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第3章 お尋ね者の冒険者パーティー

背水の陣

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「困ったのう!」

 ワープ魔法で拠点に帰り着くなり、自分の変装魔法を解いてエラは言った。

「手がかりを得るどころかこちらの情報をバラまいてしもうたわい!」

「少なくとも、行方不明者である僕と貴族令嬢のデレーさんがパーティーにいることが知られてしまいましたね」

「元、ですわよ。はあ……それにしても、申し訳ありません。ぬかりましたわ。少し前まで箱入りでしたから、私の顔を知る人はそういないと思っていましたの」

 確かにカターさんたちは初対面時から今まで、デレーが令嬢であることに気付いた様子は無かった。
 第四領地内ですら、誰も気付いていなかったように思う。

 少し不思議に思っていたが、なるほどそういうことだったのか。

「それはそうと、めちゃくちゃ普通に『本人で間違いない』ってゲロってたが」

「うっ……。わ、私も言ってからマズいと思いましたの! ぐだぐだ感につられて口がお滑りあそばしてしまったのですわ!」

 口がお滑りあそばしたとは。
 だが気持ちはわからないでもない。
 直前まで頭を使って会話していたのに突然それが水の泡となれば、対応が雑にもなろう。

「トキもすまぬのう。せっかく帰る場所があったというに、そこへの道を潰してしもうた」

「謝らないでくださいよ気味悪いんで。あと、いつ誰が帰りたいとか言いました? ぶっちゃけあの人のこと今はもう好きじゃないんですよね。それに、家にいたら堂々と毒の研究ができないので」

「んむ、そうか」

 王宮で竜人の戸籍を見てしまったから逃げているというのも事実ではあるが、それが無くとも彼は親元に帰る気が無かったらしい。

 まあ、信心深そうなシックさんと宗教に興味が無さそうなトキでは気が合わなさそうである。

「ひとまずトキの分とデレーの分と……念のためバサークの分も変装魔法を用意しよう。あと数日くらいはここに籠っていた方がいいかもしれんのう」

「そうね。一応フードとマントで角と翼を隠せてはいるけど、エラの言う通り念には念を、ね」

 アクィラが頷く。

 なんにせよ、これからさらに動きにくくなるだろう。
 俺も狼の姿があるからと油断せず、慎重に行動しなくては。

「……少し、思ったんだが」

「なんですのヒトギラさん」

「ここはデレーの所有する建物だろう」

「ええ、そうですわね。それが何か?」

「今しがた騎士団にお前が『デレー=ヤン』であることがバレた。となると、近いうちに騎士団がここに来るんじゃないか」

「言われてみればそうですわね!」

 と、次の瞬間、玄関の扉が激しく叩かれた。
 ついでに「騎士団だ! ここを開けろ!」という声付きで。

「もう来ましたわ!」

「デレーちょっとやけくそになってない?」

「やれやれ……。どうする? 対話を試みるかえ?」

「無理だろう、以前も問答無用だったのだから」

 そうこうしているうちに扉が破られ、騎士たちがぞろぞろと入って来た。
 もちろん筆頭はカターさんである。

「貴様らのことは買っていた。おかしな奴らではあるが、決して悪ではないと。しかし見損なったぞ、まさか児童誘拐に手を染めていたとはな……」

 カターさんは鬼の形相で剣を構える。
 彼のことだ、子どもを攫うなどという悪逆は特に許せないのだろう。
 今回に関しては誤解なんだけれども。

「誘拐なんてしてないよ! ね、トキ!」

「ええ。……ですがそれより、情報が早すぎませんか?」

「うむ、わしも思うておったぞ。今しがた王都から帰って来たところじゃというのに、なぜあやつらはトキのことを知っておる?」

 そうだ、それにタイミングが良すぎる。
 俺たちが帰って来た途端にやって来るなんて、まるで最初から待ち構えていたようだ。

「ふん……先日、貴様らを取り逃して以来、私たちが手をこまねいていたとでも? 騎士団の権限と情報網を以てすれば、いち冒険者パーティーの拠点くらい突き止められる」

「ほーん。つまり何じゃ、張り込みでもしておったのか? 健気なことじゃのう」

「そうとも。たとえ相手が貴族令嬢であろうと、私は容赦しない。なに、いざとなれば私が責任を負って首を差し出せば良いだけのこと」

「ははっ。立派になったものじゃのう」

 睨み合いをするカターさんとエラ。
 するとデレーが俺を抱き上げ、耳打ちをしてきた。

「お気を付けくださいまし。あの方はまだ何かを隠しておられますわ」

 俺はこくりと頷いて応じる。
 タイミングの件はわかったが、情報入手速度の件は未だに不明だ。

 それに、カターさんはどこか余裕を持って俺たちと対峙している。
 奥の手を用意しているのかもしれない。

「青髪はどこだ」

「おや、おかしなことを言う。わしらがこんな状況下であやつと共にいるとでも思うのかえ?」

「思うな。貴様らはそういう人間だろう」

「そこまでわかっておって、なぜ話を聞かん。おぬしは理性的な人間ではなかったのか」

「奴が悪だからだ。最初から感じていた悪の気配……それは真であった。青髪は『魔王の器』、すなわち魔王の手先。故に平気で子どもを攫い、洗脳する」

「……ふむ?」

 エラが訝しげな顔をする。
 それもそうだ。
 今の話は、カターさんにしてはいささか理論が飛躍しすぎている。
 誘拐までは百歩譲ってわかるが、洗脳……?

「魔物を呼び寄せていたのも青髪だ。魔王と接触し力を完全に己がものにする前から、奴は魔王の力を利用していた。奴は無害の皮を被った悪なのだ。悪を断たずして何が騎士団か。竜人の協力も得た。奴を倒すのも時間の問題だ。私たちは市民を悪の手から守らねばならない」

「…………あー、だいたいわかったぞい」

「フウツさんの持つ力に中てられて、嫌悪感をつのらせるあまり正常な思考を失っているのですわ」

 デレーがまた耳打ちをして説明してくれる。
 俺はふと、いつか聞いたククの話を思い出した。

 ――『器』は最初から魔王様の力を使えるわけではありません。体の成熟と共に、少しずつ力が解放されていくのです。

 そう、確かそんなことを、『器』についての話の中で言っていた。

 ならばおそらく、魔王が来たあたりで俺の中の力は全部解放されたのだろう。
 力の増大は、嫌われ具合の加速に直結する。

 さらにカターさんは力の影響を受けやすいのか、他の人より敵意増し増しだ。

「ようくわかったぞ、カター。おぬしには話が通じんことがな!」

 エラはすかさずワープ装置を取り出した、が。

「させない!」

 誰かが扉から駆け込んでくる。
 同時に前方から飛来した矢に装置が弾き飛ばされ、カラカラと床をすべるように転がった。
 続いて射られた矢が、無慈悲にも装置を貫き破壊する。

「よくやった。さすがだ、ナオ」

「いえ、そんな。おれがいなくても、あんたが何とかしていたでしょう」

 矢を射た張本人、ナオはこそばゆそうに笑った。

「え、え、今の矢どうやって撃ったの!? なんか曲がって飛んで来たよ!?」

「答える義理は無いね。カターさん、始めましょう」

 ナオが真っ直ぐこちらに向かって矢を番える。

 予備の装置はもう無い。
 こうなってしまっては、戦うしかないのだろうか。

 もしそうなら人間の姿に戻してほしいな。
 ……エラ、俺に魔法かけてること忘れてないよね?
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