上 下
349 / 368
第二十話:最終決戦。

35最終決戦。

しおりを挟む


「まぁ、こうも濡れては火も出せまい?それに、ずぶ濡れじゃあ動きも鈍るだろうなぁ……。それで、まだ戦う気かね?」


章は嘲笑あざわらった。


「キミは、そんなにこの舟が大事なんだね」


ミタマはしゃがむと湿気を含んだその木に触れた。


「キミも知ってるはずだ。俺は妖でもあるけれど、神の使いでもある事を」

「まさか……!」

「火神よ、我が意志に力を。急々如律令!」


濡れている木が轟々と燃える。


「貴様……!!」

「紗紀から賜った力が俺にもある。この舟が燃えれば、終わりだよ」


神の意志の宿る炎は、妖怪のそれとは違うのか、濡れた木すらも力強く燃やした。


「ミタマさん!中にはまだ……!」


慌てる紗紀を抱き寄せて耳元で囁く。


「大切な舟を彼がこのまま燃やされたままにするはずが無いよ。それに、いざとなったら紗紀、キミの持っている水の御札を使って」

「……分かりました」


紗紀は強く頷いて、懐にしまってある御札を確認した。

水と、木と、土が残っている。


「我が意志に応えよ、青龍」


彼は慌てた手付きで形代を手にし、息を吹きかけた。

しかし、待てど暮せど青龍がその場に現れる事は無かった。


「何!?青龍!なぜ来ない!?」


動揺を露わにする章。


「……先程みたいに水神の力を借りたらどうなんだい?」


ミタマが不思議そうに首を捻る。

章はわなわなとその分厚い手を震わせた。

そこで一つ確信を得る。

恐らく一度使った神の力は借りられないのだろうと。


「どうするんだい?急がないと、キミの大切な舟が燃えてしまうよ。青龍も来ないようだけど、これでは大洪水も起こせないよね?」


青龍が姿を現さなかったのはミタマかたすれば嬉しい誤算だった。

一つ、一つ、積み上げて来た物が、手の平からこぼれ落ちていくのを章は感じた。

無理やりつなぎ合わせたそれは、いくつも歪んでいて、そこからどんどん綻んでいく。

自分の計画の甘さと、仲間すら上手くまとめきれない力の無さに苛立ちを感じる。


「ミタマさん、もう火を……」

「その必要はありませんよ」


扉の先、章の後ろからそう言葉を放ったのは春秋だった。

その後ろにはユウリと優一の姿もある。


「今鏡、お疲れ様。もうひと仕事お願いするよ。鴉天狗を指揮して舟の中の人々を安全な場所へ移して欲しい。後、地下にいる動物たちの解放を」

「御意」


いつの間に空からやって来たのだろう。

大天狗である彼は、春秋の指示に従い、鴉天狗達へと視線を向ける。

紗紀達がほっとしたのもつかの間だった。


「春秋!鴉天狗達が……!」


まさかの今鏡の言葉に、春秋達が舟の端から身を乗り出す。

そこには地面に倒れ伏している鴉天狗達がいた。

ビクビクと痙攣けいれんを起こしている者もいる。

彼らはみな全身ずぶ濡れだ。

幸い怪物は殲滅せんめつし終えているようだった。


「何があったんだ!?」


困惑する春秋に、章は声を震わせて笑い声をあげた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

くろぼし少年スポーツ団

紅葉
ライト文芸
甲子園で選抜高校野球を観戦した幸太は、自分も野球を始めることを決意する。勉強もスポーツも平凡な幸太は、甲子園を夢に見、かつて全国制覇を成したことで有名な地域の少年野球クラブに入る、幸太のチームメイトは親も子も個性的で……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】悪兎うさび君!

カントリー
ライト文芸
……ある日、メチル森には… 一匹のうさぎがいました。 そのうさぎは運動も勉強も出来て 皆から愛されていました。 が…当然それを見て憎んでいる 人もいました。狐です。 いつもみんなに愛される うさぎを見て狐は苛立ちを覚えていました。 そして、ついに狐はうさぎに呪いを、 かけてしまいました。 狐にかけられた呪いは… 自分の性格と姿を逆転する 呪い… 運のいい事。 新月と三日月と満月の日に元の姿に戻れる けれど…その日以外は醜い姿のまま 呪いを解く方法も 醜い姿を好きになってくれる 異性が現れない限り… 一生呪いを解くことはできない。 そんなうさぎと… 私が出会うなんて 思いもしなかった。 あなたと出会ったおかげで つまらなかった毎日を 楽しい毎日に変えてくれたんだ。 これは、ふざけた兎と毎回ふざけた兎によって巻き込まれる主人公M iと森の動物たちのお話。 呪われた兎は果たして、呪いを解く事はできるのか? 2023年2月6日に『完結』しました。 ありがとうございます!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...