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第十九話:話し合い。

23話し合い。

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「彼は、十二天将の青龍か……。分が悪いね」


ミタマの背筋を冷や汗が滑った。

けれど、紗紀が居る手前、負けるわけにはいかない。


「紗紀、俺がきをつく。吹雪で彼を固めてほしい」

「分かりました!変化!」


そう叫んで紗紀は雪女の姿を借りた。

紗紀の分身が解ける前に、紗紀の血を舐めた雪音は力も容姿も以前とは変わっていた。

それが紗紀の身にまとう衣装にも繁栄さているようだ。

ミタマが何か言いたげだが、それどころではない。

青龍の攻撃に、ミタマは手を掲げた。


「狐火!」


火力を最大にして狐火をぶつける。

水を蒸発させて相殺するのがやっとだ。


「凍てつけ、乱れ吹雪!」


紗紀は叫んで地面に触れる。

土に残る水分を使って、青龍を足元から凍らせた。


「やった!」

「良くやったね、紗紀。本当に強くなった」

「ミタマさん……、ミタマさん、ミタマさん!……ミタマさんが居たからですよ」


ミタマが居なければ、焦って恐怖で冷静な判断が出来なかっただろう。

紗紀は泣きそうになって、ミタマに抱きつく。

ミタマも紗紀を力いっぱい抱きしめた。

突然姿を消した紗紀に、ミタマはずっと不安でたまらなかった。

やっぱり分身した本体は章の方に居たのだと予測が出来たからだ。

そして、なかなか自分が呼び出されない事にも焦っていた。


「心配したよ。とても」

「すみません。お呼びするの遅くなってしまって……」


ゆっくりと離れて、お互いに顔を見合った。

ほっとしたように笑うミタマの頬に紗紀は左手を伸ばす。

そこで、不意にミタマが紗紀の手首を掴んだ。


「……これは?」


まじまじと薬指にはまっている指輪を見られて、紗紀は思い出したように硬直した。


(忘れてた……!!)

「紗紀、これは指輪だよね?」

「……」

「現代では確か、左手の薬指の指輪には婚約の意味があるって聞いた事が……」

「……」


紗紀はどう答えるのが正しいのか分からなかった。


「もしかして、祝言をあげ終えた、とは言わないよね。紗紀」

「そんな馬鹿な事、あってたまるか!」


そう答えたのは紗紀ではなかった。

凍らされた青龍の後ろ側から現れたのは、白衣を着た男だった。


「幸生、さん……!」

「面白くもない冗談を言わないでくれる?笑えないから。指輪を貰ったからって調子に乗んなよ!」


彼から向けられるのは常に敵意だった。


けれど、生身の人間だ。

変化をした今の紗紀にとって力の差は歴然だ。

それなのに、どうしてこうも身がすくみそうになるのだろう。

震える紗紀に気がついて、ミタマは抱き寄せた。


「キミの意見には賛成だよ。紗紀だって望んでいないからね」

「話が分かりそうなヤツで良かったよ。でも、まぁ、今更どうでもいいけど」


幸生が嘲笑的ちょうしょうてきな笑みを浮かべた。

グサリ、突然背後からミタマが刺された。


「ミタマさん!!」


倒れ込むミタマに、紗紀は声をあげてしゃがみ込む。


ミタマが押さえる腕には注射器が刺さっていた。

驚く間もなく、もう一本、目の前でミタマの背中に刺される。

顔を上げれば、そこには紅葉の姿があった。

顔に付けていた名前の書かれた紙は無く、代わりに真っ赤に輝く瞳とかち合う。


「なんて、事を……!」


紅葉に掴みかかれば、今度は幸生から手刀をくらい、紗紀は意識を手放した。


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