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2章

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 黒田の言う通り、彼は朝から病院へ来てくれた。
 
「あー! お昼のご飯のお粥、粒が大きくなってるよ!」
「でも、毎日これで、飽きちゃった」
「そろそろ味変してもらえるよきっと! これを全部食べられたらだけどね」
「えー、全然余裕」

 その宣言通り、田淵は容器の粥を空にさせた。
 「吐き気は?」と覗き込まれるが、胃から逆流してくる感じも、むかつきもない。

「なんともないよ」
「そっか。じゃあ、明日にでも味が変わってるといいね」

 笑みを向けられて、田淵のなかで懐古の安寧が芽吹き始める。一緒に居た頃の、互いに時間の融通が利いていられた期間の、和やかな一時。
 「僕、おじさんくさくなったなぁ」と、口からこぼれ落ちる。

「年は5個違いだけど、お互いアラサー同士で年食ったね」
「だねぇ、いい年こいて寂しくて浮つくなんて、恥ずかしいったら無いよ」
「・・・・・・」
「ごめんねぇ」
「それは、俺の家に帰って話そう?」
「え、僕が黒田君の家に帰る・・・・・・?」
「え、帰らないの?」
「・・・・・・」

 沈黙を作り出したのは田淵であった。しかし、黒田が直ちに言葉を繋ぐ。「うん、そこはヒロキさんのしたいようにしていいから。遠距離は――俺が頑張って此処まで通うから問題なし」。

 「普通に、恋愛、するんでしょう?」そう微笑まれたら、田淵は甘えてしまう。

「でも、その前にディアゴのことがネックだよね。その解決は今ここでできそうだから、ご飯も終わったことだし少し話そうよ」
「うん・・・・・・」

 おもむろ立ち上がり、病室を出ていく。田淵はその後姿をドアが閉まるまで見届けて、一つ息を溢した。
 宣告までの安寧がまた、暗澹たる雲に隠されたように息を潜める。

(ディアゴ・・・・・・彼にも悪いことしちゃったな。その問題の解決がまだなんだから、黒田君がここに三日間も泊まってくれることがどれだけ優しい行為なのか、よくよく分かってないといけなかったな)

 「ヒロキさん、もう少ししたら人が来るから」再び現れた黒田だけ、何やら憑き物が取れた表情でいる。田淵には不安を煽る要素でしかなかったが、それも自業自得だと、ぐっと堪えた。

 それから間もなくして、ノックが鳴る。

「こんにちは。ご無沙汰してますね、田淵様」

 聞き覚えのあるキャリアウーマンの声だった。雰囲気こそ、尖りは摩耗されて柔らかくなっているが、芯の強さを感じる眼は健在のようだった。
 
「こちら、犬飼さん。ヒロキさんに契約を迫った黒田グループの秘書だよ」

 黒田の紹介に一瞬睨めつけるが、直様田淵に向き直って頭を下げた。

「僕も覚えてますよ。強烈でしたから」
「・・・・・・その節は、大変申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げる。

「ん? 僕、まだ黒田グループに利用されてる感じなの?」

 黒田が一笑いをしてから「ディアゴの件でこれから話すんだよ?」と話を戻した。

「——ディアゴ・カルスコス・ジェーンは、私の交際相手です」
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