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第十九話:話し合い。

21話し合い。

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その頃紗紀は、優一の姿の男に連れられて、とある一室に連れ込まれていた。

カーテンが閉められていて薄暗い。

なんだか記憶にある嫌な異臭がする。


「あの……!……優一、さん?」


違うとは分かっていても、他に呼びようがないのだから仕方がない。

恐る恐る声をかければ、振り向いた彼はポケットから何かを取り出した。

ビクリと思わず肩が跳ねる。

手渡されたそれは、少しぐしゃぐしゃになっているけれど、御札だ。


「私の、御札……。ありがとうございます!」


両手でそれを受け取って、思いっきり頭を下げた。

まさか、こんな形で御札が戻って来るとは思わなかった。


「優一さん、なんですか?」


見ず知らずの他人がこんな事をしてくれるはずがない。

紗紀はそう思った。

否、思わざるを得なかった。

彼はいつだって紗紀のピンチに駆けつけてくれた。

今回だってそうだ。

入れられた魂の記憶を消されて、空っぽになったからだろうか。

その体に、心臓に刻まれた彼の今までが無意識に行動として現れているのかもしれない。

けれど、彼は何も答えずにゆっくりと窓へと指を差す。

窓側へと駆け寄り閉められたカーテンの隙間からのぞけば、目の前には庭が広がっていた。

ここはどうやら一階のようだ。


(もしかして、逃げろって言ってる?)


小さく頷く彼に、紗紀はお礼を口にした。

窓を開ければ、風が一気に入って来てカーテンが大きく揺れる。
 
光の差し込んだ部屋に、紗紀は目を見開いた。

そこには実験用の透明なカプセルがたくさん並んでいた。

水がいっぱい入ってる中、漂うように酸素マスクを付けられ静かに呼吸をしているのが分かる。


「……なに、ここ」


異質である事は確かだ。


(もしかして、幸生さんの研究室?)


紗紀は章から、幸生が人体実験に手を出している事を知らされていた。

きっとここで、目の前の優一も目を覚ましたに違いない。

そして、この後の彼らの運命も、想像がつく。

恐怖のあまり身震いをした。

すると、コツコツと足音が響くのが聞こえた。

誰かがこちらへと向かっているようだ。

硬直していて動けない紗紀に、優一の姿の彼は駆け寄ると、あろうことか持ち上げてぽいと窓から放り投げた。


(え)


驚いた時には地面に落っこちていて、痛がってる間にも閉められる窓。

カーテンまできっちりと閉められた。


(助けて、くれたの……?)


存外に雑な扱いだが、助かったのは事実だ。

何より、痛みのおかげで硬直していた体が動くようになった。


(ありがとう……)


紗紀は心の中でそうお礼を口にすると、足に付いたままの鎖を握って静かに駆け出した。

庭は思いの他広く、どこから出ていけばいいか分からなかった。


(ここまでくれば、大丈夫かな?)


紗紀は握りしめた御札を胸元に押し込むと、一枚だけその手に取る。

春秋と取り交わした手はずをここで進めようとした。

その時、ガサガサと草むらが揺れた。

反射的に後ろへと飛び退く。


「誰!?」

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