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1章

57——黒田——

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「飛露喜。俺はちょっと疲れたんだ。少し時間をくれないか」
「・・・・・・では、経理の人と廣田さんとで、決算書について話し合いをしてきます。その結果をお伝えする形でいいですか」
「俺抜きで話を進めるというのか」
「俺は早いほうがいいかと思いますよ。もし、廣田さんの会社が本当に赤字経営だとすれば一刻を争うのだと、社長自らおっしゃいました」

 社長の次の標的は、今度こそ、黒田に変わったらしい。
 敵意剥き出したカイゼル髭が、黒田に向けられる。

「これだから、勘のいいガキは嫌いなんだ」
「はい?」
「いや。――そうだ。廣田君、廣田君のこと飛露喜から報告が上がっているぞ」

 「本社のところから500ほど、横領してないか?」次は廣田にロックオンして、次から次へと閑話休題には大きすぎる爆弾を発言する。

「しゃ、社長。そ、それは・・・・・・――おい、黒田」
「しっ。では、社長。お話を続けますね。その話もちゃんと出てきますし」
「いや。この不正も厳正に対処せねばなるまいよ。これが先だろう」

 黒田はなかなか本題に入らせてくれない社長に内心毒づいて、ポーカーフェイスを続けた。

「この500万の横領を教えてくれたのは勿論、飛露喜なんだが、どうだ。結果の方は」
「横領してくれと頼まれましたが、俺が説得をして思い留まってくれましたんで、その話はこれで終わりです」
「・・・・・・なんだと?」

 凄みを増して、視線に鋭さが加わり痛く黒田に突き刺さる。
 
「俺を出し抜いたということか。どうなんだ!!」

 野太い声で荒げる。廣田は萎縮して、背中を小さくさせているが、黒田はここで負けるわけにはいかなかった。
 
「・・・・・・おかげで、社長が廣田を切り捨てようとしているのが分かりましたよ。俺と同級生ということで、結託するのを恐れでもしました? 怨恨の類でどうこうというより・・・・・・社長がそういう繋がりを恐れているではありませんか」

(まぁ、本当に結託する形になったのは不本意ではあるけれど)

 奔走しているうちに、廣田の内面を垣間見なければ、黒田もここまで廣田と結託して寄り添うことはしなかっただろう。
 社内の評判はもちろん、社員旅行や福利厚生、育休制度――復職についても廣田が及んでおり、社員を重んじている様子が伝わってくる。
 
 ――そういえば、初めて黒田が廣田の会社に連れられた時、明かりは社長室だけで、他は真っ暗であった。
 残業も徹底してさせないのだと、後で社員から聞くことになるのだ。

 社長の沸点も最低まで下がったであろう――ここで、黒田はまた別の書類を卓上に置いた。

 「これは俺が業務経験中に構築した人間関係を駆使して手に入れたもので――社長が見せた決算書が偽物であることが分かりますよね」黒田は畳み掛けた。

「俺を陥れるために、廣田も抱き込んだのでしょうが、途中で見放すだろうと俺が予測した、俺の勝ちです」
「・・・・・・」

 「たしかに、廣田は経営者には向いてないでしょう。義理人情が働きすぎる点においては」黒田もまた、廣田の面を知って学ぶべき点でもあると、思い知らされたのだ。
 無論、今の黒田には田淵の存在がいるから、気付けたことであるのは言うまでもなかった。
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