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1章

40――黒田――

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 車内でスマホを触ることに躊躇われ、道中重苦しい空気が終始まとい続けた。

 〇〇会社に着くなり、一室だけ明かりのついた部屋へ案内される。
 まだ夜風が肌寒く感じる外気から一変、中は暖房が効いていてコートを脱いだ。

(資金繰りに困っているなら、こんな時間こそ空調はストップさせるのに)

 無駄遣いをしているなら、その改善だけでも随分と変わるはずだ。黒田は、内装から従業員のいない机の配置、それからこれから会う此処のトップとの面会に気を引き締める。

 「お待ちしておりました、黒田さん」秘書が先にノックをして一室を開けた。

「っ廣田!?」
「黒田様? 廣田社長とはお知り合いで?」

 秘書が言葉だけの驚愕を口にしている間、黒田は進む歩を止めるほど驚いている。

「黒田社長から聞いていますよ。うちの立て直しをしてくださるとか。情けない話、俺は利益よりも従業員の生活を優先的に守ってきたから、この有様で」
「廣田・・・・・・」
「ああ、お前の言いたいことは分かるぞ。だけどグッと堪えろ。今はビジネスパートナーだ。友人じゃない」

(友人であった記憶もないが――一体どういうことだ? まさか俺はハメられたのか?!)

 廣田も余所行きのスーツに身を包み、トップらしい面持ちでこちらを見ている。

 廣田が黒田に近づいて「早速仕事の話をしよう」という。
 視線を追いかけるだけの黒田は、そこで秘書と廣田の視線が重なっていることに気付く。
 アイコンタクトを取ったと思えば、「私はこれで失礼します」とすんなり下がっていったのだ。

 監視役として此処へ来たはず。
 ――黒田の社長と廣田が繋がっているようにしか思えない。

 「さぁこの部屋には俺らだけだ。腹割って話そうぜ」廣田はソファに促す。

「さて、俺は何から詰問されればいい?」
「全てだ!!」
「おーおー、怖いねぇ」
「何が狙いだ」

 その言葉に廣田は片方の眉尻を上げて、呆けてみせる。

「お前の手腕がどうだったかは知らないが、周りが見えないようじゃ、この先何をやっても上手く行かないぞ。本質を見抜け」

 「とくに、黒田の人間として生きている限りは、ゼッタイだ。――誰が味方で、誰が敵なのか」廣田は向き合う黒田に身を乗り出していった。

「・・・・・・それは、俺が黒田の社長とお前がグルだって考えてるのがバレてる上で言ってるのか」
「あたぼうよ。それこそ愚問さ。なんで秘書が帰ったのか、その本質さえ見抜けていないからそんな質問が飛んでるくるわけだ」
「・・・・・・」

 ぐうの音も出ない黒田をよそに、「――向こうで少し決算書を見てきたと思うが、ウチの決算書を見てくれ」一冊のファイルを手渡す。

 黒田は目を疑った。

「残念ながら、ウチは赤字倒産寸前でもなければ、黒字倒産寸前でもない」

 「手直しなんて別に必要としてないのさ」軽々しく言ってのける廣田の表情はやけに険しかった。
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