58 / 104
1章
57——黒田——
しおりを挟む
「飛露喜。俺はちょっと疲れたんだ。少し時間をくれないか」
「・・・・・・では、経理の人と廣田さんとで、決算書について話し合いをしてきます。その結果をお伝えする形でいいですか」
「俺抜きで話を進めるというのか」
「俺は早いほうがいいかと思いますよ。もし、廣田さんの会社が本当に赤字経営だとすれば一刻を争うのだと、社長自らおっしゃいました」
社長の次の標的は、今度こそ、黒田に変わったらしい。
敵意剥き出したカイゼル髭が、黒田に向けられる。
「これだから、勘のいいガキは嫌いなんだ」
「はい?」
「いや。――そうだ。廣田君、廣田君のこと飛露喜から報告が上がっているぞ」
「本社のところから500ほど、横領してないか?」次は廣田にロックオンして、次から次へと閑話休題には大きすぎる爆弾を発言する。
「しゃ、社長。そ、それは・・・・・・――おい、黒田」
「しっ。では、社長。お話を続けますね。その話もちゃんと出てきますし」
「いや。この不正も厳正に対処せねばなるまいよ。これが先だろう」
黒田はなかなか本題に入らせてくれない社長に内心毒づいて、ポーカーフェイスを続けた。
「この500万の横領を教えてくれたのは勿論、飛露喜なんだが、どうだ。結果の方は」
「横領してくれと頼まれましたが、俺が説得をして思い留まってくれましたんで、その話はこれで終わりです」
「・・・・・・なんだと?」
凄みを増して、視線に鋭さが加わり痛く黒田に突き刺さる。
「俺を出し抜いたということか。どうなんだ!!」
野太い声で荒げる。廣田は萎縮して、背中を小さくさせているが、黒田はここで負けるわけにはいかなかった。
「・・・・・・おかげで、社長が廣田を切り捨てようとしているのが分かりましたよ。俺と同級生ということで、結託するのを恐れでもしました? 怨恨の類でどうこうというより・・・・・・社長がそういう繋がりを恐れているではありませんか」
(まぁ、本当に結託する形になったのは不本意ではあるけれど)
奔走しているうちに、廣田の内面を垣間見なければ、黒田もここまで廣田と結託して寄り添うことはしなかっただろう。
社内の評判はもちろん、社員旅行や福利厚生、育休制度――復職についても廣田が及んでおり、社員を重んじている様子が伝わってくる。
――そういえば、初めて黒田が廣田の会社に連れられた時、明かりは社長室だけで、他は真っ暗であった。
残業も徹底してさせないのだと、後で社員から聞くことになるのだ。
社長の沸点も最低まで下がったであろう――ここで、黒田はまた別の書類を卓上に置いた。
「これは俺が業務経験中に構築した人間関係を駆使して手に入れたもので――社長が見せた決算書が偽物であることが分かりますよね」黒田は畳み掛けた。
「俺を陥れるために、廣田も抱き込んだのでしょうが、途中で見放すだろうと俺が予測した、俺の勝ちです」
「・・・・・・」
「たしかに、廣田は経営者には向いてないでしょう。義理人情が働きすぎる点においては」黒田もまた、廣田の面を知って学ぶべき点でもあると、思い知らされたのだ。
無論、今の黒田には田淵の存在がいるから、気付けたことであるのは言うまでもなかった。
「・・・・・・では、経理の人と廣田さんとで、決算書について話し合いをしてきます。その結果をお伝えする形でいいですか」
「俺抜きで話を進めるというのか」
「俺は早いほうがいいかと思いますよ。もし、廣田さんの会社が本当に赤字経営だとすれば一刻を争うのだと、社長自らおっしゃいました」
社長の次の標的は、今度こそ、黒田に変わったらしい。
敵意剥き出したカイゼル髭が、黒田に向けられる。
「これだから、勘のいいガキは嫌いなんだ」
「はい?」
「いや。――そうだ。廣田君、廣田君のこと飛露喜から報告が上がっているぞ」
「本社のところから500ほど、横領してないか?」次は廣田にロックオンして、次から次へと閑話休題には大きすぎる爆弾を発言する。
「しゃ、社長。そ、それは・・・・・・――おい、黒田」
「しっ。では、社長。お話を続けますね。その話もちゃんと出てきますし」
「いや。この不正も厳正に対処せねばなるまいよ。これが先だろう」
黒田はなかなか本題に入らせてくれない社長に内心毒づいて、ポーカーフェイスを続けた。
「この500万の横領を教えてくれたのは勿論、飛露喜なんだが、どうだ。結果の方は」
「横領してくれと頼まれましたが、俺が説得をして思い留まってくれましたんで、その話はこれで終わりです」
「・・・・・・なんだと?」
凄みを増して、視線に鋭さが加わり痛く黒田に突き刺さる。
「俺を出し抜いたということか。どうなんだ!!」
野太い声で荒げる。廣田は萎縮して、背中を小さくさせているが、黒田はここで負けるわけにはいかなかった。
「・・・・・・おかげで、社長が廣田を切り捨てようとしているのが分かりましたよ。俺と同級生ということで、結託するのを恐れでもしました? 怨恨の類でどうこうというより・・・・・・社長がそういう繋がりを恐れているではありませんか」
(まぁ、本当に結託する形になったのは不本意ではあるけれど)
奔走しているうちに、廣田の内面を垣間見なければ、黒田もここまで廣田と結託して寄り添うことはしなかっただろう。
社内の評判はもちろん、社員旅行や福利厚生、育休制度――復職についても廣田が及んでおり、社員を重んじている様子が伝わってくる。
――そういえば、初めて黒田が廣田の会社に連れられた時、明かりは社長室だけで、他は真っ暗であった。
残業も徹底してさせないのだと、後で社員から聞くことになるのだ。
社長の沸点も最低まで下がったであろう――ここで、黒田はまた別の書類を卓上に置いた。
「これは俺が業務経験中に構築した人間関係を駆使して手に入れたもので――社長が見せた決算書が偽物であることが分かりますよね」黒田は畳み掛けた。
「俺を陥れるために、廣田も抱き込んだのでしょうが、途中で見放すだろうと俺が予測した、俺の勝ちです」
「・・・・・・」
「たしかに、廣田は経営者には向いてないでしょう。義理人情が働きすぎる点においては」黒田もまた、廣田の面を知って学ぶべき点でもあると、思い知らされたのだ。
無論、今の黒田には田淵の存在がいるから、気付けたことであるのは言うまでもなかった。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
割れて壊れたティーカップ
リコ井
BL
執着執事×気弱少年。
貴族の生まれの四男のローシャは体が弱く後継者からも外れていた。そのため家族から浮いた存在でひとりぼっちだった。そんなローシャを幼い頃から面倒見てくれている執事アルベルトのことをローシャは好きだった。アルベルトもローシャが好きだったがその感情はローシャが思う以上のものだった。ある日、執事たちが裏切り謀反を起こした。アルベルトも共謀者だという。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
逃げられない檻のなかで
舞尾
BL
都会で銀行員として働いていた高取遥は、大損失を出した上司の身代わりにされ、ある田舎へと左遷されてしまう。そこで出会ったのは同年代の警察官、高取正人だった。
駐在所の警察官として働いていた正人と遥は次第に仲良くなっていくが、ある日遥に連絡が来て…
駐在所の警察官×左遷されたサラリーマンの話です。
攻に外堀をガンガンと埋められていきます。
受に女性経験がある表現があります。苦手な方はご注意ください。
※はR指定部分です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる