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1章

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「俺・・・・・・ヒロキさんが思ってるより、すごい純愛してるんだよ?」

 「人に言ってて何だけどさ、初恋の相手がヒロキさんだし・・・・・・」擦りつけたまま、顔を上げない。
 続けて、黒田はいう。「それに、俺、も――ハジメテはヒロキさんだし、世間一般から言わせるなら、23で童貞卒業も・・・・・・ね」。

(っああぁぁぁ! 愛しすぎるっ)

「だからさぁ、ヒロキさんは優先順位的に圧倒的1位なわけなんだ。それでいて、俺の打算的な部分も受け入れてくれて、最近は受け入れてくれるのはもちろんだけど、俺が言ってないヤツも分かってて受け入れてくれてるよね?」

 尚も視線を合わせようとしない。黒田にとっては、後ろめたいことのようだ。

「・・・・・・例えば、僕の食べるご飯に唾液入れたこと?」
「・・・・・・ほら、やっぱり知ってる」
「もともととろみをつけるご飯だったから、無理なく食べられたよ!」

 「流石に揚げ物にかけられてたら、そっと黒田君の皿と入れ替えるけど」冗談めかして言いながら、背中をさすってやる。

「俺をこれ以上沼に嵌まらせて、どうしたいの・・・・・・本当にもう、離してやれないし、怨恨のある黒田の力を総動員させてでも連れ戻すから」

 「本当だよ、そういう時が来たら、絶対するから」腰に回された腕から強く引き寄せられる。

「――ん? そういえば、既にその手は使ったことあるよね?」
「・・・・・・じゃあ、絶対するっていう説立証済みということで。必ず連れ戻しますから」
「わお。・・・・・・絶対、連れ戻してよ?」

 ここでようやく田淵の肩から黒田の額が離れる。そして、互いの瞳しか映らない距離で、「言われなくてもやったことあるんだから」と黒田はいう。

「・・・・・・俺はね、休みが確保されてて残業もないところに就こうっていう漠然とした希望があるんだ。だから、黒田の仕事なんかやりたくてやってたわけじゃないし、のんびり此処でヒロキさんと一緒に過ごすって、譲れないものがあるから――」
「じゃあ、休みも出勤時間も自由にできる、社長さんをもう一回目指しませんか!! 動悸は不純かもしれないけど、そんなもんだよ、きっと」

 「それは・・・・・・黒田に戻れって言ってる?」黒田は目を丸くしていう。

「違う違う! むしろ、追い抜く勢いで起業しちゃおう! もともと素質あったんでしょ? だから、黒田の方は僕を探して欲しいっていう依頼を聞いたくらいなんだから、向こうは恐れてたんだよ!! 誓約は交わしているとはいえ、同じ黒田の人間だから、油断ならないって! そう思わせる存在って、すごいことなんだよ!!」

 「そうすれば、いずれ余裕のある生活ができるよ!! 金銭面的にも、時間的にも」目を輝かせて黒田をけしかけた。

「黒田君ならできるでしょ?」
「・・・・・・そりゃ、業務経験はもちろんあるけど・・・・・・軌道に乗るまでは自由出勤なんて夢のまた夢だよ?」
「だよねー。3年で軌道に乗れたらそれこそ敏腕社長だよね」
「うん、そうだよ」
「――もしかして、黒田君、なれない、とか?」
「俺大学院1年目で研究成果出してしまった男だよ? それに、俺のこの諦めの悪さをなめちゃいけないよ」

 「――うん、じゃあ、目標、定まったね」田淵はにんまりと笑った。
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