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1章
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既に立野以外の役員は集まって作業をしていた。一条会長も仕事をしていたことに罪悪感を煽られる。
足早に持ち場の席に着いて、書類の山に手を付ける。各委員会の報告書は役員が目を通す。だが、提案や申立ては会長が目を通し、それが通過したものは職員室に通達される。そうして会議にかけられ施行される流れになっている。
つまり、生徒会長の権限はかなり大きい。ゆえに、会長にしか閲覧できない書類もある。それが何かすら、歴代の生徒会長しか知らない。
立野が目を通していた中で、申立ての書類が何通か寄せられている。会長のところへ持っていかなければと席を立つ。一条会長は、会長しか閲覧できない書類すら無警戒に生徒会室でそのファイルを開く。「見ないで、と言えばここの人たちは見ないと思ってさ」にへらと笑うのだ。
しかし、責任はちゃんと持ち合わせている人で、他人が目に触れるのは気にしている。自分の方へ足音が近づけば、息をするのと同様にファイルを閉じている。
今日の一条会長は、立野の接近に気付かず、「会長、目を通して欲しい書類をお持ちしました」と声をかけるまで、書類の一点を見つめていた。そして、その書類こそ「ファイル」であることを一条会長は忘れていたらしく、立野を前にしてようやくファイルを閉じて隠す仕草をしてみせる。
「――ああ、ありがとう。今すぐに確認するから、職員室に持っていけそうな案件がある委員会については、立野君からそのように報告してくれる?」
「了解しました!」
(会長は委員会の声の多くを聞き入れる。それに、優先的に仕事をするするから施行までが早い。信頼が厚くなるのは当然だけど、それは生徒の自由を確保するために、会長がどれだけ教師たちに掛け合っているか分かっているのか・・・・・・)
生徒側は自由である権利を主張する替わりに生徒として、学生として義務を果たす、という関係性を会長である一条が一人、理解して大人相手に遜色なく交渉しているのだ。彼の去年の手腕ぶりは、落ち着いた今でも健在のようで、立野から見ればそれは十分伝わってくる。
だが、恐らくさっき声をかけた時は、上の空だった。
全校生徒定期考査平均統計――。
立野は不可抗力で目に入ってしまった単語を反芻する。一条にはその細い声も耳に届かなかった。
「んー、この3つの案件は職員室に掛け合えそうだけど、残り2つは僕だけが交渉しても勝てそうにないな。立野君この5つの委員会にそのように報告してくれる? だた、残り2つは僕も策を考えるから保留という方向で頼むよ」
「はい・・・・・・」
「どうしたの? 立野君」
覗き込まれて、ドギマギとするが覗き込んで心配をしたいのは立野の方であった。
「会長、これらは期日まで時間があるんです、少しくらいゆっくりしてもいいですよ」
「――ありがとう。でもね、こういうのは早いに越したことはないんだよ。生徒の声を委員会が吸い上げ、それを僕らが生徒の意見として教師たちに提示しなきゃならない。これだけでも時間がかかることなんだから、僕のところで堰き止めているわけにはいかないんだ。とくに、生徒代表が時間をかけているとなると、委員会側に不信感を与えることなるし、引いては一般生徒の不信を買うことにもなりかねない」
「・・・・・・確かにそうですけど。それじゃあ、会長の負担が」
「そうだね、心配されてるうちは僕も、生徒会を捨てたもんじゃないなって思うよ。僕の立ち位置って中間管理職みたいじゃない? だから、上からも下からも疎まれる存在なわけだけど、今、ここにいる立野君を含めた生徒会役員は心配してくれる。こんなに励まされてやる気の出ない会長は素質も責任感もないよ。だから、僕はみんなとあるべき学校の姿であるよう維持することに尽力したい」
大倉も「一条会長は一級品の中間管理職だろ?」太鼓判を押す。
「・・・・・・一条会長が一級品の中間管理職では不釣り合いだ・・・・・・絶対王政において、トップに君臨していただく方が――」
