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第十九話:話し合い。
01話し合い。
しおりを挟む分身した紗紀は、春秋の兄という政府の男に連れられて見知らぬ館に居た。
広い庭付きで、春秋の居た和風の平屋とは違い、洋風だ。
「ここは……?」
「これから私と君の住む家だ。入るといい」
玄関を開けて入るように促される。
政府の男は悪臭を放つまっ黒い怪物と、人型になった青龍に庭での待機を言い渡した。
苦しげに浅い息を繰り返している青龍が紗紀は気がかりで仕方がない。
「大丈夫ですか?」
瞳の淀んだ彼は言葉を発しなかった。
否、言葉を口にする余裕が無いのだろう。
「放っておけ。こちらで対処する。早く入るんだ」
「……っ」
後ろ髪を引かれながらも、紗紀は指示に従うことしか出来ない。
政府の男と、紗紀は薄暗い廊下を歩く。
中は不思議と異臭はしなかった。
あまりに静かで、自分たちの歩く足音のみが響き渡る。
「まずは、風呂に入って来るといい。汚れているだろう?」
「え。あ、まぁ……汚れては、いますけど……」
人様の家に着いて早々お風呂だなんて、のうのうと入っていられるわけがない。
言葉を濁す紗紀を尻目に、政府の男は指を鳴らした。
「紅葉、彼女を風呂へ」
(もみじ……?)
コツコツと姿を現したのは“紅葉”と書かれた紙で顔を隠した、角の生えた少女だった。
(……鬼、かな?)
「畏まりました。こちらへどうぞ」
紅葉と呼ばれた少女が歩き出す。
ためらっていると、先に進んでいた彼女が戻って来て、紗紀の手を引いた。
「こちらですわ」
「……すみません」
渋々彼女に連れられて、お風呂場へと到着した。
「あ、あの……!自分で脱げます!」
なぜだか服を脱がしにかかる紅葉に、紗紀は慌てて声をあげる。
けれど、全く引く様子のない紅葉。
「いいえ。これはわたくしが章様より承ったお仕事です」
(あきら様……。それがあの男の名前?)
力では敵わず、結局服を剥ぎ取られてしまった。
テキパキとシワにならないように畳まれ、浴室へと促される紗紀。
「あの!お風呂くらいゆっくり入りたいのですが……!」
「お一人にはさせられません。お背中、お流しします」
逃げ出す可能性があるのだから無理もない。
けれども紗紀も引けない。
「嫌です!」
「駄目です」
言い合いをしても、またもや力技でねじ伏せられてしまった。
担いで浴槽まで運ばれる紗紀。
その力強さはその辺の少女の力じゃ無い。
(まさしく鬼……!)
◇◆◇
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