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第二十話:最終決戦。

07最終決戦。

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紗紀に逃げるよう指示された優一は、薄暗い館内を歩き回っていた。

たどり着いた先は、紗紀を連れ込んだ研究室だった。

重い扉を開き、こっそりと中を覗き見る。

そこには章と紅葉の姿があった。

どうやら実験用カプセルの選別をしているようだ。

持ち運ぶ物を、転移装置を使って転移させている。

おそらくあの、方舟はこぶねの中へだろう。

紅葉は章の指示をあおぎ、カプセルの電源を落として歩いている。

こちらはこの世界に置いていくつもりなのだと予想が出来た。

なぜならばその姿は醜く、黒く染まっている。

ものによっては真っ黒な手足が生えていた。

ふ、と紅葉の赤い瞳が扉へと向けられた。

優一の肩がビクリと跳ねる。

目が合った紅葉も驚いたように瞳孔を開いたが、直ぐに目を細めて笑って見せた。


「あら?貴方はユウイチ様。このような場所に何用でしょうか?」


紅葉のわざとらしい声に、章も扉へと視線を向ける。

しかし、直ぐに興味を失ったようにカプセルへと視線を戻した。


「紅葉、時間が無い……」

「どうされましたの?お洋服がこんなになって……」

「紅葉」


章が低く紅葉の名を口にする。

少し苛立っているようだった。

けれども、紅葉は尚も優一をかまう。


「章様、大変ですわ。この男から紗紀様の香りがします」

「何?」


 “紗紀”の名が出て、初めて章は興味を示した。

紅葉はそれがあまりに面白くない。


「幸生は紗紀に謝罪をしたいと二人で会う話をしていたが、なぜ貴様が?幸生はどうした?」


優一は相変わらず読めない表情のまま黙り込んでいる。


「章様、彼は元々紗紀様を好いてらっしゃたのはご存知でしたか?」

「何?」


章の眉間に深くシワが刻まれた。

紅葉は溢れそうになる笑みを隠すように飲み込んだ。


「幸生様が章様の魂を入れ込む際に彼の体に残っていた記憶を少しだけ垣間見たそうです。彼の記憶は紗紀様への愛で溢れておりました。そして、彼は一度、紗紀様の逃亡を手伝っております」

「何だと?紗紀が、逃亡を?」

「はい。わたくしと幸生様で紗紀様を捉え、今はお部屋にて幸生様とお話をしているはず」


紅葉は紗紀が約束を破り逃げ出した事、紗紀と優一の関係が深い物かもしれない事をほのめかした。

コツコツと足音を立てて章は紅葉へ歩み寄ると、あろうことか紅葉の頬をその手で打った。

パシンと乾いた音が静かな室内に響き渡る。


「貴様、なぜ今まで黙っていた」

「……申し訳、ありません。章様のお仕事に支障をきたしたく無く……」

「なぜ、見張っていろと言いつけたにも関わらず、紗紀の脱走を許した!!」


紅葉は手の平をギュッと強く握った。

どうして?

なぜ?

章は自分ばかりを攻めるのだろう。

約束を破ったのは紗紀じゃないか。

逃げ出したら痛い思いを味わわせると言っていたではないか。

それなのに、どうして罰を受けているのが自分なのだろう。

納得がいかなかった。

叩かれた頬がジリジリと痛い。


「……言えなかったのです。この者が!ユウイチ様が!紗紀様の部屋に侵入して、逢瀬を楽しむどころか愛し合っていたのですから!!」


どうしても、紗紀を悪者にしたかった。

優一が言葉を口にしないのを良いことに、自分の口から息を吐くように虚言を発する。

嫌われて、切り捨てられてボロボロになってしまえばいい。

そう、紅葉の中でどす黒いモノが渦を巻いていた。



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