35 / 39
「和睦」——常盤鴬——
しおりを挟む
「相変わらず小さいし、軽いな」軽々と抱っこしてくれた仁作が、車に戻る道中に呟いた。
ホステスは研ぎ澄まされたカンと気遣いによって、いつも気付かないフリをしていてくれたらしい。「良かったね」という言葉があちらこちらで聞こえる。
鴬はそれに嬉々として、仁作の首に巻きついて擦り寄る。「いいでしょー! でも、無自覚で浮気行為する仁作の監視は、みんなにもお願いするね?」とホステス達を味方につける形で仁作とともに天音への対抗、牽制を作り上げた。
仁作と人前で甘えるシーンが一度もなかったためか、鴬にも多少の執着心に見舞われる。頬が赤面しているのだろうか、それとも赤面どころか、茹で蛸状態になっているのだろうか、どちらにせよ、顔が熱い。
「それじゃ、みんなお仕事頑張ってね!」と無言で鴬を抱き抱えたまま連れ去っていく仁作に違和感を感じながら、野次馬になってしまったホステスたちを縫うように抜けていく仁作の腕の中から猫を被って去った。
落ち着いた通りまで出てくると、鴬が降りたところとは反対の位置に車を寄せられている。
(この場合、仁作の方に乗るのが正解だろうけど、このドライバーさんがどこまで察してくれ照るのか、僕の中でも半信半疑なとことがあるし、下手に裏表を出すのは良くない気がしてきたなぁ)
勝手に進んでいく成り行きを仁作の腕の中で静観する。「鴬のとこのドライバーにコイツは俺が連れて帰るからって連絡しとけ」と仁作の素っ気ない声が上から降りてくる。
仲間至上主義の仁作にあるまじき態度だと思い、ふと見上げる。心なしか仏頂面に拍車がかかって、感情がうまく読み取れない。ただの脳筋ではなかったらしい。
車内に乗せられて、続いて仁作自身も隣に乗り込む。
「事務所まで」
「——はい」
鴬には話しかけもせず、頑としてこちらを見ない。張り詰めた空気に鴬も多少の緊張感を伴いながら、「ね、ねぇ」と声をかけてみる。
しかし、返事はない。窓の外に視線を移して頬杖から溜息までの一連の流れまで、鴬の存在を忘れているかのようだった。
「ねぇ……。さっきあてもなしに相手に煽ったの、やっぱり怒ってる?」
「……。鴬、ちょっと話しかけないでくれるか」
耳を疑った鴬は、一瞬身を仰け反り、隣で鴬をガッチリと抱いたままの仁作の腕から離れようとした。だが、それも叶わない。どうやら嫌われてはいないようだ。
学校の試験以上に頭をフル回転させて、円環的に思考を巡らせる。どこまでが彼を怒らせる要件でなくて、どこからが彼の沸点を下げてしまったのか。ともかく、原因が自身にあることくらいは容易だった。
ドライバーもぐっと冷え込んだ空気に、ハンドルを握る手に力が入っている。彼には、臨戦体制前の緊張感にも似ているものを感じているかもしれない。
荒い運転はもとよりやっていないが、さらに丁寧な初動と停止を繰り返す。存在も何故か雲散霧消に靄をかけていた。
(どうしよう——どうしようどうしようどうしよう。僕の何がいけなかった? いや、やりすぎることはいつもなんだし、あれくらいは仁作も範疇にあったはずなんだけど……——僕がエラーを起こしたことは僕自身、無意識的な部分もあったし、もしかしたら、こっちの不利になるようなことを口走ったかもしれない)
ホステスは研ぎ澄まされたカンと気遣いによって、いつも気付かないフリをしていてくれたらしい。「良かったね」という言葉があちらこちらで聞こえる。
鴬はそれに嬉々として、仁作の首に巻きついて擦り寄る。「いいでしょー! でも、無自覚で浮気行為する仁作の監視は、みんなにもお願いするね?」とホステス達を味方につける形で仁作とともに天音への対抗、牽制を作り上げた。
仁作と人前で甘えるシーンが一度もなかったためか、鴬にも多少の執着心に見舞われる。頬が赤面しているのだろうか、それとも赤面どころか、茹で蛸状態になっているのだろうか、どちらにせよ、顔が熱い。
「それじゃ、みんなお仕事頑張ってね!」と無言で鴬を抱き抱えたまま連れ去っていく仁作に違和感を感じながら、野次馬になってしまったホステスたちを縫うように抜けていく仁作の腕の中から猫を被って去った。
落ち着いた通りまで出てくると、鴬が降りたところとは反対の位置に車を寄せられている。
(この場合、仁作の方に乗るのが正解だろうけど、このドライバーさんがどこまで察してくれ照るのか、僕の中でも半信半疑なとことがあるし、下手に裏表を出すのは良くない気がしてきたなぁ)
勝手に進んでいく成り行きを仁作の腕の中で静観する。「鴬のとこのドライバーにコイツは俺が連れて帰るからって連絡しとけ」と仁作の素っ気ない声が上から降りてくる。
仲間至上主義の仁作にあるまじき態度だと思い、ふと見上げる。心なしか仏頂面に拍車がかかって、感情がうまく読み取れない。ただの脳筋ではなかったらしい。
車内に乗せられて、続いて仁作自身も隣に乗り込む。
「事務所まで」
「——はい」
鴬には話しかけもせず、頑としてこちらを見ない。張り詰めた空気に鴬も多少の緊張感を伴いながら、「ね、ねぇ」と声をかけてみる。
しかし、返事はない。窓の外に視線を移して頬杖から溜息までの一連の流れまで、鴬の存在を忘れているかのようだった。
「ねぇ……。さっきあてもなしに相手に煽ったの、やっぱり怒ってる?」
「……。鴬、ちょっと話しかけないでくれるか」
耳を疑った鴬は、一瞬身を仰け反り、隣で鴬をガッチリと抱いたままの仁作の腕から離れようとした。だが、それも叶わない。どうやら嫌われてはいないようだ。
学校の試験以上に頭をフル回転させて、円環的に思考を巡らせる。どこまでが彼を怒らせる要件でなくて、どこからが彼の沸点を下げてしまったのか。ともかく、原因が自身にあることくらいは容易だった。
ドライバーもぐっと冷え込んだ空気に、ハンドルを握る手に力が入っている。彼には、臨戦体制前の緊張感にも似ているものを感じているかもしれない。
荒い運転はもとよりやっていないが、さらに丁寧な初動と停止を繰り返す。存在も何故か雲散霧消に靄をかけていた。
(どうしよう——どうしようどうしようどうしよう。僕の何がいけなかった? いや、やりすぎることはいつもなんだし、あれくらいは仁作も範疇にあったはずなんだけど……——僕がエラーを起こしたことは僕自身、無意識的な部分もあったし、もしかしたら、こっちの不利になるようなことを口走ったかもしれない)
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる