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第二十話:最終決戦。

24最終決戦。

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だからこそ、ここで終わらせるわけにはいかない。

立ち止まるわけにはいかない。

幸生は、今一度痛む身体で暴れ始める。


「このままじゃ終われない!!最初から始めるんだ!!この世界は、根本から腐ってる!!人類なんて生まれて来てはいけなかったんだ!!」


唯一、章と幸生の意見が割れた。

それは人類を一度抹消まっしょうして、一から繁栄をさせたい章と、人類を滅亡させて、動物達を地上に返したら、章と二人で最後の人類として死にたい幸生。

未だに最後の部分が二人の中で決着が付いてはいなかった。

春秋は幸生の頭を撫でた。


「ありがとう。こんなにも章の事を想ってくれて。君が兄さんの友達で居てくれて良かった」


予想外な春秋の言葉に、幸生は彼をあおぎ見る。

兄弟だと言われてもピンと来ない。

何度も春秋の言葉を口の中で反芻はんすうした。


「……兄弟?」

「ええ。章は僕の兄で、僕らは二卵性双生児の双子なんです。君とは同級生なんですね。君も、とても辛い思いをしたんですね……」


何も口にしていないのに、どうして分かるのだろう。

なぜ、章と友人だと?

同級生だと分かった?

それはどこか不気味で、身体が硬直する。


「そんな化け物を見たような顔をしないでください。僕は、君の心も読めるし、なんなら過去だって見えるんですよ?」


ニヒルな笑み、それはあの日の章と重なって見えた。

章の持つ不思議な力。

目の前の男も不思議な力を持っているのはひと目で分かる。


「お前は、化け物なのか?章は、人では、無いのか?」

「え!ヤですね。人間ですよ。確かにこんな翼生やしてこんな爪ありますけど!これは妖から力を借りてるだけで、れっきとした人間です!」


さっきまでの不気味さはどこへやら、慌てた様子で弁解する春秋はどこかとっつきやすいようにも思う。


(なんなんだ、この男は……)


幸生は尚更春秋の事が分からなくなった。


「ボクは章の家にも行った事がある。けれど一度もお前と会ってない」

「ああ。それは僕らの両親が離婚して、母が僕を、父が兄を引き取ったからですよ。母親にも会ってないでしょう?」


そう言われればそうだ、と幸生は妙に納得する。


「兄さんは本当に凄いね。こんな大掛かりな事をやってのけようとするんですから」


章は自分に対して劣等感を抱いていたが、春秋は章の自分には無い実行力に心底憧れていた。

兄のようになりたいと。


「それなのにお前は、兄の邪魔をするのか!?」

「うん。僕には僕のやりたい理想プランがあるからね」


にっこりと春秋は笑って見せる。


「理想プラン?」

「僕は兄さんみたいに一からじゃなく、今の世界の蔓延ってる悪をひとつずつ潰していきたいんだ。この世界には心から優しい人もたくさん居る。そんな人を見殺しになんて僕は出来ない」

「ハッ!とんだ甘ちゃんだ。そんな夢物語、時間の無駄だ!!」


章のプランの方が手っ取り早いのは確かだろう。

けれど、春秋は例え遠回りでも、今この世界に居る優しい人達が笑って過ごせる世界を創りたかった。


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