25 / 33
4
しおりを挟む
「アンタが臆病なせいで、いろんな人を巻き込んでるんだよ!! それに気付けるチャンスだってあったはずなのに、見たくないものには蓋をして……それでもS校のドンかよ!!」
年下の小さい男に街中で怒鳴られ、檄を飛ばされ、痴態を晒す大男の竜ヶ崎。
しかし、その檄は、あまりに図星を突いたもので、竜ヶ崎の怒りは鎮静化してしまった。
「強気で強引なのが竜ヶ崎さんなら、途中でへばって弱いところを安易に見せないで下さい。それに集る蝿に足元を掬われるのは、竜ヶ崎さんだけじゃないんすから」
「目を背けず向き合って下さい」と息巻く桜木の意図をうまく汲み取れないものの、逃げるなと言われていることだけは受け止めざるを得ない。
竜ヶ崎は舌打ちをして掴んだ手を離す。「じゃあ、俺は今からゆづの恋路を邪魔しに行くからな」。
そう桜木に言いながら、執着心と嫉妬心に嫌悪していた竜ヶ崎は、それらの感情を抱く自身を赦してみる。
弓月しか見えていない自分と弓月には幸せでいて欲しい自分。この内在するアンビバレントな感情が苦しかった。どちらかを選べば、どちらかの感情を捨てることになる。——傲慢な感情を取るか、弓月の感情を優先するか。
「精一杯三浦先輩の邪魔をすればいいじゃないですか。邪魔ができたらの話ですけど」
桜木も通常運転の桜木に落ち着いたらしく、余裕たっぷりにほくそ笑んで煽ってくる。だが、桜木は暗に両方を手に入れる選択もあることを示したかったのだろう。竜ヶ崎の視野が狭くなった眼では二者択一しか考えられていなかったのだから。
でなければ、こうして檄を飛ばしてまで竜ヶ崎を焚きつける理由が見当たらない。
「僕はこれから行くとこあるんで、失礼します」
桜木は颯爽とその場から遠ざかって行った。竜ヶ崎がこれから弓月の邪魔をするかもしれないというのに、無警戒なものだ。
「……どこまでも可愛げねぇな」
竜ヶ崎もこの場を後にする。それからほとんど触らなくなっていたスマホを取り出して、溜まりに溜まった受信メールを開いた。目を細めて、弓月からのメールを確認する。
桜木の乱発されたメールに比べれば大した量はないが、古いものからひとつひとつ読んでいく。
退院直後で、検査はどれも異常は無かったこと、怪我が治ってきて包帯が取れたことなど、当たり障りないが竜ヶ崎が気にかけていた事が綴られていた。
そして、竜ヶ崎は直近のメールまで読んだところで、細めていた目が最大限に開く。「落ち着いたら話したいことがある、ねぇ」。
本日二度目の嫉妬心に支配され始める。平静さを取り戻そうと思えば思うほどどツボに嵌っていき、歩みが速くなる。弓月の家にはおらず、学校に引き返したがそれも同じく弓月の姿はない。
早る気持ちのまま一旦帰宅することにした。夜なら必ず弓月も帰宅しているだろうと踏んで。
その間、弓月に着信を入れてみるが、応答することはなく。竜ヶ崎をさらに闇夜へと堕としていった。
憤悶とした気分のまま帰宅して自室のドアを引く。
「よっ! 久しぶり」と聴き慣れた、だけど、酷く懐かしい声が竜ヶ崎を包んだ。
あれだけ探し回った人物が目の前に現れているというのに、我に返った竜ヶ崎は動揺を悟られまいと「俺、まだ停学期間中で、生徒との接触禁止なんだけど」と素っ気ない態度を取る。
冷たい態度に少し腹を立てたのか、制服を脱ぐ竜ヶ崎を余所に男はベッドにふんぞり返った。
(冷静、冷静、冷静。絶対変な気を起こすなよ、俺)
年下の小さい男に街中で怒鳴られ、檄を飛ばされ、痴態を晒す大男の竜ヶ崎。
しかし、その檄は、あまりに図星を突いたもので、竜ヶ崎の怒りは鎮静化してしまった。
「強気で強引なのが竜ヶ崎さんなら、途中でへばって弱いところを安易に見せないで下さい。それに集る蝿に足元を掬われるのは、竜ヶ崎さんだけじゃないんすから」
「目を背けず向き合って下さい」と息巻く桜木の意図をうまく汲み取れないものの、逃げるなと言われていることだけは受け止めざるを得ない。
竜ヶ崎は舌打ちをして掴んだ手を離す。「じゃあ、俺は今からゆづの恋路を邪魔しに行くからな」。
そう桜木に言いながら、執着心と嫉妬心に嫌悪していた竜ヶ崎は、それらの感情を抱く自身を赦してみる。
弓月しか見えていない自分と弓月には幸せでいて欲しい自分。この内在するアンビバレントな感情が苦しかった。どちらかを選べば、どちらかの感情を捨てることになる。——傲慢な感情を取るか、弓月の感情を優先するか。
