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最終話:これからの事。
01これからの事。
しおりを挟む目が覚めると、そこは見知った部屋だった。
身体が重だるくて思うように動かない。
思考もどこかぼんやりとしていて、ふわふわと浮ついているように思う。
「変だなぁ。戦っていたはずなんだけど……まさか夢オチ、とか?」
「それはそれで困るよ」
不意に聞き覚えのある声が耳に届いた。
左側を見れば胡座をかいてこちらを困り顔で見つめる真っ白い青年がいた。
彼の頭には狐のような耳が生えており、尻尾も狐のそれだ。
そして陶器のようになめらかな素肌に、瞳は黄金色をしている。
その顔、目元付近はまるで陶器がひび割れたように傷ができていた。
「……サグジさん!」
泣きそうになりながら彼の名を呼び、手を差し出せば、彼はその手にすり寄った。
「目覚めて良かったよ。随分長く眠っていたからね。心配だったんだ。どこか痛む所は無いかい?」
「怪我をしてるのはサグジさんです」
自分の事をほったらかしにして心配してくる彼に、紗紀は唇と尖らせた。
「俺のは怪我の内に入らないよ。痛くも無いし。でも、紗紀が見ているのが辛いって言うなら……ウカノミタマ様に直してもらって来ようかな」
「……治るんですか」
「直してほしいなら」
静かにミタマの傷口に触れてみる。
まるでひび割れた陶器に触れているみたいだ。
一度まつげを伏せたミタマは、ゆっくりと瞳を開いて紗紀の表情を伺い見た。
「決めた。直してもらって来る。だから君も正直に答えて。痛む所は無い?」
「……身体が、重い、です」
素直に答えれば、彼はどこか悲しげに眉根を寄せる。
「そう、だろうね。紗紀の中にある力を使い切ったんだ」
その答えの意味はいまいち理解出来ないのに、ドクリと妙な胸騒ぎがした。
「それは、どういう……」
「妖力はね、定着しても、一気に力を放出すると消えてしまう。微量でも体内に残っていればまた容量いっぱいまで回復できるんだけど……」
紗紀はなんとなくその先の言葉を理解してしまった。
「……じゃあ、もう、私の中の妖力は一切残っていないんですね」
「……うん」
少し悩みつつも、ミタマは静かに頷いた。
それは、どことなく物悲しい。
けれど、失ったからといってこの先また戦いがあるとは思わない。
「そんな顔、しないでください。妖力が無くなっても、サグジさんとは一緒にいられるんですよね?」
「それは、もちろんだよ。……ただ、あんなにも無理をさせて定着させたのに、なんだか申し訳なくなってしまって……。妖力が無い以上、使役した妖は使役下から外れる事になるし……」
「そう、なんですね」
もう、みんなの姿を借りる事も、みんなの力を借りる事も出来ない。
この先何かあったとしても、呼び出す事も不可能になってしまう。
「でも、それでも……縁が切れるわけじゃないですよね?」
「うん。お互いが切らない限り、その縁は永遠だよ」
その回答に、紗紀は心底安堵した。
ミタマが労るように紗紀の手を掬いあげる。
「これから少しずつ、筋力を取り戻して、元の生活に戻ろう。みんなキミを待っているよ」
ガラッと勢いよく障子戸が開かれた。
「そうだぜ!むしろ待ちくたびれたってーの!」
そこには白狼が居て、後ろにはみんなの姿もあった。
「白狼!無事だったんだね?」
「無事も何も、たかがニンゲンに負けるわけねェーだろ?」
木葉天狗の白狼と鴉天狗の鞍馬は、春秋の空間転移で政府側の様子を見に行っていた。
「向こうはどうだったの?」
「それが聞いてよぉ!紗紀ちゃん!現し世にはこんな姿でウロウロする子が珍しかったみたいですっごく声をかけられたわ!」
「職質な」
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