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第十八話:一難去ってまた一難。

16一難去ってまた一難。

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「大天狗の今鏡いまかがみ相手に、余裕なんて残してられないでしょう?」


薄く笑う春秋に、今鏡はきょを突かれたが当然とばかりにフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

彼なりに力を認められている事を嬉しく思っているのだろう。


「貴様!!」


今鏡の春秋に対するあからさまな態度に、朱雀すざくが怒気をはらんだ声音こわねを上げた時だった。

ゾワリと妙な寒気が彼らを襲った。

シャンと鈴の音が聞こえる。

春秋は困りきった表情をして地上を見おろした。


「……なんだァ?このイヤ~な感じ」


白狼が自分の体を両手で包みながら呟く。


「……ついにこの時が来たか……」

「春秋様?」


みんなの注目が一気に春秋へと向けられた。

春秋はギュッと手のひらに力を込める。


「地上へ向かおう。そして、君達の力を貸して欲しい」


どこか懇願にも似たその命令に、一抹いちまつの不安がよぎった。


◇◆◇


「ウカノ、キミはウカノミタマ様を連れて下がっていてくれ」

「分かりました。ウカノミタマ様は任せて。紗紀さん、兄様をよろしくお願いします」


ウカノは深々と頭を下げると、ウカノミタマ様を手の平に包んで去って行った。


「灯、お前も無茶しない方がいいんじゃねーの?」

「あたしは大丈夫よ!癒やしの御札で回復したし!一矢報いてやるんだから!」

「そう言えば一体何があったんですか?」


紗紀は思い出す、灯が怪物の姿になっていたあの時の情景を。


「……紗紀ちゃん達が救援に来てくれた後、あたしだけ元の世界に戻ったじゃない?あの政府の部屋に……」


話し出す灯の表情には陰りが差していた。


「そうしたら、あの、政府の男が……。あたしが妖力を定着させて無いって知った途端に変な薬を飲ませて来たの……」


白狼の言っていた言葉は紛れもなく真実なのだとしっかりと裏付けされた。

どうしてそうも酷い事が出来るのか、理解が出来ない。


「政府側が敵なのは、これで明らかになったね」


ミタマの言葉に、今後が危惧きぐされる。


「今日はもうあの怪物達も殲滅せんめつしたしー?問題ないとして、次、だよねぇ」


七曲がうーん、と考え込む。


「元より、あの大天狗の封印を守る為の戦いじゃったじゃろう?それがあの通り、解かれて、春秋とやらに使役され……もはや戦う意味はあるまい?」


雪音も小首をかしげた。


「そんな単純な話しでは無いだろう。例えばだが、この大天狗の封印を解かない為、というのが表向きで、陽動だとしたらどうだ?大天狗に目を向けている間に、神々から力を得るのが本来の目的。あわよくば、やとった人間を使い何かの実験をしている可能性も捨て切れない」


九重の推測に、みんなが黙り込んだ。

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