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1章
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「飛露喜君の馬鹿」えぐえぐと泣いている田淵をひたすらに抱きしめる黒田。
黒田の肩を濡らしているのも構わず、大粒の涙を流し続けた。安堵感に誘発されて、というほうが涙の理由としては正しい。
「ありがとう、ありがとう」と黒田もぶつけられる感情を素直に受け取る。
一頻り泣き終わると、そこに生まれたのは優しさに包まれた空間であった。互いの匂いが感じられて、自然と笑みを溢す二人。
「ヒロキさん……俺のところに帰ってきた、んだよね」
「そうだよ!! 聞きたいことたくさんあるんだよ!!」
「僕、全部気付いているから、二人で色々話そう。一人で完結しちゃうの良くない」田淵はいった。
「……俺もまだまだ子供だなぁ」情けなさそうに八の字眉を下げて笑う。
「僕の方が5個も上なんだから、それくらいの余裕はあるフリさせてよ」
「フリなんだ」
「うん、フリしかできない」
「でも、余裕のあるヒロキさんなら、俺のコレ沈めてくれないかなぁ」と黒田の表情が一変して、したり顔でこちらを見下ろす。
「ヒロキさんから俺の腰に足を巻きつけてんだもん。好きな人からそんなことされたら——ねぇ?」
同意を求められても、つい最近初体験を済ませた男に、恋愛のイロハは分かりかねる。
急転直下とも言える展開に目を泳がせる田淵。
「えっと、何というか僕の声が聞こえてなかったみたいだから、つい……慣れないことをしてしまって、この後どうすればいいかなんて考えなし、でした。あは」
「ま、そうだよねー。経験自体俺とが最初だし、分かんないよね!」
「……う、嬉しそう、だね」
にんまりとする黒田に、畏怖さえ感じながら腰に巻きついた足を解く。
「僕はこの年になっても経験がないっていうの、ちょっとコンプレックスだったんだけど」
「あーダメダメ。今日はもう嫉妬し疲れちゃったから、これ以上煽んないで!」
「本当に、疲れた……」と脱力した黒田は、田淵を覆いかぶさるように倒れ込んだ。
体格が一回り以上異なる田淵には息詰まって仕方がない。喘ぐように「苦しい」と伝える。
しかし、いつもの即レスがない。
「飛露喜君?」
「……」
声が聞こえない代わりに、田淵の耳元付近から寝息を立てていた。パンダのようなクマを見れば、それは至極当然のことである。
黒田の背中をさすり、さらに深い眠りへと誘ってやった。
「起きるまでこのままでいようかな」身動きさえ取れないほどの人間の重さが、田淵には病みつきになりそうであった。密着感といい、充足感といい、人と隔絶した生活をしてきた田淵にとっては、どれも新鮮な感覚だ。
恋愛の仕方さえロクに知らなかった田淵が、下心を持った口実でハグをして接触をした。たったそれだけだが、自身にとっては偉業を成し遂げたまである。
黒田は勃起したまま深い眠りにつけるくらいには、寝不足だ。
これ以上何かするのは野暮だと思い、妙な達成感に包まれながら、ふと口から乾いた笑いとともに溢れた。「僕も飛露喜君も、馬鹿だな」。
黒田の肩を濡らしているのも構わず、大粒の涙を流し続けた。安堵感に誘発されて、というほうが涙の理由としては正しい。
「ありがとう、ありがとう」と黒田もぶつけられる感情を素直に受け取る。
一頻り泣き終わると、そこに生まれたのは優しさに包まれた空間であった。互いの匂いが感じられて、自然と笑みを溢す二人。
「ヒロキさん……俺のところに帰ってきた、んだよね」
「そうだよ!! 聞きたいことたくさんあるんだよ!!」
「僕、全部気付いているから、二人で色々話そう。一人で完結しちゃうの良くない」田淵はいった。
「……俺もまだまだ子供だなぁ」情けなさそうに八の字眉を下げて笑う。
「僕の方が5個も上なんだから、それくらいの余裕はあるフリさせてよ」
「フリなんだ」
「うん、フリしかできない」
「でも、余裕のあるヒロキさんなら、俺のコレ沈めてくれないかなぁ」と黒田の表情が一変して、したり顔でこちらを見下ろす。
「ヒロキさんから俺の腰に足を巻きつけてんだもん。好きな人からそんなことされたら——ねぇ?」
同意を求められても、つい最近初体験を済ませた男に、恋愛のイロハは分かりかねる。
急転直下とも言える展開に目を泳がせる田淵。
「えっと、何というか僕の声が聞こえてなかったみたいだから、つい……慣れないことをしてしまって、この後どうすればいいかなんて考えなし、でした。あは」
「ま、そうだよねー。経験自体俺とが最初だし、分かんないよね!」
「……う、嬉しそう、だね」
にんまりとする黒田に、畏怖さえ感じながら腰に巻きついた足を解く。
「僕はこの年になっても経験がないっていうの、ちょっとコンプレックスだったんだけど」
「あーダメダメ。今日はもう嫉妬し疲れちゃったから、これ以上煽んないで!」
「本当に、疲れた……」と脱力した黒田は、田淵を覆いかぶさるように倒れ込んだ。
体格が一回り以上異なる田淵には息詰まって仕方がない。喘ぐように「苦しい」と伝える。
しかし、いつもの即レスがない。
「飛露喜君?」
「……」
声が聞こえない代わりに、田淵の耳元付近から寝息を立てていた。パンダのようなクマを見れば、それは至極当然のことである。
黒田の背中をさすり、さらに深い眠りへと誘ってやった。
「起きるまでこのままでいようかな」身動きさえ取れないほどの人間の重さが、田淵には病みつきになりそうであった。密着感といい、充足感といい、人と隔絶した生活をしてきた田淵にとっては、どれも新鮮な感覚だ。
恋愛の仕方さえロクに知らなかった田淵が、下心を持った口実でハグをして接触をした。たったそれだけだが、自身にとっては偉業を成し遂げたまである。
黒田は勃起したまま深い眠りにつけるくらいには、寝不足だ。
これ以上何かするのは野暮だと思い、妙な達成感に包まれながら、ふと口から乾いた笑いとともに溢れた。「僕も飛露喜君も、馬鹿だな」。
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