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第十八話:一難去ってまた一難。
19一難去ってまた一難。
しおりを挟む真っ暗な七曲の中で紗紀は声を上げた。
「出して!!七曲さん!!こんなのおかしい!!誰かが私の身代わりになるなんて変だよ!!」
けれどしんと静まりかえるだけで返事は無い。
紗紀は壁にぶつかるまで歩き続けた。
歩いても歩いてもどこにも辿り着けない。
ずっと真っ暗でどこが前で後ろなのか、感覚が麻痺していく。
ふと、声が落ちて来た。
『勝手な事をしてごめん。でも俺、紗紀姉ちゃんの役に一度でいいから立ってみたかったんだ』
どこか透明感のある少年の声。
「……ユウリ、くん?」
ユウリは元気で自分よりも強いであろうムジナ、テキパキ動くマミに、甘えん坊のカイリ達化け狸の長男だ。
そして自分の影の薄さも痛感していた。
だからだろうか。
兄だから、唯一得意の変化で力になりたかった。
『お願いだよ。紗紀姉ちゃん。俺にも紗紀姉ちゃんを守らせて。……もう、紗紀姉ちゃんが傷付く姿、見たくないな』
お腹に風穴まで開けて戦おうとする、自分よりも何倍も脆く、老いる早さだって違うそんな人間の女の子。
『守られてばかりじゃ、男が廃る』
「待って!」
『……またね』
遠ざかって行く気配を感じた。
「ユウリくん待って!!!嫌だ。やだよこんなの!!!私じゃないってバレたらどんな目に合うか!ねぇ、七曲さん止めて!!!」
『……ごめんね。あの子のあんな大人びた真剣な眼差し見たら……俺には止められない』
七曲は知っている。
守りたい者を守れない事の方が辛い事を。
「……ッ!!」
(そんな……)
あの男について行かないと断言してしまえば、戦いの火蓋が切って落とされてしまう。
疲弊し切ったこのメンバーであの男と怪物、そして十二天将を倒し切る事が出来るだろうか。
紗紀は思い悩む。
けれど……。
「七曲さん、命令です。ここから出して」
「えっ!ちょっ紗紀ちゃん!?」
たくさん悩んだ、考えた。
だけど、あの男に対して信頼なんて出来ない。
眩い光が差し込んだ、かと思えば、スッと視界が見慣れた景色へと戻された。
目の前に広がる情景は、あの恰幅の良い男と怪物達の群へ一歩一歩と歩み寄る紗紀に化けたユウリの姿だった。
「待ちなさい!!」
紗紀は声を張り上げて叫ぶ。
「……紗紀!!」
ミタマが紗紀の腕を掴んだ。
けれど紗紀はその手を振り払う。
「ユウリくんを差し出すなら本物の私が行きます」
「……それなら俺がキミに化けて行く」
「それなら俺だ。俺の方が上手く化けられる」
ミタマと紗紀が言い合う。
ならばと九重も口を挟んだ。
もはや何の主張大会なのか分からない。
そんな中驚いて足を止めたユウリをバサリと羽ばたいた白狼が掻っ攫った。
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