハヤトは温かいシャワーを浴びて大事にしてもらえるかもしれないと思ってしまう。冷たいシャワーを浴びつつ涙が一緒に零れていく。
シャワーを終えて出てくると、カナはソファーに横になっていた。ベッドは家主が使うものだとカナに声を掛けるとカナは一枚の紙を出してきた。
『慣れるまでベッドにしとけ』
彼女なりの優しさなのか、ただめんどくさいのか判らないが、カナの性格が少しだけ判った気がする。でも彼女がライルと一緒に居るということは、ライルと同じく力を持ち、人を殺しているかもしれないと考えると可哀そうにも思えてきた。
まだ若いはずの十代後半の女の子が、スラム街で生きていくには過酷だったかもしれない。自分も強くならねばと願うが、今までの貴族としての生き方が妬ましいくらいに思う。思えばライルが消えた時に同じように逃げればよかった。
ベッドを借りて横になると、色々ありすぎてあっと言う間に眠りの世界に誘われる。
光の中、幼い頃の弟のユウが泣いている。泣きながら遠ざかっていく・・・。手を伸ばしても離れていく、どんなに走っても追い付けない。叫んでも声が出ない、涙だけが零れ落ちる。そしてユウの成長した姿は冷たい目を自分に向ける姿。謝ろうとしても再び声が出ない。もどかしく泣くしか出来なかった。
そして今度はハヤトだった。朝には居たはずのハヤトが夕刻に少し外に出て行った間に家から追い出されて、探しまわった、夫に問い詰め殴られ蹴られ挙句には・・・
「っつ・・・」
寝汗で目が覚めてしまった。嫌な夢・・・いや現実・・・、この数日の事だ。悲しみが込み上げる、何もかも失うことが運命で決まっているのかと胸に手を合わせ呼吸を整えると物音がして起き上がると、カナが眠っていたソファーからカナが消えていた。
彼女も眠れないのだろうか?それとも体調が悪いのだろうか?心配しながら物音がした方に向かうとカナの後ろ姿が見え、彼女の髪は弟と同じように銀髪、いや白髪になっていた。染めたにしても妙な話になる・・・、彼女が髪を染めるような少女には見えなかったからだ。
「!!」
白髪だった髪が徐々に下から元の絹のような黒髪に戻っていった。声が出そうになったが声を飲み込み、気づかれないようにベッドに戻ろうとしたが、カナが振り返り目が合ってしまった。カナは頭を抱えアオイの手を掴み元居た部屋に戻り、蝋燭の火を灯し筆記してからメモ用紙をアオイに渡した。
『ライルには黙ってて、言ったら殺すから』
「それは力の対価じゃないの?」
めんどくさそうにカナは顔に素直に出ている。力の対価は人間としての体の一部のはず、声が出ないカナが不自然に髪が白髪や黒髪になるはずはない。
カナは再びメモを渡してきた。
『余計な詮索しないで、私はライルを憎んでいると思っても良い』
「憎いのに、殺さないの?」
ソファーに体を預けるカナは、顔に手を当てて大きくため息を吐くとメモに大きく。
『力で殺しても意味がない。技術で殺して私は一人前』
目標を持っているらしい、一人前というのは力を使わずに人を殺せるようになりたいという事だろうか?それでも現在は力に頼っているが、目の前に居る少女はライルが夫を振り回して倒したように体術で倒したいのだろうか?そうなるとライルは体術と力を分けて使っているように思えた。相手の攻撃を躱し、地面に叩きつけてから力で精神を壊したらしいが、少女には何が出来るかと思うと聞くのが怖い。
「判ったわ。言わないし、私はライルとは何もないからカナさんが遠慮することはないわ」
『元々そのつもり』
そのメモを置いて、カナは再びソファーに横になる。アオイは目標のある少女だということが判り、少し安堵する。穏やかではないが、ただ殺すだけじゃなく、技術を掴んで殺さず自分の身を守れるようになれば、彼女も落ち着いて異性との関係を持てるかもしれない。それを見通してライルは彼女の面倒を見ているのかもしれない。
「ごめんなさいね。おやすみなさい」
カナが答えることはなかったが、アオイは力の対価について考えた。
元に戻る対価があるのか?いや実際にカナは発言していないし、ライルもそれを知ってるはずだ。一つの仮説に行くなら、ユウのように言葉足らずなだけで、違う部分が欠落しているかもしれない。カナの対価は髪の毛の脱色かもしれない。そうなると何故戻るのかと戻ってしまう。
考えが矛盾しながらも朝を迎えた。
「おはようございます」
隈を作っているアオイを見てカナは、メモを書きアオイに見せた。
『昨日の事を気にしているのか?私の髪とライルの事』
「いえいえ、違いますよ。どうしたらユウとハヤトと分かり合えるかと考えてました」
夢の内容が精神的に効いていたので、違う事としてカナの事を考えていたが、黙っているが今日またユウとハヤトに会えるかが不安になる。
そして朝食を取っていると、二人の携帯が鳴った。
内容は同じだったが、カナは目を丸くして驚いていた。内容は・・・
【記憶を戻す】
とのことだった。カナに戸惑いの表情が見えたが、内容はアオイには見えないので、何を書かれているのか判らないままで、アオイにはユウとハヤトが喫茶店に来ると言う内容だった。昼間は喫茶店に来ても良いという事だろうか?
