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第二十話:最終決戦。

22最終決戦。

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「っと、到着です。ミタマさん、向こう側、鴉天狗たちが居ますね」

「变化。……戦闘中のようだ」


方舟はこぶねに着くと、紗紀の腕からぴょんと降りたミタマが元の姿へと戻った。

紗紀の視線の先へと目を向ければ、戦闘中の鴉天狗達が目に映る。

舟の端まで向かい下を見れば、以前章と共に現れたあの黒い怪物達と鴉天狗達が方舟の下の高台で戦っていた。

鴉天狗の数が多い事もあってもうすぐ片が付きそうだ。


「あき……政府の男は今日明日にでもこの地球に洪水を起こすつもりです。方舟さえ壊してしまえば、とりあえず洪水はまたしばらく延期に持ち込めます」


「館よりも方舟が大事だろうから、政府の男もこちら側に居るか、来るかするだろうね」


ミタマの推測に紗紀も頷く。


「方舟の中を一通り見て回ろう。誰も居ないかの確認をしたら放火するよ」

「はい。舟を壊しましょう!」


舟の先端から中へと、二人は速やかに潜入した。


 ◇◆◇


ガシャンッと激しく硝子の割れる音で幸生は目を覚ました。

身体があちこち尋常じゃないくらいに痛い。

そして、ふと気付く、まるで金縛りにでもあっているかのように身動きが出来ない事に。

視線を下に向ければ、縄で縛られている。

立っていられる事から柱にくくり付けられているのだろうと予想が出来た。

部屋をきょろりと見渡せば、薄暗い中に、実験用のカプセルがいくつも並んでいる。

緑色に発光した水が、唯一部屋を照らしていた。


「ここは……方舟の中か?」


よくよく見れば、いくつもカプセルが壊されて、既に足元が水浸しだ。


「やぁ。お目覚めかな?」


不意に見知らぬ男の声が聞こえた。

ビクリと身体をこわばらせつつ、声の方へと視線を向ければ、黒縁のメガネをかけた男が優しい笑みを携えていた。

この現代に似つかわしくない、まるで大正時代のような格好をしている。

そしてその背には外側は黒いのに、中側が黄色い不思議な翼を生やしていた。

不覚にもその顔立ちが好みでついつい見入ってしまう。


「誰だ……?」


やっと絞り出した声は、まるで蚊が鳴くように細い。


「ああ、これはこれは……自己紹介がまだでしたね。僕は、萩原春秋。兄がお世話になったね」


春秋の“兄”という言葉に思い当たる節が無く、首をかしげる。

その間にも、ガッシャンガッシャンカプセルを割り続ける春秋に、やっと事態を把握した。


「な!何をしてるんだお前!!ここがどこだと思っているんだ!!」

「哀れな兄さんの“夢の方舟”でしょう?」


声を荒げて叫ぶ幸生に、春秋はどこか嘲笑的な笑みを浮かべる。

そして直ぐ様近くのカプセルを割った。

それは素手のように見えたけれど、よくよく見れば凶暴な爪が生えている。

あれで喉でも裂かれればひとたまりもないだろう。

幸生は少しばかり怯みつつも、章と自分の夢を護りたくて、尚も声を張り上げた。


「ふざけるな!やめろ!!……やめてくれ。お前のようなヤツに僕達の何が分かるって言うんだ!!お前みたいな、お綺麗な顔したヤツに!!僕らの生きてきた世界を何一つ足りとも理解なんか出来ない!!」


ギリギリと悔しみに歯を噛み締めて、幸生は叫び続ける。

けれど、春秋は手を止めない。

カプセルを割り、中に居る人を扉の近くまで移動させる。


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