アヤ取り

ゴンザレス

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「和睦」——常盤鴬——

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 「相変わらず小さいし、軽いな」軽々と抱っこしてくれた仁作が、車に戻る道中に呟いた。

 ホステスは研ぎ澄まされたカンと気遣いによって、いつも気付かないフリをしていてくれたらしい。「良かったね」という言葉があちらこちらで聞こえる。
 鴬はそれに嬉々として、仁作の首に巻きついて擦り寄る。「いいでしょー! でも、無自覚で浮気行為する仁作の監視は、みんなにもお願いするね?」とホステス達を味方につける形で仁作とともに天音への対抗、牽制を作り上げた。

 仁作と人前で甘えるシーンが一度もなかったためか、鴬にも多少の執着心に見舞われる。頬が赤面しているのだろうか、それとも赤面どころか、茹で蛸状態になっているのだろうか、どちらにせよ、顔が熱い。

 「それじゃ、みんなお仕事頑張ってね!」と無言で鴬を抱き抱えたまま連れ去っていく仁作に違和感を感じながら、野次馬になってしまったホステスたちを縫うように抜けていく仁作の腕の中から猫を被って去った。

 落ち着いた通りまで出てくると、鴬が降りたところとは反対の位置に車を寄せられている。

(この場合、仁作の方に乗るのが正解だろうけど、このドライバーさんがどこまで察してくれ照るのか、僕の中でも半信半疑なとことがあるし、下手に裏表を出すのは良くない気がしてきたなぁ)

 勝手に進んでいく成り行きを仁作の腕の中で静観する。「鴬のとこのドライバーにコイツは俺が連れて帰るからって連絡しとけ」と仁作の素っ気ない声が上から降りてくる。

 仲間至上主義の仁作にあるまじき態度だと思い、ふと見上げる。心なしか仏頂面に拍車がかかって、感情がうまく読み取れない。ただの脳筋ではなかったらしい。

 車内に乗せられて、続いて仁作自身も隣に乗り込む。

「事務所まで」
「——はい」

 鴬には話しかけもせず、頑としてこちらを見ない。張り詰めた空気に鴬も多少の緊張感を伴いながら、「ね、ねぇ」と声をかけてみる。
 しかし、返事はない。窓の外に視線を移して頬杖から溜息までの一連の流れまで、鴬の存在を忘れているかのようだった。

「ねぇ……。さっきあてもなしに相手に煽ったの、やっぱり怒ってる?」
「……。鴬、ちょっと話しかけないでくれるか」

 耳を疑った鴬は、一瞬身を仰け反り、隣で鴬をガッチリと抱いたままの仁作の腕から離れようとした。だが、それも叶わない。どうやら嫌われてはいないようだ。

 学校の試験以上に頭をフル回転させて、円環的に思考を巡らせる。どこまでが彼を怒らせる要件でなくて、どこからが彼の沸点を下げてしまったのか。ともかく、原因が自身にあることくらいは容易だった。

 ドライバーもぐっと冷え込んだ空気に、ハンドルを握る手に力が入っている。彼には、臨戦体制前の緊張感にも似ているものを感じているかもしれない。
 荒い運転はもとよりやっていないが、さらに丁寧な初動と停止を繰り返す。存在も何故か雲散霧消に靄をかけていた。

(どうしよう——どうしようどうしようどうしよう。僕の何がいけなかった? いや、やりすぎることはいつもなんだし、あれくらいは仁作も範疇にあったはずなんだけど……——僕がエラーを起こしたことは僕自身、無意識的な部分もあったし、もしかしたら、こっちの不利になるようなことを口走ったかもしれない)
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