カナが早々に立ち上がり、カバンを持ち出かけようとするので、アオイも急いで追いかけていく。
何をそんなに急いでいるのか判らないが、きっと少女にとって重要な内容だったに違いない。
とりあえずベッドに座らせ、すすり泣きをする彼女に優しくは出来ない。話を聞いた限りでは彼女は悪くないと判っているが・・・
とりあえず・・・
アオイの頬に冷たいものが当たった。頭を上げるとペットボトルをカナが当てていた。そして紙に
『落ち着け』
とだけ書いてあり、アオイはペットボトルを受け取り
「ありがとう・・・ごめんね・・・、みっともない所見せちゃって」
『ここに来る奴は覚悟が決まってる。あんたもそのつもりで来たなら、ユウの言い分を聞いてからで良いんじゃないか?』
カナはシャワー室に向かい、すぐに出てきた。出来上がったスレンダーな体つきは女性から見ても美しいと思ってアオイは首を振る。女性が好きなわけではないが魅入ってしまった。それほどまでに不思議な魅力を持っているのか?
カナはアオイを引っ張ってシャワー室に連れていき、自分の服のストックを出して置いた。それだけで意味は分かるが、今までの生活とは違う生活には慣れないものだが、自分の決意は変えるつもりはないとアオイは絹で出来たワンピースを脱ぎ、シャワーの蛇口をひねると悲鳴が上がった。
「カ・・カナさん?み・・・水?」
カナは頷くと紙にサラサラと何かを書き出しペラリとアオイに見せる。アオイは覚悟していたが、ここまでとは思わなかった。甘く見ていたと思うばかりだ。しかし我が子と一緒に暮らすためには、これくらい受け入れるべきだ。
カナが書いたのは。
『この辺でお湯が出るところなんてユウのところだけ』
恐らくユウの力でお湯にも出来るのかもしれないと冷たいシャワーを浴びながらアオイは考えた。そう考えるとハヤトは温かいシャワーを浴びて大事にしてもらえるかもしれないと思ってしまう。冷たいシャワーを浴びつつ涙が一緒に零れていく。
シャワーを終えて出てくると、カナはソファーに横になっていた。ベッドは家主が使うものだとカナに声を掛けるとカナは一枚の紙を出してきた。
『慣れるまでベッドにしとけ』
彼女なりの優しさなのか、ただめんどくさいのか判らないが、カナの性格が少しだけ判った気がする。でも彼女がライルと一緒に居るということは、ライルと同じく力を持ち、人を殺しているかもしれないと考えると可哀そうにも思えてきた。
まだ若いはずの十代後半の女の子が、スラム街で生きていくには過酷だったかもしれない。自分も強くならねばと願うが、今までの貴族としての生き方が妬ましいくらいに思う。思えばライルが消えた時に同じように逃げればよかった。
ベッドを借りて横になると、色々ありすぎてあっと言う間に眠りの世界に誘われる。
光の中、幼い頃の弟のユウが泣いている。泣きながら遠ざかっていく・・・。手を伸ばしても離れていく、どんなに走っても追い付けない。叫んでも声が出ない、涙だけが零れ落ちる。そしてユウの成長した姿は冷たい目を自分に向ける姿。謝ろうとしても再び声が出ない。もどかしく泣くしか出来なかった。
そして今度はハヤトだった。朝には居たはずのハヤトが夕刻に少し外に出て行った間に家から追い出されて、探しまわった、夫に問い詰め殴られ蹴られ挙句には・・・
「っつ・・・」
寝汗で目が覚めてしまった。嫌な夢・・・いや現実・・・、この数日の事だ。悲しみが込み上げる、何もかも失うことが運命で決まっているのかと胸に手を合わせ呼吸を整えると物音がして起き上がると、カナが眠っていたソファーからカナが消えていた。
