アヤ取り

3

　そんな対極した2つの組には、常盤組の会長である桔平と、獅子王組の会長である龍司が、今でも会食をする程の親交がある同級生ということ、若頭の仁作と剛も同級生ということもあり、2つの組は干渉することなくやってきているのだ。

　鴬が剛を毛嫌いしても抗争問題に発展しないのは、会長同士の親交に因るところ大きい。

　剛は鴬を一瞥して、「仁作、俺はお前がトップに上がってくることは何となく予想してた」と悉くスルーする。

「……っ」

　鴬は眉間に皺を寄せて、苛立ちを耐える。自分のシマで事を荒立てることは避けなければならない。その上、相手は獅子王組とあれば、此処が殺戮の戦場と化すことが目に見えている。相手が野蛮人なだけに、こちらは慎重にならざるを得ない。

「あ。俺ちょっとトイレ」
「おい、俺の褒め言葉をスルーしたな？！」
　仁作はタイミングが悪いところでトイレに立ち上がった。
「——……鴬。テメェ、ちょっと見ねぇうちに、また生意気になりやがったな」
「何のこと？　僕、これでも本部長になったんで、生意気どころか偉くなったんですよ」
「……ほぉー。偉くなっても器の小ささは小さい頃のままやなぁ」
「……っ」

　座るキャバ嬢を跨いで、鴬の真隣に陣取って耳打ちをする。仄暗く沈むような声が直接耳に届く。

「知ってるおぞぉ。見てたぞぉ。さっき仁作に群がる女共から横入りしてたのー」

　ニタニタとした笑い方が気味が悪いと思いつつ、昔から苦手意識を持っているのは、結局剛が鴬を見透かしているからに他ならない。

「お前、まだまだ小童だな。仁作に早く追いつこうとして、生き急いでやがる」
「……7年の差はどう足掻いても追いつけないんだから、急いで当然でしょ」
「ったく。それだけとは思えんが」
「だって、僕が若頭になるとばっかり思ってたのでー」

　鴬はキャバ嬢の相手をしてるかのように猫を被って、上目遣いを発揮させる。「剛さんのように、楽して？　なれると思ってたんですけど……ウチもこういう時は実力主義をかざしてるんですよねー。もう、困っちゃう！」とぱちん、片目を瞑る。

「へぇー！　お前、跡継ぎたかったんかいな。驚きや！　噂じゃ勉強に没頭してるから、もしかしてカタギになりたいんちゃうかって言われとったぞ。——大学は進学するんだろ？」

　見上げる鴬を見下ろす剛の目は、いつだって冷ややかだ。

「大学に行ってる暇なんてないですよー。若に追いつかなきゃだし」
「ほーん。勉強しているっていうのは否定してないところを見る限り、勉強に精を出しているのは本当らしいな。でも、大学に行かないなんて、そんな矛盾のようなことするなんて……おかしくねぇ？」
「知識が欲しくて勉強してるだけですよ。学問を極めたいわけじゃない。だから、家でも勉強はできるってことです」