アマチュア団体殺人事件

1

3月20日の土曜日。東京都世田谷区の住宅街にある団地の一室で、中年の男性の他殺体が発見されたという通報が、警視庁に届いた。午前9時に、捜査一課の、矢口警部補率いる捜査員が、現場の、団地の三階にある部屋に急行した。スーツ姿で倒れている、被害者は、部屋の住人である、林雄一郎、43歳。都内にある、商社で働いているサラリーマンである。鑑識によると、死因は鈍器のような物で、頭を殴られたことによる、出血死である。死亡推定時刻は、昨日の午後9時から午後10時の間だろうと推定された。発見者は、林が所属している、日本ミステリー研究会の会員だという、須藤一郎という男である。矢口警部補は、自己紹介をして、須藤に話を聞いた。林と同い年くらいの中年の男である。
「今日の8時ぐらいに、近くの喫茶店で待ち合わせの約束をしていまして」
「林さんが現れなかったから、部屋を訪れたということですね。部屋の鍵は空いていましたか」
「ええ、電話にかけても出なかったので。インターホンを鳴らしても、応答がなく、携帯電話をかけてみると、中から着メロが聞こえてきますし、鍵が開いているので、不自然だと思い、入ってみたら、彼の遺体に遭遇したというわけです。」
「失礼ですが、日本ミステリー研究会というのは」
「ただのアマチュアの人たちが集まって、推理小説を書いたり、批評したり、紹介したり、または、実際に起きた事件を調べてみたりして、完成した同人誌を出版している団体でして、まあ道楽みたいなもんですかね。」
「なるほど。須藤さんが、林さんと出会われたきっかけは」
「そうですね。私はサラリーマンをしているんですが、たまたま、通勤の電車で一緒になることが多く、話すようになりまして。彼とは、よく馬が合いましてね。今日も、推理小説の件で話し合おうと思っていまして」
がっくり肩を落としながら、須藤は言った。