彼女も眠れないのだろうか?それとも体調が悪いのだろうか?心配しながら物音がした方に向かうとカナの後ろ姿が見え、彼女の髪は弟と同じように銀髪、いや白髪になっていた。染めたにしても妙な話になる・・・、彼女が髪を染めるような少女には見えなかったからだ。
「!!」
白髪だった髪が徐々に下から元の絹のような黒髪に戻っていった。声が出そうになったが声を飲み込み、気づかれないようにベッドに戻ろうとしたが、カナが振り返り目が合ってしまった。カナは頭を抱えアオイの手を掴み元居た部屋に戻り、蝋燭の火を灯し筆記してからメモ用紙をアオイに渡した。
『ライルには黙ってて、言ったら殺すから』
「それは力の対価じゃないの?」
めんどくさそうにカナは顔に素直に出ている。力の対価は人間としての体の一部のはず、声が出ないカナが不自然に髪が白髪や黒髪になるはずはない。
カナは再びメモを渡してきた。
『余計な詮索しないで、私はライルを憎んでいると思っても良い』
「憎いのに、殺さないの?」
ソファーに体を預けるカナは、顔に手を当てて大きくため息を吐くとメモに大きく。
『力で殺しても意味がない。技術で殺して私は一人前』
目標を持っているらしい、一人前というのは力を使わずに人を殺せるようになりたいという事だろうか?それでも現在は力に頼っているが、目の前に居る少女はライルが夫を振り回して倒したように体術で倒したいのだろうか?そうなるとライルは体術と力を分けて使っているように思えた。相手の攻撃を躱し、地面に叩きつけてから力で精神を壊したらしいが、少女には何が出来るかと思うと聞くのが怖い。
「判ったわ。言わないし、私はライルとは何もないからカナさんが遠慮することはないわ」
『元々そのつもり』
そのメモを置いて、カナは再びソファーに横になる。アオイは目標のある少女だということが判り、少し安堵する。穏やかではないが、ただ殺すだけじゃなく、技術を掴んで殺さず自分の身を守れるようになれば、彼女も落ち着いて異性との関係を持てるかもしれない。それを見通してライルは彼女の面倒を見ているのかもしれない。
「ごめんなさいね。おやすみなさい」
カナが答えることはなかったが、アオイは力の対価について考えた。
元に戻る対価があるのか?いや実際にカナは発言していないし、ライルもそれを知ってるはずだ。一つの仮説に行くなら、ユウのように言葉足らずなだけで、違う部分が欠落しているかもしれない。カナの対価は髪の毛の脱色かもしれない。そうなると何故戻るのかと戻ってしまう。
考えが矛盾しながらも朝を迎えた。
「おはようございます」
隈を作っているアオイを見てカナは、メモを書きアオイに見せた。
『昨日の事を気にしているのか?私の髪とライルの事』
「いえいえ、違いますよ。どうしたらユウとハヤトと分かり合えるかと考えてました」
夢の内容が精神的に効いていたので、違う事としてカナの事を考えていたが、黙っているが今日またユウとハヤトに会えるかが不安になる。
そして朝食を取っていると、二人の携帯が鳴った。
内容は同じだったが、カナは目を丸くして驚いていた。内容は・・・
【記憶を戻す】
とのことだった。カナに戸惑いの表情が見えたが、内容はアオイには見えないので、何を書かれているのか判らないままで、アオイにはユウとハヤトが喫茶店に来ると言う内容だった。昼間は喫茶店に来ても良いという事だろうか?
カナが早々に立ち上がり、カバンを持ち出かけようとするので、アオイも急いで追いかけていく。
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