もう一つの凶器

15章

『藤浪勤とは、誰のことですか。』丸山和彦は、平静を装ったような顔で矢口に言った
『知っているはずですが。あなたが務めていた刑務所の囚人だった男です。五年前に、刑務所内で病死しました。』
『五年前というと、僕が、まだ新人の頃ですね。服役囚は、たくさんいますからね。いちいち、個人個人の名前なんて覚えていられませんよ。』
『そうですか。もう一度聞きますが、藤浪勤の事は一切覚えていないんですね』矢口は、丸山の目を直視して聞いた。
『ええ、覚えていません』視線をそらしながら、丸山は答えた。
『最後の質問ですが、事件の当日は非番でしたね。木嶋さんが殺害されたと推定される、午前七時から午前8時は、どちらにいましたか』
『ここの自宅の二階にある自分の部屋で寝ていました。』
『証人はいますか』
『父は仕事に行っていて、母は、泊まり込みの町内会の旅行に行っていて不在だったので、証人はいません』