誰にも届くことはなかった思いが、声となり悲痛に訴えかける。しかし、大倉の冗談にしては立野を刺激した小ボケが役員たちにささやかな談笑ムードに誘った。
足早に持ち場の席に着いて、書類の山に手を付ける。各委員会の報告書は役員が目を通す。だが、提案や申立ては会長が目を通し、それが通過したものは職員室に通達される。そうして会議にかけられ施行される流れになっている。
つまり、生徒会長の権限はかなり大きい。ゆえに、会長にしか閲覧できない書類もある。それが何かすら、歴代の生徒会長しか知らない。
立野が目を通していた中で、申立ての書類が何通か寄せられている。会長のところへ持っていかなければと席を立つ。一条会長は、会長しか閲覧できない書類すら無警戒に生徒会室でそのファイルを開く。「見ないで、と言えばここの人たちは見ないと思ってさ」にへらと笑うのだ。
しかし、責任はちゃんと持ち合わせている人で、他人が目に触れるのは気にしている。自分の方へ足音が近づけば、息をするのと同様にファイルを閉じている。
今日の一条会長は、立野の接近に気付かず、「会長、目を通して欲しい書類をお持ちしました」と声をかけるまで、書類の一点を見つめていた。そして、その書類こそ「ファイル」であることを一条会長は忘れていたらしく、立野を前にしてようやくファイルを閉じて隠す仕草をしてみせる。
「――ああ、ありがとう。今すぐに確認するから、職員室に持っていけそうな案件がある委員会については、立野君からそのように報告してくれる?」
「了解しました!」
(会長は委員会の声の多くを聞き入れる。それに、優先的に仕事をするするから施行までが早い。信頼が厚くなるのは当然だけど、それは生徒の自由を確保するために、会長がどれだけ教師たちに掛け合っているか分かっているのか・・・・・・)
生徒側は自由である権利を主張する替わりに生徒として、学生として義務を果たす、という関係性を会長である一条が一人、理解して大人相手に遜色なく交渉しているのだ。彼の去年の手腕ぶりは、落ち着いた今でも健在のようで、立野から見ればそれは十分伝わってくる。
だが、恐らくさっき声をかけた時は、上の空だった。
全校生徒定期考査平均統計――。
立野は不可抗力で目に入ってしまった単語を反芻する。一条にはその細い声も耳に届かなかった。
「んー、この3つの案件は職員室に掛け合えそうだけど、残り2つは僕だけが交渉しても勝てそうにないな。立野君この5つの委員会にそのように報告してくれる? だた、残り2つは僕も策を考えるから保留という方向で頼むよ」
「はい・・・・・・」
「どうしたの? 立野君」
覗き込まれて、ドギマギとするが覗き込んで心配をしたいのは立野の方であった。
「会長、これらは期日まで時間があるんです、少しくらいゆっくりしてもいいですよ」
「――ありがとう。でもね、こういうのは早いに越したことはないんだよ。生徒の声を委員会が吸い上げ、それを僕らが生徒の意見として教師たちに提示しなきゃならない。これだけでも時間がかかることなんだから、僕のところで堰き止めているわけにはいかないんだ。とくに、生徒代表が時間をかけているとなると、委員会側に不信感を与えることなるし、引いては一般生徒の不信を買うことにもなりかねない」
「・・・・・・確かにそうですけど。それじゃあ、会長の負担が」
「そうだね、心配されてるうちは僕も、生徒会を捨てたもんじゃないなって思うよ。僕の立ち位置って中間管理職みたいじゃない? だから、上からも下からも疎まれる存在なわけだけど、今、ここにいる立野君を含めた生徒会役員は心配してくれる。こんなに励まされてやる気の出ない会長は素質も責任感もないよ。だから、僕はみんなとあるべき学校の姿であるよう維持することに尽力したい」
大倉も「一条会長は一級品の中間管理職だろ?」太鼓判を押す。
「・・・・・・一条会長が一級品の中間管理職では不釣り合いだ・・・・・・絶対王政において、トップに君臨していただく方が――」
誰にも届くことはなかった思いが、声となり悲痛に訴えかける。しかし、大倉の冗談にしては立野を刺激した小ボケが役員たちにささやかな談笑ムードに誘った。
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