アヤ取り

ゴンザレス

文字の大きさ
上 下
20 / 39

3

しおりを挟む
帰宅してきた仁作の元へ、駆け出して迎えた。待ち遠しい彼の帰還だ。

 「おかえり!!」と愛嬌たっぷりに抱きついて見せた。その隙に仁作の胸にぴっとりと顔を寄せて、スーツに染み付いた外の匂いを嗅ぐ。彼へのマーキングは一切行なっていないだけに、どこの馬の骨か分からない臭いには敏感にチェックする。

 散々甘えるフリをして、ようやく精査にクリアした時には「どうした? 可愛いからいいんだけど」と鴬を見下ろす仁作がとても優しい顔をしていた。

 この表情を占有している実感が湧いてくる。少しだけ、充足感に満たされて気を良くした鴬は、早々に仁作に祝い言を口にした。

「おー、俺、また一つ年食っちまったんだなぁ」
「そんなにあっけらかんとされても……もっとこう、あるでしょ?」
「20越したらそんなもんどうでも良くなるもんだ」
「ちぇ、つまんないの」

 「でも、ありがとうな」いつものように仁作から頭を撫でられる。それは気持ちが伝わる前と同じ、子供扱いをしているような撫で方だ。
 大きく鴬の髪を撫で回すので、「また、子供扱い」とつい、口を尖らせてしまった。

「未成年は子供だろうが。そんな子供より、俺の方が能はないし、ただの図体がでかいだけの野郎ってのがまた、情けねぇ話なんだけどな」

 それから仁作はゆっくりと鴬を抱き寄せて、さらに密着度を高めた。嫌な臭いの片鱗もない。

「……なんで、俺が若頭に……——悪い、お前にする話じゃなかった」
「そんなことない。ちょっと待ってて」

 鴬だけリビングに戻り、小袋を持って仁作の前に差し出した。「はい、誕生日プレゼント」。

「今、開けてもいいか?」

 細めがちの目が今日はぱっちり気味だ。

「おおー、ブレスレットか……ん? これ、裏にダイなんちゃらって……お前、これは堂々と暗殺予告か?」

 「die kette」の文字を仁作は顔をしかめながら、苦しそうに解読した。

「違う違う!! 堂々と暗殺予告って矛盾しすぎ。じゃなくて、若頭としてというより、仲間としてその身ひとつで奔走する仁作には、必要かなって思ったの。命がいくつあっても足りないからさ。だから、仲間を信用した上で、仲間に任せるやり方もあっていいんじゃないかな。」

 鴬は決して的外れなことを言ってるわけではないのだが、仁作には会話が繋がっていないようで疑問符が頭上をふよふよとしているらしい。目線が合わない。

「仁作は何にも替えがたい宝物だよ」

 いつぞやの爺さんの台詞をそのまま発してしまった。ほとんど無意識であったために、仁作が目頭を熱くさせているのを見ても、嫉妬心が顔を出して邪魔をする。
 狭量にも程があるが、鴬はこの欠片しかない良心の呵責もどきをコントロールする術を知っている。

 早速受け取ったブレスレットを身につけた仁作が「……俺の誕生日か……。なぁ、ワガママをひとつ、聞いてくれるか?」と熱視線を送られる。

「なぁに?」
「話は鴬の部屋で」

 軽々と鴬を姫抱きにして、リビング前にある扉を開けベッドに下ろした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...