上 下
87 / 104
2章

86

しおりを挟む
 人間というのは、環境に適応しながら生きていることを身に沁みて実感する。

 黒田に別れを告げて早1ヶ月。季節の変わり目に差し掛かり、木枯らしが肌を突き刺してくる。
 田淵はまた、黒田と出会う前と同様に、不労所得をメインに生活をするようになっていた。

 実家への負担も考えて、すぐに県外に住居を移してマンションに住んだ。
勿論、裕子は止めてくれた。だが、田淵は言い難い喪失感と共に出ていく。

 築年数は然程経っておらず、比較的家賃の値が張るところへ住んではいるものの、一人暮らしということもあり狭めの部屋を選んだはずだった。

 ――だだっ広い、それに尽きた。

 スーパーのレジ袋を提げて帰宅した田淵は今晩の献立を考える。
 
(そういえば、黒田君は献立を決めてから材料買いに行ってたような気がする・・・・・・。――あれ、そういえば、黒田君って、何が好物だったんだろう)

 食材たちと見つめ合い不毛な疑問に気を取られる。
 そして、あっという間に時間は経過しているのだ。
 最近はそれが多すぎる。

 そして、事も無げに料理をし、食べて、食器を片す。それからPCのチェックを終えると、後はやることが何もない。
 以前の自分は何をやって人と会うことを拒んでも平気でいられたのか、それすら分からない。

 この1ヶ月、通信機器の類は全て置いてきた田淵に、黒田の追跡力をどこまで期待したのか、音沙汰のないことに「そういうことなんだ」と勝手に思い込む。
 それ以外は、心の揺らぎも沈みも大してすることなく、繰り返される日々を淡々とこなしていった。

 そのような日々を送っていると、自然と腹が減ることがなくなる。そして、動く気力もそれによって削がれていく。
 自堕落な生活を送っている自分に嫌気がさすことなく、ただ、その空間に居続けた。

(ゼロから始めるなんて言っときながら、これじゃ、マイナス――)

 急激な眠気と共に、入眠していった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

割れて壊れたティーカップ

リコ井
BL
執着執事×気弱少年。 貴族の生まれの四男のローシャは体が弱く後継者からも外れていた。そのため家族から浮いた存在でひとりぼっちだった。そんなローシャを幼い頃から面倒見てくれている執事アルベルトのことをローシャは好きだった。アルベルトもローシャが好きだったがその感情はローシャが思う以上のものだった。ある日、執事たちが裏切り謀反を起こした。アルベルトも共謀者だという。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

え?なんでオレが犯されてるの!?

四季
BL
目が覚めたら、超絶イケメンに犯されてる。 なぜ? 俺なんかしたっけ? ってか、俺男ですけど?

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

逃げられない檻のなかで

舞尾
BL
都会で銀行員として働いていた高取遥は、大損失を出した上司の身代わりにされ、ある田舎へと左遷されてしまう。そこで出会ったのは同年代の警察官、高取正人だった。 駐在所の警察官として働いていた正人と遥は次第に仲良くなっていくが、ある日遥に連絡が来て… 駐在所の警察官×左遷されたサラリーマンの話です。 攻に外堀をガンガンと埋められていきます。 受に女性経験がある表現があります。苦手な方はご注意ください。 ※はR指定部分です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

処理中です...