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第二十話:最終決戦。

02最終決戦。

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(この人は一体何を言ってるんだろう?)


上手く彼の言ってる言葉が飲み込めない。


「わッ!?」


掴まれた胸倉を持ち上げられて、紗紀はベッドへと投げ込まれた。


「まぁ、正直既に百を超える実験は他の人間でしてるんだけどね。お前もその一部として協力してよ。それにユウイチは初めて章の魂を入れ込んだ完全体に近い存在なんだ。名誉な事だろ?」


「ふ、ふざけないで……!」


恐怖で震える体を抱きしめて、必死に声を荒げる。

そんな紗紀に、幸生の怒りはさらに増した。


「ボクに口答えをするな!!ほら、ユウイチ、お前がずっと欲しがってた女だよ。この女が欲しかったんだろ?」


幸生は紗紀の前髪をわし掴みにして叫び散らすと、手を話して優一を振り返った。

優一のワイシャツに手をかけて、引きちぎる。

ボタンが弾け飛んで、紗紀の足元に転がった。


「章はともかく、この器のユウイチ自身、お前を求めているんだよ。分かってるだろ?」


紗紀の脳裏のうりに優一と過ごした日々が思い出された。

自然と涙が溢れる。


「ユウイチ、何をしているんだ!さっさとしろ!」


幸生は優一の背中を蹴った。

ベッドに倒れ込んだ彼は、体を起こすと表情の無いまま紗紀を見上げた。

目が合って、紗紀の肩がビクリと跳ねる。


「……大丈夫ですか?」


恐る恐る蹴られた事を心配すれば、優一はそっと指先で紗紀の涙をいた。

それはいつだって優しかった彼そのもののように感じた。

ようやく幸生の言っていた言葉の意味が理解出来た気がする。


(やっぱり、優一さんなんだ……)


魂は違えど、体は、心は優一の物。


「ユウイチ、何をしている!時間が無い!さっさとそいつを汚してしまえ!!」


幸生が怒りに任せてそう叫ぶ。

けれど、優一は紗紀にぴっとりとくっつくだけで、じっと幸生を見上げた。


「なんだその目は!!そんな目で、ボクを見るな!!」


まるで軽蔑の目で見られているような錯覚におちいって、幸生は優一へと手をあげた。

とっさに紗紀が優一をかばう。

パシンと乾いた音が室内に響いた。


「ふん!いい気味だ」


紗紀は顔をあげて幸生をにらみつけた。


「なんだよ、その目!!」


幸生がもう一度手を振り上げる。

優一はとっさに立ち上がると、幸生の手を掴んだ。


「な!?」


そして幸生をドンッと両手で突き飛ばす。

尻を打ち付けて、幸生は床に倒れ込んだ。

優一が心配そうに紗紀の顔をのぞき込む。

赤くなった紗紀の頬に唇を寄せた。


「ひえっ!?ゆ、ゆゆ、優一さん!?」


肩が跳ねて、心臓がバクバクと騒ぎ出す。

そんな紗紀を見て、優一は小首をかしげた。



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