「精一杯三浦先輩の邪魔をすればいいじゃないですか。邪魔ができたらの話ですけど」
桜木も通常運転の桜木に落ち着いたらしく、余裕たっぷりにほくそ笑んで煽ってくる。だが、桜木は暗に両方を手に入れる選択もあることを示したかったのだろう。竜ヶ崎の視野が狭くなった眼では二者択一しか考えられていなかったのだから。
でなければ、こうして檄を飛ばしてまで竜ヶ崎を焚きつける理由が見当たらない。
「僕はこれから行くとこあるんで、失礼します」
桜木は颯爽とその場から遠ざかって行った。竜ヶ崎がこれから弓月の邪魔をするかもしれないというのに、無警戒なものだ。
「……どこまでも可愛げねぇな」
竜ヶ崎もこの場を後にする。それからほとんど触らなくなっていたスマホを取り出して、溜まりに溜まった受信メールを開いた。目を細めて、弓月からのメールを確認する。
桜木の乱発されたメールに比べれば大した量はないが、古いものからひとつひとつ読んでいく。
退院直後で、検査はどれも異常は無かったこと、怪我が治ってきて包帯が取れたことなど、当たり障りないが竜ヶ崎が気にかけていた事が綴られていた。
そして、竜ヶ崎は直近のメールまで読んだところで、細めていた目が最大限に開く。「落ち着いたら話したいことがある、ねぇ」。
本日二度目の嫉妬心に支配され始める。平静さを取り戻そうと思えば思うほどどツボに嵌っていき、歩みが速くなる。弓月の家にはおらず、学校に引き返したがそれも同じく弓月の姿はない。
早る気持ちのまま一旦帰宅することにした。夜なら必ず弓月も帰宅しているだろうと踏んで。
その間、弓月に着信を入れてみるが、応答することはなく。竜ヶ崎をさらに闇夜へと堕としていった。
憤悶とした気分のまま帰宅して自室のドアを引く。
「よっ! 久しぶり」と聴き慣れた、だけど、酷く懐かしい声が竜ヶ崎を包んだ。
あれだけ探し回った人物が目の前に現れているというのに、我に返った竜ヶ崎は動揺を悟られまいと「俺、まだ停学期間中で、生徒との接触禁止なんだけど」と素っ気ない態度を取る。
冷たい態度に少し腹を立てたのか、制服を脱ぐ竜ヶ崎を余所に男はベッドにふんぞり返った。
(冷静、冷静、冷静。絶対変な気を起こすなよ、俺)
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)
ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに
ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子
天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。
可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている
天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。
水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。
イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする
好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた
自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い
そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果
はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
[本編完結]彼氏がハーレムで困ってます
はな
BL
佐藤雪には恋人がいる。だが、その恋人はどうやら周りに女の子がたくさんいるハーレム状態らしい…どうにか、自分だけを見てくれるように頑張る雪。
果たして恋人とはどうなるのか?
主人公 佐藤雪…高校2年生
攻め1 西山慎二…高校2年生
攻め2 七瀬亮…高校2年生
攻め3 西山健斗…中学2年生
初めて書いた作品です!誤字脱字も沢山あるので教えてくれると助かります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる